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第62話 弱気をくじく者、滅されん
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「焼きそば美味しそー!」
「夕奈、そんなはしゃいで落とすなよ?」
「わかってるわかって……あ、あぶな……」
夕奈は砂に足を取られて転びそうになるが、何とか気合いで踏ん張って耐えた。
瑞希はそんな彼女に呆れたように笑いつつ、後頭部をコツンと叩いて「お前なぁ……」と叱る。
「今怪我したら、夏休み悪い思い出で…………ん?」
しかし、瑞希の視線は夕奈の後方の景色を捉え、その表情が険しくなった。
唯斗もそちらを見てみれば、荷物から少し離れた場所で花音が見知らぬ男に腕を引かれているのが視界に映る。
「……ナンパか」
周りに風花たちが居ないところから察するに、彼女は荷物の監視役を任されていたのだろう。
周りの人も気付いていないはずは無いが、巻き込まれたくないのかわざとそっぽを向いているようだった。
「……ちっ」
瑞希は小さく舌打ちをすると、持っていたアメリカンドッグと交換で先程使わなかった割り箸を受け取り、早足で花音の元へと向かう。
そして、ある程度男たちに近づいたところで、彼女はダーツの要領で割り箸を投げつけた。
それによってこちらに気が付いたナンパ2人組は、さぞ不満そうな目で瑞希を睨みつけてくる。
「あー、悪い。ゴミ箱かと思ったらゴミそのものか」
「あ?お前、いきなりなんだよ」
「こっちはただ声掛けてるだけだろうが!」
「……泣かせておいてそれはないだろ。今なら許してやるから、さっさと消えてくれないか?」
瑞希の言葉に頭に血を上らせた男たちは、口々に文句を言うと、掴んでいた花音の腕を強く引っ張った。
その痛みで表情が歪んだのを見た瑞希は、我慢ならないとばかりに一歩踏み出すが、夕奈が間に割り込んで彼女を止める。
「手を上げたらダメだかんね」
「だ、だからって花音が……!」
「私に任せて」
「……おう」
渋々引き下がる瑞希に背中を向けた夕奈は、ナンパ男の方を向くと、胸を押えながら一度深呼吸で気持ちを落ち着けて口を開いた。
「ナンパするなら私にしなよ!」
「「……は?」」
突然の申し出に男たちは揃って首を傾げる。そりゃそうだ、いきなりこんなことを言われれば誰だってこの反応になるだろう。
「嫌がってる人より、いいって言ってる私の方が良くない?そんなにカノちゃんがお気になの?」
「いや……そういうわけじゃ……」
「確かに顔は可愛いけど……なんか、あんたは無理だわ……」
「……あ?」
男たちの正直な感想を受けて、夕奈の声に怒りの色が混じる。しかし、表情は変わらないまま。
唯斗からすれば、彼らの動物的本能による危機察知能力は称えたいレベルではあるが、花音を傷つけている罪があるので、むしろ餌食になってもらいたいくらいだ。
「あ、そっか♪男なのに夕奈ちゃんに怖気付いちゃってるんだー?」
「はぁ?! そういうわけじゃねーよ!」
「筋肉は鍛えてるみたいだけど、心がへにゃへにゃのままじゃ雑魚同然だよねー」
「黙ってりゃ好き放題言いやがって……」
「カノちゃんをナンパなんてしてる暇があるなら、その根性から鍛え直しなよ」
「口だけ達者の女のくせに──────」
男がそう口にした瞬間、夕奈の拳が彼の鼻に触れるスレスレで止まった。先程までとは目の色が変わった彼女は、キッと男を睨みつけながら言う。
「口だけかどうか、試してみる?」
「お、おい!手を挙げるのはなしだって自分で……」
「安心して、拳で勝負するわけじゃないから」
夕奈はそう言うと、突き出していた拳を右へ移動させてピンと人差し指を立てた。その先にあったものは───────────。
「ビーチバレーで勝負だよ!」
誰でも使えるビーチバレ用のコートだった。
「「……は?」」
「夕奈、そんなはしゃいで落とすなよ?」
「わかってるわかって……あ、あぶな……」
夕奈は砂に足を取られて転びそうになるが、何とか気合いで踏ん張って耐えた。
瑞希はそんな彼女に呆れたように笑いつつ、後頭部をコツンと叩いて「お前なぁ……」と叱る。
「今怪我したら、夏休み悪い思い出で…………ん?」
しかし、瑞希の視線は夕奈の後方の景色を捉え、その表情が険しくなった。
唯斗もそちらを見てみれば、荷物から少し離れた場所で花音が見知らぬ男に腕を引かれているのが視界に映る。
「……ナンパか」
周りに風花たちが居ないところから察するに、彼女は荷物の監視役を任されていたのだろう。
周りの人も気付いていないはずは無いが、巻き込まれたくないのかわざとそっぽを向いているようだった。
「……ちっ」
瑞希は小さく舌打ちをすると、持っていたアメリカンドッグと交換で先程使わなかった割り箸を受け取り、早足で花音の元へと向かう。
そして、ある程度男たちに近づいたところで、彼女はダーツの要領で割り箸を投げつけた。
それによってこちらに気が付いたナンパ2人組は、さぞ不満そうな目で瑞希を睨みつけてくる。
「あー、悪い。ゴミ箱かと思ったらゴミそのものか」
「あ?お前、いきなりなんだよ」
「こっちはただ声掛けてるだけだろうが!」
「……泣かせておいてそれはないだろ。今なら許してやるから、さっさと消えてくれないか?」
瑞希の言葉に頭に血を上らせた男たちは、口々に文句を言うと、掴んでいた花音の腕を強く引っ張った。
その痛みで表情が歪んだのを見た瑞希は、我慢ならないとばかりに一歩踏み出すが、夕奈が間に割り込んで彼女を止める。
「手を上げたらダメだかんね」
「だ、だからって花音が……!」
「私に任せて」
「……おう」
渋々引き下がる瑞希に背中を向けた夕奈は、ナンパ男の方を向くと、胸を押えながら一度深呼吸で気持ちを落ち着けて口を開いた。
「ナンパするなら私にしなよ!」
「「……は?」」
突然の申し出に男たちは揃って首を傾げる。そりゃそうだ、いきなりこんなことを言われれば誰だってこの反応になるだろう。
「嫌がってる人より、いいって言ってる私の方が良くない?そんなにカノちゃんがお気になの?」
「いや……そういうわけじゃ……」
「確かに顔は可愛いけど……なんか、あんたは無理だわ……」
「……あ?」
男たちの正直な感想を受けて、夕奈の声に怒りの色が混じる。しかし、表情は変わらないまま。
唯斗からすれば、彼らの動物的本能による危機察知能力は称えたいレベルではあるが、花音を傷つけている罪があるので、むしろ餌食になってもらいたいくらいだ。
「あ、そっか♪男なのに夕奈ちゃんに怖気付いちゃってるんだー?」
「はぁ?! そういうわけじゃねーよ!」
「筋肉は鍛えてるみたいだけど、心がへにゃへにゃのままじゃ雑魚同然だよねー」
「黙ってりゃ好き放題言いやがって……」
「カノちゃんをナンパなんてしてる暇があるなら、その根性から鍛え直しなよ」
「口だけ達者の女のくせに──────」
男がそう口にした瞬間、夕奈の拳が彼の鼻に触れるスレスレで止まった。先程までとは目の色が変わった彼女は、キッと男を睨みつけながら言う。
「口だけかどうか、試してみる?」
「お、おい!手を挙げるのはなしだって自分で……」
「安心して、拳で勝負するわけじゃないから」
夕奈はそう言うと、突き出していた拳を右へ移動させてピンと人差し指を立てた。その先にあったものは───────────。
「ビーチバレーで勝負だよ!」
誰でも使えるビーチバレ用のコートだった。
「「……は?」」
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