超強運

コサキサク

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第3話 地獄の一週間

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伯父さんの車で病院に向かっているときは、まだ茫然としていて実感がなかった。だけど霊安室で父と母の亡骸と対面すると、涙がぼろぼろこぼれた。そりゃ、親との別れはいつか来るものなんだろうけど、こんな急に、二人ともいなくなるなんて。

僕が旅行さえプレゼントしなければこんなことにならなかったかもしれない。もしくは僕も旅行について行けば一人になんてならずに済んだんじゃないか、いろいろな気持ちが駆け巡る。それに、これからあの広い一軒屋の自宅で、一人で暮らしていかなくてはいけないと思うと、気が狂いそうだった。

しかし、これが地獄のような辛さのほんの始まりに過ぎないことを、まだ僕は知らない。

もうこのころの記憶はあまりないのだけれど、葬式とかの手続きはすべて伯父さんが引き受けるから僕は何もしなくていいと言われ、僕はその日は伯父さんの家でご飯などの世話になった。すぐに通夜が過ぎ、葬儀の日がやってきた。

「アタル、今回はほんとに気の毒だったな。大学に来れるようになったら、授業に追いつけるようにノート取っといてやるから。今は休めよ。」
葬式に来てくれたコースケが言う。僕は頷いた。隣のソラも心配そうにしている。

僕はふと、気になった。
「あれ、ユウトは?」
「そういえば、遅いよな。来るって言ってたんだけど・・・あいつ結構寝坊するしなあ。しょうがねえな。」
遅刻ぐらい別に構わないが、もう葬式も終わり出棺の時間になっている。遅刻にしては遅すぎる気もするが・・・遅刻するにしてもコースケあたりに連絡が来そうだ。なんだろう。なんか嫌な予感がする。

しかし、今は両親の出棺を見届けなければならない。僕は伯父さん達と火葬場に向かい、両親の骨を拾った。

火葬場から帰ってくると、コースケとソラの姿がなかった。何も言わずに帰るなんて変だなと思ったが、とにかく今は葬式の片付けを手伝おうと思い、深追いしなかった。

葬儀場を出て、この日伯父さんの家で夕飯の世話になった。
「アタル、本当に明日家に帰るのか。さみしくないか?好きなだけここにいてもいいんだぞ。」
伯父さんはこう言ってくれていたが、やはり世話になりっぱなしで気が引けた。それに、家をいつまでも空けているわけにもいかない。 

翌日、家に帰ったが、何をしたらいいかわからない。忌引きは一週間あるからあと四日ほど大学を休めるけど、もう大学に行った方が気が紛れるかもしれないと思い、コースケに電話しようと思っていたら、コースケの方から電話が来た。僕が電話に出ると、コースケとソラが今から僕の家に来ると言ったので、待つことにした。すぐにコースケとソラは家にやってきた。僕は二人を自分の部屋に迎え入れ、お茶を出した。なんだか、二人の表情がものすごく暗い。僕が急に両親を亡くして一人で過ごしているのを気の毒に思ってくれているのかと思ったが、はっきり言って昨日の僕の両親の葬式のときよりずっと暗い顔をしている。二人ともどうしたんだろう。そういえば今日もユウトの姿が見えないけどなんでだろう。

「昨日、葬式早く抜けて悪かったな。」
「そのこと?気にしなくていいのに。」 
「アタル、その、昨日早く帰った理由なんだけど・・・」
「なにかあったの?」
「さすがに昨日話すのは気が引けて、今日話すことにしたんだけどさ・・・」
コースケはここから黙りこんだ。
「どうしたの?」
「あのさ、落ち着いて聞けよ。」
なんだ?嫌な予感がする・・・

「ユウト、昨日、死んだんだ。葬式に向かってる最中に車で轢かれたんだ。」

「・・・え?」



両親に続く友人の訃報に、僕は動揺した。両親の事故のニュースを見たときと同じようにガタガタ震えた。ソラが近づいてきて僕の手を握った。
「アタル、大丈夫か。明日のユウトの葬式、キツかったら無理して来なくてもいいぞ。」
コースケはこう言ってくれたが、
「いや、行くよ。ユウトには何年も仲良くしてもらったのに、葬式に行かないわけにいかないよ。」
僕はそう答えた。ユウトの通夜はこの日の夜にあったが、僕があまりに通夜と葬式続きなのはよくないからと通夜に行くのは二人に止められた。さらに僕を一人にするのは心配なのでユウトの通夜にはコースケのみ参列し、ソラは僕の家で僕と過ごすことになった。夜は、またコースケが僕の家に来てくれて、二人は僕の家に泊まり、三人でユウトの葬式に行こうという話になった。

夕食は僕とソラの二人で食べることになった。僕もソラも割と料理はできる方だったから、近くに買い出しに行き、カレーを作ることに決まった。僕はカレーを作る間、ソラと大学のこととかいろいろ話した。ソラは普段は無口だが僕と二人だと案外話してくれる。

「ソラは、ユウトの通夜、行かなくてよかったの?」
「うん。僕、通夜とか、葬式できれば行きたくないし。」
まあ、乗り気な人間はあまりいないけど。
「僕さ、前にも同い年の友達が死んだことがあって、そのとき通夜も葬式も行ったけど、友達の死に顔なんて、二日も連続で見るのは辛いもんだよ。」
ソラはそう続けた。
「そっか、そうだよな。」
僕も納得した。それに、やっぱり側にいてくれるのはありがたかった。

カレーは上手く完成し、二人で食べた後はバラエティ番組を見て過ごした。しばらく和やかに過ごしたが、気がつくと、随分遅い時間になっていた。
「・・・ねえ、コースケ、遅くない?」
通夜はもうとっくに終わってる時間だ。僕は不安になりだした。
「まさか、コースケまで・・・?」
「アタル、落ち着いて、ユウトの通夜なら同級生たくさん来てるし、みんなで話したりしてるんだよ。」
「だ、だよな。」
しかし、待てども待てどもコースケが戻らない。さすがに心配になってコースケのスマホに電話を掛けるものの繋がらない。僕はまた不安がつのり体が震え始めた。
「アタル、大丈夫だよ。コースケ、バイクだし、こっちに向かっている途中なら繋がらないよ。」
「・・・そっか・・・」
しばらくしてもう一度コースケに電話すると、ようやく繋がった。

しかし、電話に出たのはコースケの母親だった。

僕はもうこの時点で、嫌な予感がした。




コースケは、バイクで事故を起こして、死んでいた。

「うわああああああああ!!!」
あまりに周りの人間がバタバタ死にすぎて、もう心が限界だった。ソラが察して手を握ってくれるものの、震えが止まらない。
「アタル・・・」
ソラは気の毒そうに僕を見ている。ソラの配慮は嬉しかったが、状況の割に落ち着きすぎていて奇妙だった。ソラもこの二日で友人を二人も亡くしているのは僕と同じなのに。
「ソラ、ソラはなんでそんなに落ち着いてるの!?変だよ!!ユウトとコースケが死んだんだよ!?」
「それは・・・」
ソラが口ごもる。
「それは?なにかあるの!?もしかして、なんか知ってるの?」
「なにか、知ってるわけじゃない。ただ、僕は・・・」
ソラは苦しそうな顔で黙っている。
「ソラ、なにか言って!!」
「・・・言ってもいいけど、もっと、ショック受けることになるよ。いいの?」

なに?これ以上のショックってなんだ!?

僕は怖くて仕方がなかったが、だけどここで聞かずにいることはできなかった。僕は深呼吸をしてなんとか震えを止めたあと、
「僕は、大丈夫だから、ソラがさっき話そうとしたこと、話して。」

ソラは、ゆっくり話始めた。
「アタル、アタルが一億当たったとき、落ち着いてたよね。普通の人なら震えるよ。今のアタルみたいにね。なんであんなに落ち着いてた?」
「え・・・?」
それは・・・
「それは、僕が運で何かを手にするのにわりと慣れてるから、かな?」 
「だよね。僕も、同じだよ。ユウトとコースケが死んでも落ち着いているのは、周りの友達が死んだことが今まで何回もあったから。」
「どういうこと!?」
「僕、持病があるんだ。この年齢まで生きてることが奇跡だって言われてる。はっきり言って、僕はもういつ死んでもおかしくないんだ。病院で出会った同じ病気の子が何人も死んだのを見たんだよ。」
「な・・・」
たしかに、ソラは青白い顔をしていて健康そうではない。体育もいつも休んでた。運動が嫌いだからサボってるって言ってたけど、病気だったのか。
「たしかに、ユウトもコースケも事故死だし、なんの因果かわからないから僕も怖いよ。だけど、人の死自体はもう慣れてるんだ。僕もどうせ近いうちに死ぬしね。」
「・・・なるほど・・・ちょっと待って!ユウトもコースケも死んだのに、ソラも死ぬの!?嘘だろ!?」
僕はまた体が震えた。今もこんなに辛いのに、ソラまで死んだら、もう耐えられない。
「ごめんね。だから言いたくなかったんだ。だけど、もうこれは避けられない。今まで友達でいてくれてありがとう。」
「ソラ!そんなこと言うなよ!もしかしたらもっと生きれるかもしれないだろ!」
「うん、そうだね。」
ソラは、静かに微笑んだ。

ソラには、そのまま僕の家に泊まるように頼んだ。このまま離れたらソラともう二度と会えない予感がした。ソラに僕のベッドを貸し、僕はその横で布団を敷いて寝ることにした。寝ると言っても、ちっとも眠れないと思っていたが、このところずっと不眠続きなのでいつの間にか寝てしまった。

朝、僕が目を覚ますとソラがいなかった。一瞬背筋が凍ったが、「コンビニに朝ごはん買いに行ってくる」という書き置きがありホッとした。


だけど、ソラは僕の家に戻ってくることはなかった。


ソラは、コンビニの店内で発作を起こして病院に運ばれ、そのまま亡くなった。


僕は、たったの一週間で、両親と、友達を亡くしてしまったのだ。いきなり、一人ぼっちになってしまった。




やあ、読者の皆さん。冒頭で登場したレイだよ。今のところホラーみたいな展開だけど、この作品はホラーじゃないから安心してね。次回もよろしく。















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