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第四話 今後の方針

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---クライスラー視点 エクセンタスの街---

ガトー殿のところから帰る間、民兵…もとい街の男たちは口々に「神」だ「奇跡」だと大はしゃぎだった。

街についたあと、俺は自分の財布から大銀貨を3枚取り出してバンドムに渡し、同行してくれた男たちに酒でも振る舞ってやるように伝えて別れると俺はまっすぐ父上と兄上のいる執務室へと向かった。

「……で、そのガトーなる者が馬一頭に大金貨を10枚も出してきたというのか?いったいそいつは何者だ?」

父上は俺が受け取ってきた大金貨の一枚をつまみ上げ、それをいぶかしそうに観察している。
俺だってこの大金貨が偽物ではないか何度も調べたが、これは間違いなく本物だったさ。

「それが妙なことを話しておりまして……彼は自らを『十王』だ、などどいうのです」

「なに?十王だと?……プッ……ガハハハハハ!クライスラー、そいつは自分のことを九王大戦の英雄たちと同列だとでも言いたいつもりか?ハハハ、こりゃ傑作だ!」

兄上がここまで大声で笑うのも珍しいが、あの場にいなければそんな風に思うのももっともだ。

「いやしかし、ガトー殿の力は本物です。突然転移魔法で我らの前に現れたかと思えば、矢を顔面で受けて傷一つなく、またたく間に密林の中に道を作り出し……およそ常人にできることではないでしょう!それに彼の部下は身の丈より大きな巨槌をまるで棒きれでも振り回すかのように片手で振り回し、たったの一撃で馬の頭を叩き潰してしまうほどの猛者なのです」

そうだ、俺たちはあの光景を目の当たりにしてきたから分かるが、あの場にいた俺たち全員があの少女一人に瞬殺されてもおかしくなかったのだ。
ガトー殿が止めなければ、きっと抵抗する間もなく全滅していただろう……それくらいの実力差だった。
 
「ハンッ、幻術にでもかけられてたんじゃないのか?どうせハッタリに決まってるぜ」

しかし、兄上は俺の話をまるで信じちゃくれない。

「ふむ……まぁ真偽はどうあれ、だ。そやつは突然現れ、我らがエクセンタス領の一部を私有地と主張している。それは紛れもない事実である以上、賊と同じではないか?早々に立ち退いてもらわねばならんだろう」

父グラハム・エクセンタスは生真面目な男だ。
民からも慕われているし、レイデンス王国への忠義も厚い。
そんな父上にとって、王から与えられている自領の中に反乱分子がいるのはどうにも気に食わないのだろう。

気持ちは分かる、分かるが……

「父上、お言葉ですがガトー殿を武力で屈服させようなどとはゆめゆめお考えになられませんように」

「ぬぬぬぬ……この馬鹿者が!恥を知れ!良いか、我がエクセンタス男爵家の土地はレイデンス王より賜りしものなのだ。それを訳の分からぬ輩が自分のものだなどと不敬にも程があるということがお前には分からんのか!そのような者はどんな手を使ってもつまみ出さねば王に顔向けできぬであろうが!」

案の定、父上の額には青筋が何本も浮かび、口角泡を飛ばして怒り狂ってしまった。
こうなることは分かっていたが、それでも俺は父上を止めなければならない。

「いや、ですが父上……」

「やかましい!お前はもう下がっておれ!後のことは私とガレオンで決める!」

俺は最後まで必死に説得を試みたがついに父上の考えを変えることはできなかった。

---グロリアフォルミカ 最下層---

「アハハハハ!ガトー様ったら顔で矢を止めちゃうんだもん、面白すぎですよ!あの時のあいつらの驚いた顔ったら……ププッ……アハハハハ」

アリエルは最下層に来てからずっとこの調子で思い出し笑いを繰り返しては一人で悶絶している。

「ま、まぁ……最初はユーモアを見せておこうと思ったのだがな」

ここまで笑われると俺としてもあれが素だったとは言い出しにくいな……

「さ、さて話を戻すが……奴らの話が本当だとすれば、私達は300年程未来に飛ばされたということになるな」

「『十王』という言葉にもあまりピンときていない様子でした。時代とともに語られなくなったということですかな。だとすれば不敬も甚だしい」

「ふむ……まぁ私自身それほど昔から肩書を気にはしてはいなかったが、忘れ去られるのも寂しいものだな」

とはいえ、本当に300年も経っていたのたら仕方のないことだ。俺だって幕末の志士たちがどれだけ勇敢だったか聞かされても「へぇ」くらいにしか思わない。

「この世界でもガトー様の偉大さを広く知らしめるべき」

アリスがやっと口を開いたかと思えば何やら凄いことを言っている。

「私もアリスに賛成いたします。もしかすると陛下のお知り合いもこの世界に移ってきているやもしれません。蟲王の名が轟けば、きっと皆様陛下のもとに集まってくるでしょう」

なるほどアリストテレスの言うことには一理あるが……そんなに上手くいくだろうか。

「ここはひとつ、妾たちでキラーアントの帝国を打ち立てるのはどうじゃろう?」

「ほう、面白そうであるな!まず何から始める?」

アントニオがすぐに反応し、話はどんどん膨らんでいく。

「あー……アリストテレス、お前に仕切りを任せてよいか?」

このまま放っておくと間違いなく世界征服とか言い出すやつだ。ここは一番マトモな思考をしていそうなアリストテレスにチェックさせながら進めていくのがいいだろう。

「はっ!必ずや世界のすべてを陛下のものにしてご覧に入れましょう」

「いや待て!第一の目的はそこではないぞ?」

「フフッ……心得ております。表向きは『陛下のお知り合いを探す』ということにしておきますとも。抜かりなく進めてまいりますのでご安心ください」

はぁ……全員ダメそうだ。しかし国作りなんてやったことないし、俺一人の手には余る。だからまず、基本は従者たちに計画の立案と実行を任せ、要所の意思決定だけしっかり俺がやっていく形でやってみよう。

「わ、分かった……ただし大事なことはちゃんと相談するように」

「はっ!」

「うむ、では私は一足先に部屋に戻る。あとはまずお前たちで計画の概要を作っておいてくれ」

そう言い残して俺は蟲王の間の更に奥にある自室へと向かった。



部屋につくなり、ただの飾りとして配置してあっただけのベッドに飛び込む。

「くぅぅぅぅぅっ……」

疲労が体から吹き出し、なんとも情けない声が漏れる。

これは本当に、いわゆる『異世界転移』というやつなのか?それともただの夢オチなのか?

本当に転移だったとして、元の世界に帰ることはできるのか?

……いや、そもそも帰る必要があるのか?

毎日遅くまで仕事に明け暮れて、帰宅してからどっぷり浸かっていたグラン・オルトナの世界に来たんだ。

わざわざ元の世界に戻る必要が……果たしてあるのか?

独身で恋人もいない、実家の家族とも年に一回電話で話すかどうか、友人なんてグラン・オルトナの中にしかいなかった。

もし、これが夢オチじゃなくて現実なのだとしたら、こっちで蟲王ガトーとして生きたっていいんじゃないのか?

夢オチだったら仕方ない。残念だけど、明日からまた今までどおりの日々に戻るだけだ。

まぁ、まずは寝よう。朝になればこれが夢なのかどうかはっきりするはずだから……
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