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第2章 ハズール内乱編
第37話 復興支援
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まさか王都に来て2日目にクーデターに巻き込まれるとは思わなかったけど、オスカーも魔族グレムも両方片付いたしこれで王都もしばらくは安泰だろう。
この日の夕食は王城の大広間(だった場所)での立食パーティとなった。本当なら管弦楽団とかが壇上にいて真ん中で舞踏会が始まっちゃったりするような、そんな大広間だったのだが……
なんということでしょう……シエナ(匠)の技によって必要な壁が取り除かれ、天井も半分が失われました。
見上げれば満天の星空、そして前方には広大なシティビューが広がっています。
とまぁ劇的ビフォー・ア◯ターしたわけであります。
それにパーティと言っても参加者は俺とシエナ、ララさんとアルフレドさん、それからカストル国王の5人だけど……
なんせアルフレドさんの屋敷が全焼したもんだから俺たち4人はホームレスなわけだ。
「王さま、ほんとゴメンね?」
シエナはカストルになぜかタメ口……なんということでしょう。
「いえ……我が一族は龍族に大恩を受けております。こ、このくらいなんということもありません……」
カストルさん、若干涙目な気がするんだけど、気のせいだよね?
「大恩って……そう言えばカストル国王はカノープスさんの子孫に当たるんでしたっけ?」
ジルさんが一体どんな大恩を与えてくれたのかまったく想像がつかないが、確か初代国王のカノープス・ハズ-リウスと一緒にしばらく旅をして回ってたんだっけ?
「……ん?」
国王の表情が若干曇った気がするが……この人俺のこと嫌いなんだろうか?
「こ、こらこらシリウス君……カノープスさん、なんて知り合いのおじさんみたいに呼んじゃダメよ!」
ララさんにたしなめられた。
「まぁ……初代様とは血縁にあたるな。もう300年も昔の方では有るが」
「龍族と一緒に各地を旅して回ったって話、本当なんですか?」
「あぁ……少しは勉強しているようだな。確かに、そう伝えられている。そして龍族の力を借りながらこの地の魔族を一掃し今の平和なハズール王国を築かれたのだ」
カストルは初代国王カノープスに相当な敬意を持っているようだ。
「えっと……その龍族って……ジルソレイユさんとか言ったりします?」
ジルさんの名前を出した途端、カストル国王の表情が激変した。
「な、なぜその名を知っておる!?龍族に決して迷惑をかけぬよう、我々王家の人間しかその名は知らされておらんのだぞ!?」
「なぜって……本人に会ったことが有るから、ですかね?」
「あっあ、あ、ああ会ったことがあるだと!?どこでだ!?言え!」
カストル国王、口から泡を飛ばしてすごい勢いだ……
「シリウス君、カストル陛下は大の「初代様ファン」なのよ」
ララさんが小声で教えてくれた。
あぁ~そういう感じか………口が滑ったみたいだ。俺はアルフレドさんに助けを求めようと視線を送ったが、アルフレドさんよりも早くシエナが口を開いた。口いっぱいに肉を頬張りながら……
「もぐもぐ……うん?シリウス今パパのこと話してた?」
あー、言ってしまった……
「パ、パパ…!?シエナ殿は今「パパ」とおっしゃったか!?」
カストル国王の目がこれ以上無いほど見開かれている。
「カストル……まぁここまで話が広がってしまったからには話すがジーフ山の山頂の龍族…その「御方」こそがジルソレイユ様じゃ」
国王はすでに半分白目を剥いている。
「ななな、なんだと!?お前なぜそれを早く言わん!」
「……だって口止めされとったんじゃもん」
いや、もうすぐ70のじいさんがそんな口調で喋っても可愛くないからね?
「ぐぬぬ……私もあの時何としてもお前たちに加わっておくべきであったわ。だが、そうすると……シエナ殿は初代様の恩人のご息女……同じ竜の一族に2度も国を救われるとは……」
国王は感慨深そうになにやらブツブツとつぶやいている。この人本当に初代様が好きなんだなぁ……
「あ!シリウス!あれ見せてあげなよ!」
「……アレ?」
俺は一瞬なんのことか分からず首を傾げた。
「んもう!その初代さんの持ってた筆よ!」
「あぁ!そう言えばアレ、カノープスさんのだったね!」
そう言って俺は胸ポケットにそのまま突っ込んでいたミスリルの筆を取り出して、カストル国王に見せた。
「こ、こ、こ、これが本当に初代様の筆なのか!?」
「えぇ、一応ジルさんからはそう聞いてます」
カストル国王は食い入るように筆に見入っている。感極まって目が潤んできちゃってるよ……
「あ、あの……その筆はさすがに差し上げられないんですが、もし良ければ今度会いに行きます?今でも2,3年に1度は顔を出してますので」
「なんと!!もちろんだ!次に行くのはいつだ!?」
カストル国王は俺の肩を激しく揺すった。とりあえず、まだ決まってないけど、最後に行ったのは去年だしあと1年くらいしたら行くと思いますとだけ伝えてやっと開放してもらえた。
カストル国王の俺への対応がその後かなり良くなった。
…………
………
……
…
翌日。俺たちは再び大広間に集まっていた。集まったと言っても、昨晩は王城の破壊されてない客間に泊めてもらったのでそんな大した移動はしていない。
シエナは広間に来るなり、給仕の女性からパンやハムをもらって頬張っている。まったく……恥ずかしいからやめてもらいたいもんだね!
「アルフレド……復興の資金と資源の確保だが……」
「うむ……金はなんとかなるとして、問題は資源じゃの。これだけ街にも城にも損害が出たんじゃ石材も木材も相当な量が必要じゃろ」
二人が今後の復興について難しそうな顔で話しているのが聞こえた。
「あの……昨日は色々と良くしてもらいましたし、城のことはシエナのせいでもあるのでお手伝いしますよ?」
「ん?……しかし……」
どうやら国王は国を救った俺たちを働かせるのが忍びないらしい。
「大丈夫です!荷物運びにもってこいのスゴイの持ってきてるんで!」
俺だって丸太をわざわざ手で運ぶのは嫌だし、ここは愛車の力を借りよう。
「まずは木材を集めてくるので荷車を大量に用意してもらえますか?それから荷を積む労働力も!」
「荷車?そんなもの大量にあっても仕方なかろう……労働力は兵士を使えばなんとでもなるが」
「大丈夫ですって!木材は任せてください!では俺とシエナは先に平原の向こうの雑木林に一滴をちょっと切ってきますんで、兵隊さんたちに荷車持ってこさせてくださいね!駆け足で!」
俺はそう言うとパンを頬張るシエナの首根っこを掴んで外に引っ張った。
「ひょっと、しいうす(ちょっと、シリウス)!?」
引きづられながらもパンを頬張り続けるとは……
「シエナ!エストレーラのところまで競走するよ!」
俺はシエナを焚き付ける魔法のワードを出してシエナの注意をパンから引き離した。
「んもぐ…競走!?やるやる!ヨーイドン!」
勝手に合図までしてシエナは勝手に走り出した。俺も、後ろから追いかける。
そして数キロ先の雑木林まで、あっという間に到着した。
「おぉ~、2日ぶりのわが愛車!」
俺は隠してあったエストレーラの無事を確かめるとそのボディに思わず抱きついた。
「シリウス……なんか気持ち悪い……」
シエナには白い目で見られたがそんなことは関係ない。この数日間ずっと心配だったのだから。
「じゃ、ここら一帯の木を伐採しましょー!枝とかも要らないから払っておいてね!」
「おー!」
………
……
…
そして10分もしないうちに辺り一帯が丸ハゲになってしまった。
「ふっふ~ん、私のほうが1本多かったみたいね!」
シエナは積み上げた丸太の上で勝ち誇ったように俺を見下ろしていた。
「く……くそぉ……」
最初はちょっとした遊びのつもりだったけどやってるうちについ熱くなることってあるよね?今回のはまさにそれ!
とかそんなことをやっているうちに大量の荷車が列をなしてこちらにやってきた。ざっと100台はあるだろうか、それを押している兵士たちは国王の命令に忠実で、全員駆け足だ。鎧まで着て、そりゃ大変だったろう……
俺とシエナはやってきた兵士たちに回復魔法を掛け、スタミナも回復してあげた。
「お、おぉぉ……」
疲労が嘘のように消えた兵士たちから感嘆の声が上がる。
「では、早速ですがここの丸太を全部荷車に積んでくださいね!俺たちは何往復かして来るので、遅れないようにがんばってください!」
シエナは勝ったご褒美だと言って既に助手席で休んでいる。俺は荷車を10台ほどロープで繋いでエストレーラの後ろのフックに先端を引っ掛けた。
そして、しばらくするとやっと荷車10台分の丸太が積み込まれた。
「じゃぁ、またすぐ戻ってくるので同じように10台分お願いしますねー!」
といって俺はエストレーラのアクセルを踏み込んだ。さすがは我が愛車……何も積んでいないときとほとんど変わらない走り出しだ。あまり速度を上げると積んでる丸太が落ちるので、程々に加減しながら俺たちは王都に向かった。
王都の門をくぐるとさらに速度を落とし、安全運転で王城を目指した。途中、エストレーラを見る人がみんな驚きで固まってたのがなかなか面白かった。
跳ね橋の前まで行くと俺は窓から顔を出し、衛兵に開門を促した。衛兵も最初はびっくりしていたが、俺のことは昨日の一件でよく知っているので、すんなり通してくれた。そしてエストレーラが城門をくぐり、そのまま門を閉めようとした兵士たちが、その後ろに続く10台の荷車と山のような木材を二度見三度見してやはり固まった。
◇◆◇◆◇
「アルフレド、シリウスは一体何をしに行ったんだ?」
「分からんのぅ。しかしあの子が任せろと言うからには、任せるしかなかろうて……」
次はシリウスがどんな破天荒をやってのけるのか、想像もつかない二人はただその場で待つしか無かった。
カストルはシリウスに言われたとおり、王城と詰め所の動ける兵士たちに命令を出し、街中の荷車を借り上げさせると兵士たちとともに雑木林に送った。
待つこと数十分……城門の辺りから複数の馬車が通るような、ガタガタという音が聞こえてきた。
「ははは……まさかね」
国王は、ありえないと思いつつも広間の入り口に目を向ける。すると道を塞いでいた瓦礫の山が両端に吹き飛び、その奥から見たことも無い巨大な箱が現れた。しかも後ろに丸太の山を積んで……
「嘘でしょ!?」
ララさんの絶叫が広間にこだました。
◇◆◇◆◇
「とうちゃーく!」
「いえーい!」
俺とシエナはハイテンションで城の坂を登っていた。
広間に入るには瓦礫が邪魔だったので、エアバリアをちょっと強めに張って吹き飛ばした。
すると目の前にまた固まっている人が……3人。
俺はエストレーラを3人の前につけて、シエナとそろって車を降りた。
「まずは一回目!まだまだ持ってくるんでよろしくお願いします!」
そして俺は荷車を切り離してもう一度エストレーラに乗り込もうとしたけど、なぜかララさんに止められた。
「ちょ、ちょ、ちょちょっと待ちなさいシリウス君……この箱は一体なに?」
「箱っ!?……ララさん、俺は悲しいですよ。この美しい流線型のフォルムを言うに事欠いて「箱」だなんて……」
俺は大げさに肩をすくめてみせた。
「シリウス君……これは、魔道具なのか?」
「あー、はい!昔四人で乗った荷車があったでしょ?あれを9年間かけて改良した結果がこれです!」
そして俺は3人にエストレーラがいかに素晴らしいかを延々と語って聞かせた。
「んー……ダメだ。全然分かんない……」
けどみんなには大して伝わってないみたいでちょっと悲しかった。
「まぁそんなわけで、本気出せば王都から俺の実家まで1日で帰れる代物です。パワーもありますから、このくらいの丸太はどってことないですよ!」
「ですよ!!」
なぜかシエナもドヤってるが、シエナはエストレーラの素晴らしさのわかる貴重な人材だし、そのくらいは大目に見よう。
「では、兵隊のみなさんが次の丸太を積んでくれてるはずですのでそろそろ戻りますね!今度の丸太は市街地に降ろすのでそっちに荷受けの人員を送っておいてください!」
そんな感じで俺はその後も城と市街地に交代で丸太を運んでいった。一日で運ぶ量にしてはかなりいい方だと思う。明日は荒野に行って大きめの岩でも集めてこよう。
~~~~~
目の前で丸太が山積みになっていく光景を見ながらカストルがボソリと口を開いた。
「………アルフレド、お前アレがどれほどのものか見当がつくか?」
「アレ、というのはシリウス君のことかの?それともあの「えすとれーら」というやつかの?」
「……どちらもだ」
「うぅむ……例えるなら、彼は一人で世界を落とせるほどの存在、あの乗り物は一台で国が落とせるほどの存在といったところかの……いやぁ、あの子がいい子に育ってくれてよかったわい」
「ホント!シリウス君がオスカーみたいになっちゃったら世界はお終いでしたね……」
「案ずることはない。あの子は高潔で名高い龍族が認めた子じゃ」
「はぁ………」
カストルの嘆きとも安堵とも取れる深いため息の音が、いつの間にか丸太で覆い尽くされた大広間に静かに広がった。
この日の夕食は王城の大広間(だった場所)での立食パーティとなった。本当なら管弦楽団とかが壇上にいて真ん中で舞踏会が始まっちゃったりするような、そんな大広間だったのだが……
なんということでしょう……シエナ(匠)の技によって必要な壁が取り除かれ、天井も半分が失われました。
見上げれば満天の星空、そして前方には広大なシティビューが広がっています。
とまぁ劇的ビフォー・ア◯ターしたわけであります。
それにパーティと言っても参加者は俺とシエナ、ララさんとアルフレドさん、それからカストル国王の5人だけど……
なんせアルフレドさんの屋敷が全焼したもんだから俺たち4人はホームレスなわけだ。
「王さま、ほんとゴメンね?」
シエナはカストルになぜかタメ口……なんということでしょう。
「いえ……我が一族は龍族に大恩を受けております。こ、このくらいなんということもありません……」
カストルさん、若干涙目な気がするんだけど、気のせいだよね?
「大恩って……そう言えばカストル国王はカノープスさんの子孫に当たるんでしたっけ?」
ジルさんが一体どんな大恩を与えてくれたのかまったく想像がつかないが、確か初代国王のカノープス・ハズ-リウスと一緒にしばらく旅をして回ってたんだっけ?
「……ん?」
国王の表情が若干曇った気がするが……この人俺のこと嫌いなんだろうか?
「こ、こらこらシリウス君……カノープスさん、なんて知り合いのおじさんみたいに呼んじゃダメよ!」
ララさんにたしなめられた。
「まぁ……初代様とは血縁にあたるな。もう300年も昔の方では有るが」
「龍族と一緒に各地を旅して回ったって話、本当なんですか?」
「あぁ……少しは勉強しているようだな。確かに、そう伝えられている。そして龍族の力を借りながらこの地の魔族を一掃し今の平和なハズール王国を築かれたのだ」
カストルは初代国王カノープスに相当な敬意を持っているようだ。
「えっと……その龍族って……ジルソレイユさんとか言ったりします?」
ジルさんの名前を出した途端、カストル国王の表情が激変した。
「な、なぜその名を知っておる!?龍族に決して迷惑をかけぬよう、我々王家の人間しかその名は知らされておらんのだぞ!?」
「なぜって……本人に会ったことが有るから、ですかね?」
「あっあ、あ、ああ会ったことがあるだと!?どこでだ!?言え!」
カストル国王、口から泡を飛ばしてすごい勢いだ……
「シリウス君、カストル陛下は大の「初代様ファン」なのよ」
ララさんが小声で教えてくれた。
あぁ~そういう感じか………口が滑ったみたいだ。俺はアルフレドさんに助けを求めようと視線を送ったが、アルフレドさんよりも早くシエナが口を開いた。口いっぱいに肉を頬張りながら……
「もぐもぐ……うん?シリウス今パパのこと話してた?」
あー、言ってしまった……
「パ、パパ…!?シエナ殿は今「パパ」とおっしゃったか!?」
カストル国王の目がこれ以上無いほど見開かれている。
「カストル……まぁここまで話が広がってしまったからには話すがジーフ山の山頂の龍族…その「御方」こそがジルソレイユ様じゃ」
国王はすでに半分白目を剥いている。
「ななな、なんだと!?お前なぜそれを早く言わん!」
「……だって口止めされとったんじゃもん」
いや、もうすぐ70のじいさんがそんな口調で喋っても可愛くないからね?
「ぐぬぬ……私もあの時何としてもお前たちに加わっておくべきであったわ。だが、そうすると……シエナ殿は初代様の恩人のご息女……同じ竜の一族に2度も国を救われるとは……」
国王は感慨深そうになにやらブツブツとつぶやいている。この人本当に初代様が好きなんだなぁ……
「あ!シリウス!あれ見せてあげなよ!」
「……アレ?」
俺は一瞬なんのことか分からず首を傾げた。
「んもう!その初代さんの持ってた筆よ!」
「あぁ!そう言えばアレ、カノープスさんのだったね!」
そう言って俺は胸ポケットにそのまま突っ込んでいたミスリルの筆を取り出して、カストル国王に見せた。
「こ、こ、こ、これが本当に初代様の筆なのか!?」
「えぇ、一応ジルさんからはそう聞いてます」
カストル国王は食い入るように筆に見入っている。感極まって目が潤んできちゃってるよ……
「あ、あの……その筆はさすがに差し上げられないんですが、もし良ければ今度会いに行きます?今でも2,3年に1度は顔を出してますので」
「なんと!!もちろんだ!次に行くのはいつだ!?」
カストル国王は俺の肩を激しく揺すった。とりあえず、まだ決まってないけど、最後に行ったのは去年だしあと1年くらいしたら行くと思いますとだけ伝えてやっと開放してもらえた。
カストル国王の俺への対応がその後かなり良くなった。
…………
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……
…
翌日。俺たちは再び大広間に集まっていた。集まったと言っても、昨晩は王城の破壊されてない客間に泊めてもらったのでそんな大した移動はしていない。
シエナは広間に来るなり、給仕の女性からパンやハムをもらって頬張っている。まったく……恥ずかしいからやめてもらいたいもんだね!
「アルフレド……復興の資金と資源の確保だが……」
「うむ……金はなんとかなるとして、問題は資源じゃの。これだけ街にも城にも損害が出たんじゃ石材も木材も相当な量が必要じゃろ」
二人が今後の復興について難しそうな顔で話しているのが聞こえた。
「あの……昨日は色々と良くしてもらいましたし、城のことはシエナのせいでもあるのでお手伝いしますよ?」
「ん?……しかし……」
どうやら国王は国を救った俺たちを働かせるのが忍びないらしい。
「大丈夫です!荷物運びにもってこいのスゴイの持ってきてるんで!」
俺だって丸太をわざわざ手で運ぶのは嫌だし、ここは愛車の力を借りよう。
「まずは木材を集めてくるので荷車を大量に用意してもらえますか?それから荷を積む労働力も!」
「荷車?そんなもの大量にあっても仕方なかろう……労働力は兵士を使えばなんとでもなるが」
「大丈夫ですって!木材は任せてください!では俺とシエナは先に平原の向こうの雑木林に一滴をちょっと切ってきますんで、兵隊さんたちに荷車持ってこさせてくださいね!駆け足で!」
俺はそう言うとパンを頬張るシエナの首根っこを掴んで外に引っ張った。
「ひょっと、しいうす(ちょっと、シリウス)!?」
引きづられながらもパンを頬張り続けるとは……
「シエナ!エストレーラのところまで競走するよ!」
俺はシエナを焚き付ける魔法のワードを出してシエナの注意をパンから引き離した。
「んもぐ…競走!?やるやる!ヨーイドン!」
勝手に合図までしてシエナは勝手に走り出した。俺も、後ろから追いかける。
そして数キロ先の雑木林まで、あっという間に到着した。
「おぉ~、2日ぶりのわが愛車!」
俺は隠してあったエストレーラの無事を確かめるとそのボディに思わず抱きついた。
「シリウス……なんか気持ち悪い……」
シエナには白い目で見られたがそんなことは関係ない。この数日間ずっと心配だったのだから。
「じゃ、ここら一帯の木を伐採しましょー!枝とかも要らないから払っておいてね!」
「おー!」
………
……
…
そして10分もしないうちに辺り一帯が丸ハゲになってしまった。
「ふっふ~ん、私のほうが1本多かったみたいね!」
シエナは積み上げた丸太の上で勝ち誇ったように俺を見下ろしていた。
「く……くそぉ……」
最初はちょっとした遊びのつもりだったけどやってるうちについ熱くなることってあるよね?今回のはまさにそれ!
とかそんなことをやっているうちに大量の荷車が列をなしてこちらにやってきた。ざっと100台はあるだろうか、それを押している兵士たちは国王の命令に忠実で、全員駆け足だ。鎧まで着て、そりゃ大変だったろう……
俺とシエナはやってきた兵士たちに回復魔法を掛け、スタミナも回復してあげた。
「お、おぉぉ……」
疲労が嘘のように消えた兵士たちから感嘆の声が上がる。
「では、早速ですがここの丸太を全部荷車に積んでくださいね!俺たちは何往復かして来るので、遅れないようにがんばってください!」
シエナは勝ったご褒美だと言って既に助手席で休んでいる。俺は荷車を10台ほどロープで繋いでエストレーラの後ろのフックに先端を引っ掛けた。
そして、しばらくするとやっと荷車10台分の丸太が積み込まれた。
「じゃぁ、またすぐ戻ってくるので同じように10台分お願いしますねー!」
といって俺はエストレーラのアクセルを踏み込んだ。さすがは我が愛車……何も積んでいないときとほとんど変わらない走り出しだ。あまり速度を上げると積んでる丸太が落ちるので、程々に加減しながら俺たちは王都に向かった。
王都の門をくぐるとさらに速度を落とし、安全運転で王城を目指した。途中、エストレーラを見る人がみんな驚きで固まってたのがなかなか面白かった。
跳ね橋の前まで行くと俺は窓から顔を出し、衛兵に開門を促した。衛兵も最初はびっくりしていたが、俺のことは昨日の一件でよく知っているので、すんなり通してくれた。そしてエストレーラが城門をくぐり、そのまま門を閉めようとした兵士たちが、その後ろに続く10台の荷車と山のような木材を二度見三度見してやはり固まった。
◇◆◇◆◇
「アルフレド、シリウスは一体何をしに行ったんだ?」
「分からんのぅ。しかしあの子が任せろと言うからには、任せるしかなかろうて……」
次はシリウスがどんな破天荒をやってのけるのか、想像もつかない二人はただその場で待つしか無かった。
カストルはシリウスに言われたとおり、王城と詰め所の動ける兵士たちに命令を出し、街中の荷車を借り上げさせると兵士たちとともに雑木林に送った。
待つこと数十分……城門の辺りから複数の馬車が通るような、ガタガタという音が聞こえてきた。
「ははは……まさかね」
国王は、ありえないと思いつつも広間の入り口に目を向ける。すると道を塞いでいた瓦礫の山が両端に吹き飛び、その奥から見たことも無い巨大な箱が現れた。しかも後ろに丸太の山を積んで……
「嘘でしょ!?」
ララさんの絶叫が広間にこだました。
◇◆◇◆◇
「とうちゃーく!」
「いえーい!」
俺とシエナはハイテンションで城の坂を登っていた。
広間に入るには瓦礫が邪魔だったので、エアバリアをちょっと強めに張って吹き飛ばした。
すると目の前にまた固まっている人が……3人。
俺はエストレーラを3人の前につけて、シエナとそろって車を降りた。
「まずは一回目!まだまだ持ってくるんでよろしくお願いします!」
そして俺は荷車を切り離してもう一度エストレーラに乗り込もうとしたけど、なぜかララさんに止められた。
「ちょ、ちょ、ちょちょっと待ちなさいシリウス君……この箱は一体なに?」
「箱っ!?……ララさん、俺は悲しいですよ。この美しい流線型のフォルムを言うに事欠いて「箱」だなんて……」
俺は大げさに肩をすくめてみせた。
「シリウス君……これは、魔道具なのか?」
「あー、はい!昔四人で乗った荷車があったでしょ?あれを9年間かけて改良した結果がこれです!」
そして俺は3人にエストレーラがいかに素晴らしいかを延々と語って聞かせた。
「んー……ダメだ。全然分かんない……」
けどみんなには大して伝わってないみたいでちょっと悲しかった。
「まぁそんなわけで、本気出せば王都から俺の実家まで1日で帰れる代物です。パワーもありますから、このくらいの丸太はどってことないですよ!」
「ですよ!!」
なぜかシエナもドヤってるが、シエナはエストレーラの素晴らしさのわかる貴重な人材だし、そのくらいは大目に見よう。
「では、兵隊のみなさんが次の丸太を積んでくれてるはずですのでそろそろ戻りますね!今度の丸太は市街地に降ろすのでそっちに荷受けの人員を送っておいてください!」
そんな感じで俺はその後も城と市街地に交代で丸太を運んでいった。一日で運ぶ量にしてはかなりいい方だと思う。明日は荒野に行って大きめの岩でも集めてこよう。
~~~~~
目の前で丸太が山積みになっていく光景を見ながらカストルがボソリと口を開いた。
「………アルフレド、お前アレがどれほどのものか見当がつくか?」
「アレ、というのはシリウス君のことかの?それともあの「えすとれーら」というやつかの?」
「……どちらもだ」
「うぅむ……例えるなら、彼は一人で世界を落とせるほどの存在、あの乗り物は一台で国が落とせるほどの存在といったところかの……いやぁ、あの子がいい子に育ってくれてよかったわい」
「ホント!シリウス君がオスカーみたいになっちゃったら世界はお終いでしたね……」
「案ずることはない。あの子は高潔で名高い龍族が認めた子じゃ」
「はぁ………」
カストルの嘆きとも安堵とも取れる深いため息の音が、いつの間にか丸太で覆い尽くされた大広間に静かに広がった。
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