上 下
12 / 20

第十二話 女神は理不尽かポンコツの二択。

しおりを挟む

「久しぶり! 転生の女神イザメルだよ。突然だけど今回は、転生の女神のお仕事を紹介しちゃうよ~♪」
女神は翼を羽ばたかせ宙をグルリと舞いながら上昇すると両手を広げた。
「まずこの場所は、転生の神域。実は人間には産まれた瞬間、既に寿命が決まっているの。でも……稀にいる寿命よりも早く死んでしまう運の悪い人間がここへやってくる。その人間を異世界エアレンデルへ送るのが私の役目」

  その時、遙か上空から転生の神域に一筋の光が差し込む。
「来たようね……」
女神がそう呟くと、その光は次第に大きくなっていった。
「そして、これが……」
直径二メートル程まで膨れ上がった光の柱の中に、学生服を着た一人の少年が姿を現し、ゆっくりと着地した。
「ん、んぁあ……どこだここは?」
「目が覚めたのね」
「てめぇは誰だ。こんなとこまで拉致りやがってクソがっ」
「あなたはなんでここに連れてこられたか分かる?」
「心当たりがあり過ぎて検討もつかねぇよ。北校の杉田か? それとも直江津の荒木か?」
「これはヤンキー同士の抗争じゃないから……」
「あぁ? じゃあこりゃあ一体なんだよ」
「あなたは異世界へ転生するの」
「はぁ? 俺はそういうガキくせぇのが大嫌いなんだよ。帰る――」

  少年は立ち上がって歩き出すが、周りを見渡しても出口らしきものは見えない。
「おい。出口はどこだよ」
「ないよ。ここから行ける場所は異世界だけ」
「ふざけんな! 帰らせろ!」
「その異世界に……白銀 一君がいるって言ったら?」
「なっ、なんであいつが……」
「彼はね、勇者候補である君の代わりに死んでしまった。だから異世界で地球へ戻る方法を探しているの……」
「俺が勇者だと? なんの冗談だ」
「勇者候補は十年に一度、一人だけ選ばれる。見事に君が当選したんだよ『黒金 実くろがね みのる』君――」

   その後詳しい異世界の説明をする女神イザメル。
「――という事で異世界行きを了承してくれる?」
「行かねぇ」
「え?」
「だから行かねぇ。俺は誰の指図も受けねぇ」
「断られたの初めてで……こんな時どんな顔して良いか分からないの――」
「泣き叫べクソ女」
「ムーっ!! 一君ならきっと乗ってきてくれたのに!」
それから世界の時間軸が一週間過ぎても、実は神域に居座り続けた。
「ねぇ……そろそろ異世界に行ってもらわないと私、上司に怒られちゃうんだけど……」
「知るか」
さらに一週間が経過した――
「ねぇ……ぐすん。お願い、私クビになっちゃう……」
「うるせぇ」
もう一週間――
「お願いお願いお願いお願い!」 
床に仰向けになり手と足をバタバタとさせる女神。
「黙りやがれ!」
あれから一ヶ月――
「燃え尽きたぜ……真っ白にな……」
生気を失ったイザメルは、全身とその周囲を白く染めながら、神域の隅で体育座りをしていた。
「俺は力石派だ……」
「あれ? これは分かってくれるの?」
そして二ヶ月が経とうとしていた――
「今日で一緒に住み始めて二ヶ月記念日だね! お祝いにケーキを用意したよ♪」
「はぁ? ふざけてんのかてめぇ」
「働きもせず毎日寝てばっかりの夫を持つと大変だよぉ」
「誰が夫だ! 俺はもっと乳のデケェ女が好みだ」
「あぁー! 実が言っちゃいけない事言いましたー! これはもう離婚だよ離婚!」
「上等だ、早くここから出しやがれ」

  タイムリミットが目前に迫った事に焦りを感じた女神は真面目な顔で実を諭した。
「もう本当に時間がないよ? 勇者候補として異世界に転生すれば、すごい能力が与えられて向こうでの活躍が確約される。このままだと君は勇者候補から外されてしまって、今の状態のまま強制的に送還されてしまう……」
それを聞いた実は鼻で笑いこう返した。
「自分以外の力で強くなる事に意味なんてあんのかよ?」
「与えられた力だって君の力なの! いつまでも意地を張っていないで貰えるものは受け取ればいいじゃない!」
「俺は誰の指図も、施しも受けねぇって決めたんだ」

  すると神域内に機械音声が響く。
《警告。転生猶予時間は残り僅かです。直ちにチュートリアルを済ませ異世界に転生して下さい。さもなければ5分後に強制的にエアレンデルへ送還されます》

「本当に……受け取らないつもり?」
「何度も言わせんな貧乳女神」
「貧乳じゃないもん! 着痩せするタイプなだけだもん!」
女神はめいいっぱい胸を張った。
「パッドいれてんの知ってるぞ」
「いっ、いつ見たの?」
女神の顔が真っ赤に染まる。
「カマかけただけだよバーカ」

《時間です。転生者『黒金 実』をエアレンデルへ強制送還します》

実がここへやって来た時と同じように光の柱が現れた。
「この二ヶ月、話し相手が居てなんだかんだ楽しかったよ」
「ドMかよてめぇは」
「頑張ってね……」
「自分の力でてっぺん獲ってきてやんよ」
「ヤンキー学校を一つに纏めるより難しいかも……」
「フンッ。上等だよ」
「ミノルー! 飛べぇ!!」
こうしてミノルは、シルバより二ヶ月遅れで異世界エアレンデルへと転生したのであった。

  ミノルは例の草原にある小屋で目が覚めると、シルバの時と同じように小屋からゴブリンが二匹現れた。
「てめぇどこ中だよこの野郎」
喧嘩慣れしているミノルは二匹のゴブリンをあっという間に殴り倒すと、倒れたゴブリンの上に腰掛けて呟く。
「とりあえず、アイツを探すか――」

――時を同じくしてギルドクロノワール。
「ねぇロゼッタ。なんで最近目を合わせてくれないの?」
「そんな事ないわよ……」
ロゼッタは先日の騒ぎでシルバに見せてしまった失態をまだ気にしていた。だが当の本人には記憶がない為、何のことか分からずにキョトンとしている。
「それなら良いけど……」
スイがシルバの手を引っ張って尋ねる。
「にぃに、今日は薬草の日?」
「そうだよ。だから今日は一緒に行こうね」
「やったぁー! にぃにとおでかけ久しぶりだね!」
「しばらくモンスター討伐ばっかりで、お留守番が続いてたもんね……」

  僕はスイに外出用の帽子を被せた。その理由はもちろん獣人であるスイの耳を隠す為だ。またいつ狙われるか分からない、このヒューマンの国では細心の注意が必要だ。因みにスイがいつもワンピースを着ている理由も尻尾を隠す為に他ならない。一応言っておくが、決して僕の好みだからではない。
「にぃに! 今日はいいお天気だね!」
外に出るとスイは嬉しそうにはしゃぎ回った。その天真爛漫な姿が愛おしくてたまらなかった。

もう一度言うが、決して僕の好みなんかじゃないんだから……。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

探偵はバーマン

野谷 海
ミステリー
とある繁華街にある雑居ビル葉戸メゾン。 このビルの2階にある『Bar Loiter』には客は来ないが、いつも事件が迷い込む! このバーで働く女子大生の神谷氷見子と、社長の新田教助による謎解きエンターテイメント。 事件の鍵は、いつも『カクテル言葉』にあ!? 気軽に読める1話完結型ミステリー!

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...