手折られる花

しりうすさん〈しりかぴ工房〉

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第40話 水曜日の恋人はいじわる④ それって自粛中って言わないからっ!!

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「セックスをやり直すんだよっ!!」


オリオン座が輝く清浄な空の下で、バカが集まる底辺高校の希望と先生方に言われている俺が不浄極まりないことを口走っている。

三月に入ったのに全然解けていない雪が覆いつくす校庭の横の道で男子高校生が二人モメている。

6時も過ぎて辺りは暗くなり、誰も居ない校庭だけど誰かに聞かれたら相当マズい発言だ、聞かれたら平和な高校生活が瞬殺で終わってもおかしくはない。

底辺高校とは言え生徒会長の俺(結城友也)が校庭で叫んで良い言葉ではないのは分かっている、分かってはいるが俺の水曜日の恋人こと書記(三田遼太)が言わせたいみたいだから従っているだけだ。

チャコールの大きなマフラーの両端を握り、学校へ戻ろうと引っ張ると遼太がワザとらしく「えっ?何?どうした?」と言いながら散歩から帰りたくない柴犬みたいに抵抗してきた。


動作も言動も手が込んでいる…、強硬な態度で誘われるは嫌というコトか?


ああ、頭に血が上り過ぎていた、遼太は分かりやすい態度と言動を好む、ここは可愛らしく誘うのが正しいのか?

2時間にも及ぶエロい行為の末に俺だけ射精させて、自分はイかないという暴挙を遂行し、俺からの誘われ待ちをしていて、尚且つ可愛らしく誘って欲しいとは欲張り過ぎだろ?


可愛らしくなんて無理っ!、俺のブライトが許さないっ!

でも、言わなくては…、飽きられるは困る…。

遼太がいるから退屈な日々が少し楽しいと思っていたのだから。


何を言おうかと口ごもる俺に「帰らなくていいのか?友也、変だぞ?」と遼太が聞いて来るけど、俺から言わせてみれば2時間もエロいことしてイかないで帰ろうとするお前が変だ。

俺より頭一つ以上背が高い遼太、見上げた先にある顔は普通に心配している様子。


…ああ、最悪、俺を普通に心配している。

「罠」でも「誘われ待ち」でもなければ「飽きた」しかない。


8ヶ月も付き合ってヤることは全てヤってるし、この間の冬休みには三日間泊りがけでヤリまくっているし、三学期が始まってからは週イチでヤってるし、ヤリ過ぎて俺でイけなくなっているのか。

俺は俺で遼太が勝手にヤってくれるから、特に自分からは何もしていない。

エロにも努力義務が必要?エロ動画でも見て学んだ方が良いのか?

思案に暮れ大人しくなった俺に遼太が近づき聞いてきた。


「ところで、セックスをやり直すって何?」

「そのままの意味、遼太がイクまでやろうかと思った。」

「ぶっ!!それか、結構こだわるよな、友也は。」

「結果が欲しいからだ。」

「結果…?、まあ…なんていうか今は自粛中なんだ俺。」

「自粛中、何だ、それ?」


夜になりつつある校庭、遼太の話に耳を傾けると以前から入院していた父親の容態がかなり悪いらしい、それで願掛けも兼ねて自分が遊ぶことや楽しむことを自粛しているとしんみりと話しだした。

そうだな、身内が病気になると、自分の楽しみを控えたくなる気持ちになるのは、なんとなく分かる。


って、おいっっっ!!

2時間もエロいコトしておいて自粛って変だろ?

自分が射精しないことって自粛に当たるのか?


ツッコミが口から出掛かったけど、垂れ目でイマイチ表情が読みにくい遼太は寂し気に見えた。

嘘か本当か分からない、適当なコトを言っているのかもしれないけど、彼がそう言うのなら信じようと思った。

せっかく門限の6時30分に間に合いそうだったのに、もう絶対に間に合わない。

そういうことなら早く言えよ、別に俺はエロいコトなんかしなくてもいいんだから。

次に来るバスで帰ると家に着くのは7時、せっかく伸びた髪ともお別れか。

頭をクシャクシャ掻き、校門前にあるバス停に歩きながら遼太に言った。


「お父さんが落ち着くまで、水曜日は来なくていいよ。」

「なんで?」

「自粛中なんだろ?病院にお見舞いに行きなよ。」

「まあ…、そうなんだが…、でも水曜は行く。」

「来なくていいよ。」

「行くって。」


「来るな」「行く」を言い合って遼太が「友也が待ってるから行く」と言うから「遼太が来るから待っているんだ!」と言い返した言い合いが止まった。

「待っているから行く」、「来るから待つ」、どちらが悪いのか、それとも悪くないのか。


誰も居ないバス停でバスを待つ俺達、言い合って少し気まずい、なんだかんだで俺は彼にキツイことしか言っていない。

人付き合いが上手くなく、愛想も無くて孤立気味な俺を遼太は根気よく付き合ってくれている。

俺の横に立つ遼太の手が目に入る、手でも握って「言い過ぎた、ゴメン。」とか言うべきか?

辺りに誰も居ないこと確認して、後ろからそっと手を伸ばすと遼太に「水曜日は行くから、待ってろよ。」と呟かれて手を引っ込めた。


自粛中なのに何をしに来るのだろう?

でも来るのなら、待ってあげてもいい。

来週は坊主頭で待っててやるよ。

抱き着いて来たら剃りたてのゾリゾリ、チクチクした頭を擦り付けて強制自粛にしてやるっ!!


悪いコトを考えながらバスを待っていると、通りがかったタクシーを止めて俺を押し込ん出きて、二人でタクシーに乗って帰ることになった、そして奇跡的に門限に間に合ってしまった。

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