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第1部 入校編
第1部最終話 幸せの代償
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第1部最終話 幸せの代償
あの壮絶な戦いから1週間が経過した――。
「幸近兄さん、朝だよ? 起きないと学校遅刻するよ」
朝7時、いつもと同じく妹に起こされた。
いつものやかましい声とは打って変わって、静かに優しく起こしてくれる妹の姿がそこにはあった。
「おはようテン……あと5分だけ……」
「ちゃんと起こさないと私が夏鈴に怒られちゃうんだから! ねぇ起きて幸近兄さん!」
なんとか目覚めて1階に降りると、けたたましく走り回る2人の子供の姿があった。
「あ! 幸兄起きたんだ! キャッチボールしよーぜ!」
「違うのですタケマル! 幸兄様はわたしとお絵描きするのです~」
「おはよう2人とも、俺は学校だからどっちも出来んぞ」
「えー! 幸兄のケチ!」
「タケマル! わがままはダメなのです!」
「お前らも来週から学校なんだから、準備しっかりしとけよ? 勉強ついていけなくなるぞ」
「「はーい」」
何故この3人が俺の家にいるのかと言うと、俺の家は道場があるくらいなので、そこそこ広いのだ。そこにほぼ夏鈴と2人暮らしな訳で、生活費も親父が毎月かなりの額を振り込んでくれている。子供3人くらいなら養える余裕があったから、俺はこの子たちを家で引き取ることにしたのだ。
そんなこんなで俺たちはいきなり5人兄弟となったのだ。もちろん夏鈴も快諾してくれて、家族が増えたことを喜んでくれていた。
「あ! お兄ちゃんおはよ! ご飯先食べてて!」
「いただきまーす」
俺は子供達にウチで生活する為の条件として、学校へ行くことを提示した。最初は嫌そうにしていたが、みんなが離れ離れになるくらいなら頑張ると言ってくれた。
テンは夏鈴と同級生の中学3年生、そしてタケマルは中学1年生、たまもは小学5年生として来週から学校へ通う。
戸籍上は兄弟ということにはなっていないが、学校など様々な手続きに関してはケンちゃんが協力してくれた。
そしてコイツらの苗字は未だに金土なのである。
あの決戦の後、カレルは死体としてサナと共に発見された。何者かに殺害され、進化薬は奪われていたという事だった。この子達に残酷な真実を伝えることは出来ず、カレルがこの子達にした事は伏せてある。テンだけは薄々気付いている様子だったのだが……。
そして俺がラグラスを使用して、この子達に求めた代償は、「自由にそして精一杯自分の人生を歩むこと」だった。『真の平等』とはよく言ったもので、救われるべき人間には、等しく救いの手が差し伸べられるべきなのだ。なかなか粋な事をする能力だと、我ながら感心していた。
「あ、幸近兄さんまた卵焼き残してる。夏鈴に怒られるわよ……?」
「テン……お願い!」
俺はテンに両手を合わせる。
「もう本当にしょうがない兄さんなんだから……」
そう言いながらもテンは俺の卵焼きを食べてくれた。
「なぁテン、ここに来て幸せか?」
「何よいきなり……。私はタケマルとたまもとずっと一緒にいられればそれだけで幸せ……。そして夏鈴も私のことを姉妹だと言ってくれる。
今まで家族に恵まれなかったけど、本当の家族ってこんな感じかなって、思えるようになってきたと思う……」
「そうか、それなら良かった!」
「それに……頼りになる兄さんもいるし……」
テンは顔を赤く染めながら小声で呟く。
「やば! 遅刻する」
「え! ちょっと兄さんっ!」
「ごめんテン、後片付けよろしく! じゃあ行ってきまーす!」
「もう! 兄さんったら……」
その言葉とは裏腹にテンの顔は笑っていた。
「おはようソフィ!」
「おはよう、なんだか上機嫌ね。何か良いことでもあったのかしら?」
「分かるか? かわいい妹に日替わりで起こされて、俺の1日は朝から活力に満ちているんだ!」
「やっぱりあなたとは距離を置こうかしら……」
「あ! あんた今日日直でしょ! 何呑気に遅刻ギリギリに登校してくれちゃってんの! 先生に怒られるのわたしなんだからね!」
「なぁクリスタ……せっかくのいい気分が、お前のキンキン声で台無しだよまったく……」
「はぁ? あんたいい加減にしなさいよ? そんなんだからあんたはいつまでたっても――」
「お! 幸近! 今日はいい天気だな! こんな日は昼休みに一緒に稽古などいかがだろう?」
「いいぜ! 実は試したい新技があったんだよ!」
「なに!? それは興味深いな!」
「藤堂くん、昨日のアニメみた? ヒロインの変身シーンがすっごく可愛いかったんだよぉ」
「昨日は子供たちの世話で忙しくて見れてないな」
「じゃああたし録画してあるから今日あたしの家きなよー? 作画がねー? もうホントに神なの!」
「やぁ幸近! 今日の実技演習、僕と組まないかい?」
「よぉキリア、今日こそは負けないぜ」
「今日は最大威力で行かせてもらうね?」
「あぁ、臨むところだ!」
5月の初めのこと、こうして俺の日常は一旦は平穏を取り戻した。だが、俺の波乱に満ちた学生生活は、まだまだ始まったばかりだということをすぐに思い知る事になる。
――デニグレ本部――
「若、進化薬の実験、つつがなく進行しております」
「そうか……なるべく早く複製出来るように頼むよ」
「かしこまりました」
「藤堂くん、君とまた会える日を楽しみにしているよ」
薄暗い部屋でスーツの男は不気味な笑みを浮かべた――。
第1部最終話 幸せの代償 完
あの壮絶な戦いから1週間が経過した――。
「幸近兄さん、朝だよ? 起きないと学校遅刻するよ」
朝7時、いつもと同じく妹に起こされた。
いつものやかましい声とは打って変わって、静かに優しく起こしてくれる妹の姿がそこにはあった。
「おはようテン……あと5分だけ……」
「ちゃんと起こさないと私が夏鈴に怒られちゃうんだから! ねぇ起きて幸近兄さん!」
なんとか目覚めて1階に降りると、けたたましく走り回る2人の子供の姿があった。
「あ! 幸兄起きたんだ! キャッチボールしよーぜ!」
「違うのですタケマル! 幸兄様はわたしとお絵描きするのです~」
「おはよう2人とも、俺は学校だからどっちも出来んぞ」
「えー! 幸兄のケチ!」
「タケマル! わがままはダメなのです!」
「お前らも来週から学校なんだから、準備しっかりしとけよ? 勉強ついていけなくなるぞ」
「「はーい」」
何故この3人が俺の家にいるのかと言うと、俺の家は道場があるくらいなので、そこそこ広いのだ。そこにほぼ夏鈴と2人暮らしな訳で、生活費も親父が毎月かなりの額を振り込んでくれている。子供3人くらいなら養える余裕があったから、俺はこの子たちを家で引き取ることにしたのだ。
そんなこんなで俺たちはいきなり5人兄弟となったのだ。もちろん夏鈴も快諾してくれて、家族が増えたことを喜んでくれていた。
「あ! お兄ちゃんおはよ! ご飯先食べてて!」
「いただきまーす」
俺は子供達にウチで生活する為の条件として、学校へ行くことを提示した。最初は嫌そうにしていたが、みんなが離れ離れになるくらいなら頑張ると言ってくれた。
テンは夏鈴と同級生の中学3年生、そしてタケマルは中学1年生、たまもは小学5年生として来週から学校へ通う。
戸籍上は兄弟ということにはなっていないが、学校など様々な手続きに関してはケンちゃんが協力してくれた。
そしてコイツらの苗字は未だに金土なのである。
あの決戦の後、カレルは死体としてサナと共に発見された。何者かに殺害され、進化薬は奪われていたという事だった。この子達に残酷な真実を伝えることは出来ず、カレルがこの子達にした事は伏せてある。テンだけは薄々気付いている様子だったのだが……。
そして俺がラグラスを使用して、この子達に求めた代償は、「自由にそして精一杯自分の人生を歩むこと」だった。『真の平等』とはよく言ったもので、救われるべき人間には、等しく救いの手が差し伸べられるべきなのだ。なかなか粋な事をする能力だと、我ながら感心していた。
「あ、幸近兄さんまた卵焼き残してる。夏鈴に怒られるわよ……?」
「テン……お願い!」
俺はテンに両手を合わせる。
「もう本当にしょうがない兄さんなんだから……」
そう言いながらもテンは俺の卵焼きを食べてくれた。
「なぁテン、ここに来て幸せか?」
「何よいきなり……。私はタケマルとたまもとずっと一緒にいられればそれだけで幸せ……。そして夏鈴も私のことを姉妹だと言ってくれる。
今まで家族に恵まれなかったけど、本当の家族ってこんな感じかなって、思えるようになってきたと思う……」
「そうか、それなら良かった!」
「それに……頼りになる兄さんもいるし……」
テンは顔を赤く染めながら小声で呟く。
「やば! 遅刻する」
「え! ちょっと兄さんっ!」
「ごめんテン、後片付けよろしく! じゃあ行ってきまーす!」
「もう! 兄さんったら……」
その言葉とは裏腹にテンの顔は笑っていた。
「おはようソフィ!」
「おはよう、なんだか上機嫌ね。何か良いことでもあったのかしら?」
「分かるか? かわいい妹に日替わりで起こされて、俺の1日は朝から活力に満ちているんだ!」
「やっぱりあなたとは距離を置こうかしら……」
「あ! あんた今日日直でしょ! 何呑気に遅刻ギリギリに登校してくれちゃってんの! 先生に怒られるのわたしなんだからね!」
「なぁクリスタ……せっかくのいい気分が、お前のキンキン声で台無しだよまったく……」
「はぁ? あんたいい加減にしなさいよ? そんなんだからあんたはいつまでたっても――」
「お! 幸近! 今日はいい天気だな! こんな日は昼休みに一緒に稽古などいかがだろう?」
「いいぜ! 実は試したい新技があったんだよ!」
「なに!? それは興味深いな!」
「藤堂くん、昨日のアニメみた? ヒロインの変身シーンがすっごく可愛いかったんだよぉ」
「昨日は子供たちの世話で忙しくて見れてないな」
「じゃああたし録画してあるから今日あたしの家きなよー? 作画がねー? もうホントに神なの!」
「やぁ幸近! 今日の実技演習、僕と組まないかい?」
「よぉキリア、今日こそは負けないぜ」
「今日は最大威力で行かせてもらうね?」
「あぁ、臨むところだ!」
5月の初めのこと、こうして俺の日常は一旦は平穏を取り戻した。だが、俺の波乱に満ちた学生生活は、まだまだ始まったばかりだということをすぐに思い知る事になる。
――デニグレ本部――
「若、進化薬の実験、つつがなく進行しております」
「そうか……なるべく早く複製出来るように頼むよ」
「かしこまりました」
「藤堂くん、君とまた会える日を楽しみにしているよ」
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