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第3章 ブルドー公爵領編

第44話 キノコ採取

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 ---翌朝---

 シエナは朝食も野菜だったことにがっかりしていたが、野菜中心の食事というのは思ったより身体が健康になる感じがして悪くなかった。

「シリウス、シエナ、二人共このあと一緒に森に出ない?」

 朝食を終え部屋に戻ろうとしていた俺とシエナに、後ろからソニアが声をかけた。

「行く行く!」
「うん、いいよ!」

 俺たちもちょうどすることがなくて困っていたところだったし、即答でついていくことにした。

…………
………
……


 そしてやってきました。森!

「はい!もう結界の外よ!」

 振り返ってみると、結界を抜けても村は普通に見えている。
 やっぱり、ジーフ山と同じで一度結界の中に入ると外に出ても見えるんだな。

「それで、ソニア。今日は森に何か探しもの?」

 出発前に大きなリュックを渡された俺とシエナ。

「うん、今日はキノコ採取よ!」

 そう言ってソニアはポケットから何かの欠片を取り出した。

 俺とシエナは二人揃ってそれを鑑定した。

名称:鬼面茸
効果:強毒をもつ。
相場:1200R

「……鬼面茸?」
「……毒キノコ?」

 俺とシエナはなんでそんなものを探すのか分からずお互いに顔を見合わせた。

「……驚いたわ……こんな欠片で名前だけじゃなくて効果まで分かるのねぇ。そのとおりよ!この鬼面茸、そのまま食べると人なんかころっと死んじゃうくらい強い毒を持ってるんだけど、加工するといい薬にもなるのよ」
 
「へぇ~」

 シエナは感心して頷いていた。

「でも、村のエルフの皆さんなら回復魔法で大体の怪我や病気は治っちゃうんじゃない?」

 俺はあえて薬に頼る理由がわからずソニアに訊ねた。

「怪我や病気ならね……でも、例えば老化による関節の痛みとか、衰弱とかは魔法じゃどうしようもないのよ。あの村は大婆様を筆頭に結構長生きのエルフが多いからね」

 確かにそういうことの治療には魔法は効果がない。

「なるほど!そういうことなら早速その鬼面茸ってのを探しに行こう!ところでそんな欠片だけだと全体像がわからないんだけど、どんな形でどんなところに生えてるの?」

「見た目はそのまんま魔族の顔みたいなキノコよ。ほんとに1個が人の頭くらいあるし、見た目も特徴的だから見つけたらすぐに分かるわ!……とは言っても、なかなか見つからないんだけど見つかるのは森の深い所、暗くてジメジメした場所が多いわね」

 この辺も十分森の奥深くだと思うんだけど……鬼面茸には興味があるし行ってみるか。

 なんせあんなサイコロ味くらいの欠片で1200Rの値がつくようなキノコだ、本体の価値は計り知れない。

 そんなわけで俺たちはソニアの先導に従って歩き出した。

…………
………
……


 歩くこと30分…

「あ~、お肉食べたい……」

 シエナがぼやき始めた。

「フフフ、シエナは野菜より肉のほうが好きなのね」

「うん……あ、でも村で出してもらってる食事がまずいってわけじゃないのよ!!」

 シエナが焦ってフォローに入った。こんな光景はなかなかお目にかかれるものじゃない。

「ソニアはその……俺たちが肉を食べることに対して抵抗とかないの?」

 これから一緒に旅をするわけだし、俺たちが肉を食べることももちろん目にするだろう。

「え?別にないわよ?」

 ………え?そうなの!?

「だって……好きなものは人それぞれでしょ?私は食べたいと思わないけど、それは私の話だし」
 
 まぁ!すっごい割り切り力!

「ほんと!?よかったぁ~」

 シエナは心底ホッとしたように胸をなでおろした。

「フフフ、シエナったらそんなこと気にしてたの?」

「そりゃするでしょ~、あぁ良かった!もうこの先お肉が食べられないかと思ってたよぉ」

 シエナにとっては死活問題だったということだ。でも、コレで最大の懸念は取り除かれた。

「さ!そろそろ、森の一番深い場所よ。この辺は陽の光も殆ど入らないから、足元に気をつけて進んでね」

 ちょうどその時、周りからカサカサと何かの這うような音が聞こえた。

「……今の何?」

「あぁ……あれね……昆虫以上魔物以下って言うの?出るのよ、この辺……でもあれかなり大きいわね」

 そして、スケボーほどの大きさもある黒いアイツが姿を表した。

「うげ……」
「なに!?この気持ち悪い生き物!?」

 シエナなんか始めてみたというのに本能がこいつの気持ち悪さを感じ取っているようだ。

「エルフは『悪魔の虫』って呼んでるわ……別に襲ってきたりはしないんだけど、なんか気持ち悪いのよね」

 ゴ◯ブリという最高におぞましい名前を付けた前世の先人たちには遠く及ばないが、悪魔の虫というのもまぁ悪くない。アイツはそういう類の生き物だ。

「アイツは生き物の死骸しか食べないの……普通は指先くらいの大きさなんだけど、食べたのが魔物だとその魔力を吸収してだんだん大きくなるのよ……」

 なん……だと……あいつが成長するなんて悪夢でしかない……

 しかし……よくよく思い出してみると俺、第4話あたりでまだ小さいアイツを1匹殺ってるな……それが俺の初のレベルアップだった。どうりで、その後他の虫を倒してもレベルが上がらなかったわけだ。こいつはきっと魔物寄りの何かなんだろう。

「ガーーー!」

 シエナは我慢できずブレスを吐いてアイツを消し飛ばしてしまった。

「ふぅ、こんなのが出てくるなんて聞いてないわよ!さっさと鬼面茸ってのを探して帰りましょ!」

「そ、そうね」

 ソニアもシエナに同意した。

「あ、ちょっと待ってて」

 俺は小さな石ころを3つ拾うとミスリルの筆で魔法陣を書いた。

「はい、これ!魔力を流せば明るくなるから」

 俺が作ったのはエストレーラのヘッドライトにも使っているフラッシュの応用魔法が組み込まれた魔道具、要するに懐中電灯だ。

「へぇ……便利ねぇ」

 ソニアは魔道具を初めて見たらしく、ライトをつけたり切ったりしては驚いていた。

 とにかく、これでだいぶ鬼面茸も探しやすくなったはずだし、さっさと片付けてこの場を離れたい。

「あ、あった!コレよ!」

 ソニアがすぐに1個目を見つけたが……なるほどこれはなかなか特徴的だ。ほんとに角の生えた人の頭みたいな形をしていた。

 しかし思った通り、こんな気味の悪いキノコがなんと10万Rの超高級品だった。

「ふ~ん、変な匂いね。でも、この匂いならきっと探せるわ」

 そしてシエナは鬼面茸の匂いを嗅ぐと、1人で森の中を探索し始めた。

---そして1時間後---

「ふぅ~大漁大漁」

 ソニアは結局最初の1個だけ、俺は0個。そしてシエナは8個もカバンに詰め込んで帰ってきた。

「す、すごいわね……シエナ」

「えっへん!こういうのは得意なのよ!」

 俺たちは合計9個の鬼面茸を3つずつリュックにしまってもと来た道を引き返し始めた。

「二人共ありがとう……これだけあれば数年分の薬が作っておけるわ」

「いや、俺は何もしてないよ」

「ううん、あの魔道具があって本当に助かったわ。今までは精霊の光を使ったりもしてたけど……それでもかなり苦労して歩き回ってたから」

「そっか、役に立てたなら良かったよ」 

「うん、ありがと!冒険、ってこんな感じなんだね!」

 ソニアが嬉しそうに笑った。

「この辺なら日当たりもいいし、ちょっと一休みしない?」

 そして森の最深部を抜けて少しひらけたところでソニアがそう言って地面に風呂敷を敷いた。さらにカバンから水筒を取り出す。

「ハーブティ入れてきたの、みんなで飲もうと思って」

 ……なんて女子力高いんだ!一方のシエナはと言うと……

「わーい!んじゃ、ちょっと待ってて!」

 といってすごい速さで何処かに走っていってしまった。

「………シエナ、元気すぎて引いてない?」

 俺は心から申し訳なさそうにソニアに訊ねた。

「大丈夫よ!昨日の夜、大婆様からジルソレイユ様の話も聞かされたしね」

 そう話すソニアは本当に楽しそうだった。

「そう言えば……今日は来ないなぁ……」

 しかしすぐ表情を変えて、何かを探すように辺りをキョロキョロと見回し始めた。

「来ないなぁ……って何が?」

「えっと……笑わないで聞いてくれる?」

「え?……うん、分かった」

「私ね、小さい頃から動物たちと会話ができるのよ。だからこの森の動物たちはみんな私の友達なの。いつもなら私が森に入ると小鳥や野ウサギたちが寄ってくるんだけど、今日は二人がいるから気を使って出てこないのかなって思って……」

 ……日本の飲み屋で、特に合コンの場なんかでこんなこと言われた日には「こいつ頭大丈夫か?」って思うところだけど、不思議とソニアにそんな印象は持たなかった。

「動物と話せるって、すごいね!」

「うん、二人が最初に森に入ってきたことも小鳥が教えてくれたのよ?」

 ソニアはそう言うとコップにハーブティを注いで俺に渡してくれた。
 
「あ、ありがと」

 俺はコップを受け取るとゆっくりとハーブティを味わった。

「うん、美味い!」

「ほんと!?良かったぁ」 

 ソニアは俺の反応を見てとても嬉しそうだ。なんかこうしてると、可愛い彼女とピクニックにでも来ているようだ。

 そして、もう一口味わおうとコップのハーブティを口に含んだところで……

「ブフッ!!!」

 盛大に吹いてしまった。

「シリウス!?どうしたの!?」

 ソニアは慌てて俺の手や口元をタオルで拭いてくれていたが、やがて俺の視線が遠くを見ていることに気づくとおそるおそるそっちに振り返った。

「っ!?」

 ソニアの顔がみるみる青ざめていく。視線の先にはシエナがいた。

「シリウス!さっきからこの野ウサギがずっとついてきてたからちょっと捕まえてきたわよ!さぁ食べましょ!」

 シエナは右手で野ウサギの首根っこを掴んでこっちに向かって歩いてきていた。ウサギは無駄な抵抗だけど、必死にもがいてバタバタと暴れている。

「ね、活きが良いでしょ!?絶対に美味しいはずよ!」

 シエナは満面の笑み、かたやソニアは絶望で目に涙を浮かべている。

「ソ……ソニア、念のため確認なんだけど、あの野ウサギって……」

「ピョ、ピョンちゃん……」

「ソニアの友達?」

 ソニアはコクコクと頷いて俺を見つめた。

「……シエナ。それは食べちゃダメなやつだ」

「え~!?なんでよ!こんなに美味しそうなのに!」

 そして俺はシエナに事情を話して聞かせた。

「……ソニア、ごめんなさい」

「ううん、私こそ、さっき二人が肉を食べるのはなんとも思わないって言ったばかりなのに……ごめんなさい」

 二人はさっきからお互いに謝りっぱなしだ。食文化の違いってこういう時なかなか難しいな。

「まぁ、友達なんだったらしょうが無いよ。シエナにはエストレーラに俺が密かに積んでおいた極上肉の燻製をあげるから、それで我慢して?」

「燻製!?うん!ありがとう!!」

 いざという時のためにストックしておいた非常食をシエナに与えることでこの場のバランスをなんとか取りもつ事ができた。

「シリウス……ありがとう」

 ソニアは無事に解放された野ウサギのピョンちゃんを抱きながら涙目で俺に頭を下げた。

「良いって良いって!それぞれ育ってきた環境が違うわけだし、こういうのはこれからもバランス取っていこう」

 きっとこういうことはこれから先も起こるだろうし、今日はいい勉強になったということで。


 そして俺たちはソニアの淹れたハーブティを楽しんで、3人仲良く村へと帰った。
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