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第44話 甘え上手は三文の得
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近くのファミレスで昼食を済ませた後、花音が「せっかく来たので何か持って帰りたいです!」と言うので、ボーリング場の横にあるゲームセンターに足を運んだ。
唯斗が「それならこれあげるよ」と半分溶けた氷の入った袋を差し出したら、「もっと可愛いのがいいです……」と断られた。『何か』と言ってもなんでもいいわけでは無いらしい。
「すごいです!色々あります!」
花音はゲームセンターに入るなり、すぐに目の前の台へと駆け寄る。可愛らしい犬のぬいぐるみが取れる台だ。
子供のように目をキラキラさせた彼女は、カバンから財布を取り出して100円を投入しようとしたものの、何かを思い出したように踏み止まった。
「しょ、衝動プレイは注意ですぅ……」
花音は犬のぬいぐるみをじっと見つめると、「うーん」と首を捻り、やがて百円玉を財布へカムバックさせる。
「ごめんなさい、あなたを取るのはやめておきますね」
心做しか悲しそうな顔に見えてくるぬいぐるみにぺこりとお辞儀してから、彼女は4人のところへとことこと帰ってきた。
「カノ、偉いじゃないか。前に言ったこと覚えてたんだな」
「はい! 迷惑かけちゃったので……」
唯斗が二人の会話を聞きながら、なんのことを言っているのかさっぱりだという顔をしていると、風花が耳打ちで教えてくれる。
「前にみんなで遊びに来た時、カノちゃんがぬいぐるみを取るために帰りの電車賃まで使っちゃったんだよ~」
「だから、あんなに悩んでたんだね」
「結局、瑞希は別の日に1人で足を運んで、花音にプレゼントしてあげたらしいけどね~」
「なんだかんだ甘いんだよね~」と笑う彼女の言葉に、唯斗は瑞希の横顔へと視線を移した。
そう言えば、確かに瑞希は花音のことをずっと気にかけている気がする。誰かのことを気にし続けたことの無い唯斗にとって、それはあまりに信じ難いことなのだ。
「優しいね、瑞希は」
「それに花音も甘え上手なんだよね~♪」
「友達と言うより姉妹みたい」
「わかる」
横で話を聞いていたこまるも、スマホをいじりながら首を縦に振った。この感想を抱くのは、唯斗だけでは無いらしい。
「よし、じゃあ帰りの電車賃は預かっとくから、あとは好きに遊んでこい」
「はいです!」
瑞希は小さながま口財布に花音から預かった500円を入れ、それを自分のバッグの中へと仕舞う。
これで何があっても家へ帰れなくなることはなくなった花音は、ケージから解き放たれたコウモリのようにあちこちへと歩き回り始めた。
特にやることもない唯斗は、風花たちと一緒にのんびり見て回る。花音について回る瑞希はちょっと大変そうだ。
「上、見てくる」
一通り見終わった頃、こまるはそう言ってエスカレーターで上の階へ向かった。聞いたところ、2階にはアニメグッズが売っているらしい。
こまるは日常系なんか好きそうだなぁと心の中で呟きつつ、唯斗は風花に言われるがまま近くのベンチに腰かけた。
「頭、もう痛くないの~?」
「もうほとんど大丈夫」
「ちょっとは痛いの~?」
「腫れてるからね」
風花は「そっかそっか~」と頷くと、唯斗から「袋かして~」と氷水を受け取る。
そしてスカートの裾を引っ張ってピシッと伸ばすと、こちらを見ながら膝をポンポンと叩いた。
「どうしたの?」
「膝、貸してあげるよ~♪」
「なんで?」
「暇だからね~」
突然の申し出に、さすがの唯斗も即答は出来ない。人に膝を貸してもらったことなんて今までなかったし、理由もよく分からないから。しかし……。
「寝心地いいと思うよ~?」
「じゃあ、遠慮なく」
唯斗はすぐさま側頭部を太ももに付け、体から力を抜いた。睡眠についてチラつかされれば、もはや断る理由もないからね。
「そ、そっち向きなんだ~?」
「ダメだった?」
「ダメというか恥ずかしいというか……」
目の前には風花のお腹がある。逆がいいと言うのなら唯斗はそうしても良かったが、彼女も曖昧な返事をしているし、目を閉じてしまえばどちらでも同じことだろう。
何より彼はもう動きたくないという気分になってしまっていた。今さらこの贅沢な幸せを中断するつもりはない。
「高さもちょうどいいし、すごく気持ちいいよ」
「よ、よかった~♪」
風花はぎこちなく笑うと、さっき渡した袋を唯斗の後頭部に当ててくれる。おかげで残っていた痛みも和らいできた。
下からはポカポカとした温もりを、上からはひんやりと冷たさを感じて変な気分だけど、これはこれで悪くないかもしれない。
唯斗は沈み込むような柔らかい枕に頬ずりをしつつ、疲れが促す快眠へ向けてゆっくりと落ちていった。
「すぅ……すぅ……」
「ほ、本当に寝ちゃったの~?」
風花はほんのりと頬を赤らめながら、早くも寝息を立て始めた唯斗の寝顔をじっと見つめる。
瑞希がしていたようにそっと頭を撫でてみると、自分の中で何かグッと来るものがあるのが分かった。
「これ、癖になっちゃいそうかも~」
一人そう呟いて頬を緩めた風花は、花音たちが戻ってくるまで母性をくすぐられ続けたそうな。
唯斗が「それならこれあげるよ」と半分溶けた氷の入った袋を差し出したら、「もっと可愛いのがいいです……」と断られた。『何か』と言ってもなんでもいいわけでは無いらしい。
「すごいです!色々あります!」
花音はゲームセンターに入るなり、すぐに目の前の台へと駆け寄る。可愛らしい犬のぬいぐるみが取れる台だ。
子供のように目をキラキラさせた彼女は、カバンから財布を取り出して100円を投入しようとしたものの、何かを思い出したように踏み止まった。
「しょ、衝動プレイは注意ですぅ……」
花音は犬のぬいぐるみをじっと見つめると、「うーん」と首を捻り、やがて百円玉を財布へカムバックさせる。
「ごめんなさい、あなたを取るのはやめておきますね」
心做しか悲しそうな顔に見えてくるぬいぐるみにぺこりとお辞儀してから、彼女は4人のところへとことこと帰ってきた。
「カノ、偉いじゃないか。前に言ったこと覚えてたんだな」
「はい! 迷惑かけちゃったので……」
唯斗が二人の会話を聞きながら、なんのことを言っているのかさっぱりだという顔をしていると、風花が耳打ちで教えてくれる。
「前にみんなで遊びに来た時、カノちゃんがぬいぐるみを取るために帰りの電車賃まで使っちゃったんだよ~」
「だから、あんなに悩んでたんだね」
「結局、瑞希は別の日に1人で足を運んで、花音にプレゼントしてあげたらしいけどね~」
「なんだかんだ甘いんだよね~」と笑う彼女の言葉に、唯斗は瑞希の横顔へと視線を移した。
そう言えば、確かに瑞希は花音のことをずっと気にかけている気がする。誰かのことを気にし続けたことの無い唯斗にとって、それはあまりに信じ難いことなのだ。
「優しいね、瑞希は」
「それに花音も甘え上手なんだよね~♪」
「友達と言うより姉妹みたい」
「わかる」
横で話を聞いていたこまるも、スマホをいじりながら首を縦に振った。この感想を抱くのは、唯斗だけでは無いらしい。
「よし、じゃあ帰りの電車賃は預かっとくから、あとは好きに遊んでこい」
「はいです!」
瑞希は小さながま口財布に花音から預かった500円を入れ、それを自分のバッグの中へと仕舞う。
これで何があっても家へ帰れなくなることはなくなった花音は、ケージから解き放たれたコウモリのようにあちこちへと歩き回り始めた。
特にやることもない唯斗は、風花たちと一緒にのんびり見て回る。花音について回る瑞希はちょっと大変そうだ。
「上、見てくる」
一通り見終わった頃、こまるはそう言ってエスカレーターで上の階へ向かった。聞いたところ、2階にはアニメグッズが売っているらしい。
こまるは日常系なんか好きそうだなぁと心の中で呟きつつ、唯斗は風花に言われるがまま近くのベンチに腰かけた。
「頭、もう痛くないの~?」
「もうほとんど大丈夫」
「ちょっとは痛いの~?」
「腫れてるからね」
風花は「そっかそっか~」と頷くと、唯斗から「袋かして~」と氷水を受け取る。
そしてスカートの裾を引っ張ってピシッと伸ばすと、こちらを見ながら膝をポンポンと叩いた。
「どうしたの?」
「膝、貸してあげるよ~♪」
「なんで?」
「暇だからね~」
突然の申し出に、さすがの唯斗も即答は出来ない。人に膝を貸してもらったことなんて今までなかったし、理由もよく分からないから。しかし……。
「寝心地いいと思うよ~?」
「じゃあ、遠慮なく」
唯斗はすぐさま側頭部を太ももに付け、体から力を抜いた。睡眠についてチラつかされれば、もはや断る理由もないからね。
「そ、そっち向きなんだ~?」
「ダメだった?」
「ダメというか恥ずかしいというか……」
目の前には風花のお腹がある。逆がいいと言うのなら唯斗はそうしても良かったが、彼女も曖昧な返事をしているし、目を閉じてしまえばどちらでも同じことだろう。
何より彼はもう動きたくないという気分になってしまっていた。今さらこの贅沢な幸せを中断するつもりはない。
「高さもちょうどいいし、すごく気持ちいいよ」
「よ、よかった~♪」
風花はぎこちなく笑うと、さっき渡した袋を唯斗の後頭部に当ててくれる。おかげで残っていた痛みも和らいできた。
下からはポカポカとした温もりを、上からはひんやりと冷たさを感じて変な気分だけど、これはこれで悪くないかもしれない。
唯斗は沈み込むような柔らかい枕に頬ずりをしつつ、疲れが促す快眠へ向けてゆっくりと落ちていった。
「すぅ……すぅ……」
「ほ、本当に寝ちゃったの~?」
風花はほんのりと頬を赤らめながら、早くも寝息を立て始めた唯斗の寝顔をじっと見つめる。
瑞希がしていたようにそっと頭を撫でてみると、自分の中で何かグッと来るものがあるのが分かった。
「これ、癖になっちゃいそうかも~」
一人そう呟いて頬を緩めた風花は、花音たちが戻ってくるまで母性をくすぐられ続けたそうな。
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