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第31話 羞恥心は煽るな危険
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「ねえ、お兄ちゃん?」
「なに?」
「師匠、次はいつ来る?」
「一生来ないんじゃないかな。ていうか、来させないし」
唯斗がそう言うと、天音がぷぅっと頬を膨らませた。どうやら怒っているらしい。
「私は来て欲しいよ!すぐに呼んで!」
「わかったわかった。その代わり、夕奈が僕には絡んでこないように見張っててね」
「了解つかまつる!」
ピシッと敬礼のポーズをして見せる彼女を微笑ましく思いつつ、唯斗は「ところで……」と彼女の背後の空きっぱなしになった扉へと視線を送る。
「わざわざお風呂に突入してきてまで言うことじゃないよね?」
==================================
「――――というわけで、今日暇だよね。来て」
「人を暇人みたいにいいおって……」
「え、用事あるの?」
「無いよ!無いけどプライドってもんがあるの!」
「そんな役に立たないもの持ってるから、ゲームで負けただけで子供みたいに騒ぐんだよ」
「ぐふっ……」
夕奈は苦しそうに胸を押さえると、「そんなに言うなら行ってやんないもんねー!」と舌を出してきた。
「そっか。まあ、来て欲しいのは僕じゃないし」
「……」
「天音になんて言えばいいかな」
「うっ……」
「師匠は会いたくないらしいよって言うしかないか」
「ちょ、会いたくないなんて言ってないでしょ?! 嘘つきはシーフのスターティングだよ!」
何やら意味不明なことを言いながら文句をつけてくる夕奈を無視して、唯斗は頬杖をついて窓の外を眺めながら、「ごめんね、天音」と呟く。
その一言で良心が悲鳴をあげたらしい。彼女はイスから立ち上がって近付いてくると、バンッと両手で机を叩いた。
「唯斗君の家、行くから!」
教室内がしんと静まり返る。中には「え?」と驚いている人もいるし、近くの人とコソコソ何か話している人もいる。
男の子の家に行くと堂々宣言した夕奈は、後から恥ずかしくなってきたのか、「ちがっ、妹!妹ちゃんに会いに行くんだよね!あ、あはは!」と言い訳をした後、どうにもならなかった空気に耐えられなくなってベランダへと飛び出した。
「いっそこのこと死んでやるー!」
「夕奈、早まるなって!」
「危ないよ~?」
「あほか」
真っ赤な顔で手すりから身を乗り出そうとする夕奈を、3人が慌てて止めに入る。
まさか、家に来るのを拒んだだけでここまですると思っていなかった唯斗は、夕奈の真の恐ろしさを理解した。
自分のせいで飛び降りられても困るし、今回は天音のためにも勘弁してあげよう。
「夕奈」
「……なに?」
「家、来ていいよ」
「うわぁぁぁぁ!今すぐ消えてやるぅぅぅぅぅ!」
まるで発作のように再度飛び降りようとする夕奈を、風花が手すりから引きずり下ろし、こまるが膝裏に蹴りを入れて膝カックン、最後に瑞希が手刀を叩き込んで眠らせた。
「みんな、騒がせて悪かった」
「もう解決したからね~」
「散って」
3人の働きにより夕奈の発作は鎮められ、野次馬たちもそれぞれの場所へと戻っていく。唯斗からすれば目を疑うような光景なのだが、瑞希らの動きを見るに慣れているらしい。
今回の件に限らず、夕奈が暴走した時はこうやって鎮めていたのだろうか。興味がなかったから知らなかったけど。
「カノ、そっちを持ってくれるか」
「はいです!」
野次馬をかき分けて走ってきた花音が夕奈の足を持ち、瑞希が脇の辺りを支えて教室内へと運び込まれてくる。
「小田原、お前だけは煽るようなことを言わないでくれ。いつか本気で飛び降りかねないからな」
「……まあ、考えとくよ」
隣に力なく座らせられた抜け殻のような夕奈を横目で見ながら、やっぱりやばい人だなと再認識したことは言うまでもない。
それにしても、来たらダメと言ったら飛び降りようとする。来てもいいと言っても飛び降りようとする。
まるでどこにあるか分からない地雷を避けろと言われているような理不尽さだ。
「……うへへ、もう食べられないよぉ……」
唯斗は何やら幸せそうな夢を見ている夕奈を一瞥してから、再度外へと視線を向け直す。
そこには、ついさっきまでの騒がしさが嘘だったかのように、平穏な青と白の世界が広がっていた。
「なに?」
「師匠、次はいつ来る?」
「一生来ないんじゃないかな。ていうか、来させないし」
唯斗がそう言うと、天音がぷぅっと頬を膨らませた。どうやら怒っているらしい。
「私は来て欲しいよ!すぐに呼んで!」
「わかったわかった。その代わり、夕奈が僕には絡んでこないように見張っててね」
「了解つかまつる!」
ピシッと敬礼のポーズをして見せる彼女を微笑ましく思いつつ、唯斗は「ところで……」と彼女の背後の空きっぱなしになった扉へと視線を送る。
「わざわざお風呂に突入してきてまで言うことじゃないよね?」
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「――――というわけで、今日暇だよね。来て」
「人を暇人みたいにいいおって……」
「え、用事あるの?」
「無いよ!無いけどプライドってもんがあるの!」
「そんな役に立たないもの持ってるから、ゲームで負けただけで子供みたいに騒ぐんだよ」
「ぐふっ……」
夕奈は苦しそうに胸を押さえると、「そんなに言うなら行ってやんないもんねー!」と舌を出してきた。
「そっか。まあ、来て欲しいのは僕じゃないし」
「……」
「天音になんて言えばいいかな」
「うっ……」
「師匠は会いたくないらしいよって言うしかないか」
「ちょ、会いたくないなんて言ってないでしょ?! 嘘つきはシーフのスターティングだよ!」
何やら意味不明なことを言いながら文句をつけてくる夕奈を無視して、唯斗は頬杖をついて窓の外を眺めながら、「ごめんね、天音」と呟く。
その一言で良心が悲鳴をあげたらしい。彼女はイスから立ち上がって近付いてくると、バンッと両手で机を叩いた。
「唯斗君の家、行くから!」
教室内がしんと静まり返る。中には「え?」と驚いている人もいるし、近くの人とコソコソ何か話している人もいる。
男の子の家に行くと堂々宣言した夕奈は、後から恥ずかしくなってきたのか、「ちがっ、妹!妹ちゃんに会いに行くんだよね!あ、あはは!」と言い訳をした後、どうにもならなかった空気に耐えられなくなってベランダへと飛び出した。
「いっそこのこと死んでやるー!」
「夕奈、早まるなって!」
「危ないよ~?」
「あほか」
真っ赤な顔で手すりから身を乗り出そうとする夕奈を、3人が慌てて止めに入る。
まさか、家に来るのを拒んだだけでここまですると思っていなかった唯斗は、夕奈の真の恐ろしさを理解した。
自分のせいで飛び降りられても困るし、今回は天音のためにも勘弁してあげよう。
「夕奈」
「……なに?」
「家、来ていいよ」
「うわぁぁぁぁ!今すぐ消えてやるぅぅぅぅぅ!」
まるで発作のように再度飛び降りようとする夕奈を、風花が手すりから引きずり下ろし、こまるが膝裏に蹴りを入れて膝カックン、最後に瑞希が手刀を叩き込んで眠らせた。
「みんな、騒がせて悪かった」
「もう解決したからね~」
「散って」
3人の働きにより夕奈の発作は鎮められ、野次馬たちもそれぞれの場所へと戻っていく。唯斗からすれば目を疑うような光景なのだが、瑞希らの動きを見るに慣れているらしい。
今回の件に限らず、夕奈が暴走した時はこうやって鎮めていたのだろうか。興味がなかったから知らなかったけど。
「カノ、そっちを持ってくれるか」
「はいです!」
野次馬をかき分けて走ってきた花音が夕奈の足を持ち、瑞希が脇の辺りを支えて教室内へと運び込まれてくる。
「小田原、お前だけは煽るようなことを言わないでくれ。いつか本気で飛び降りかねないからな」
「……まあ、考えとくよ」
隣に力なく座らせられた抜け殻のような夕奈を横目で見ながら、やっぱりやばい人だなと再認識したことは言うまでもない。
それにしても、来たらダメと言ったら飛び降りようとする。来てもいいと言っても飛び降りようとする。
まるでどこにあるか分からない地雷を避けろと言われているような理不尽さだ。
「……うへへ、もう食べられないよぉ……」
唯斗は何やら幸せそうな夢を見ている夕奈を一瞥してから、再度外へと視線を向け直す。
そこには、ついさっきまでの騒がしさが嘘だったかのように、平穏な青と白の世界が広がっていた。
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