すべては貴女のために そしてたまには僕のために

コサキサク

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第11話 ローム氏

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 数日後、買い物に街に出ると、ローム氏に声をかけられた。ローム氏はこの日も茶色のスーツを着ていた。
「ライラ様、こんにちは」 
「あら、こんにちは」
「お買い物ですか」
「ええ」
「ライラ様お一人で荷物持ち帰るの大変じゃないですか? 手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。お気遣いどうも」
 カイルが野菜などを配達してくれるため、食料の買い出しはさほど荷物は多くない。
 しかし、なんだろう?この会話の流れ、なんとなく身に覚えがあるような……

「ライラ様、あの仕事関係の方、この辺にお住まいなのですか」
 メイド服でいそいそと家にやって来たカイルが、尋ねてきた。特にメイドとして頼むことはなく、配達だけなのだが、カイルは律儀にメイド服を着ていた。「メイド服が似合っているからそれを着ていろ」と言ったのを忠実に守っているようだ。
「いえ、ローム氏がこの辺に住んでいるということはないわ。ムール出版は首都にあるもの」
「その割にはこのところよくこの街で見かけますが」
「そうね。なにか訳あって滞在しているんでしょう」
「そのローム氏とやらも、ライラ様に気があるのでは?」
「まさか。お前じゃないんだから」
 たしかに、昨日ののローム氏とのやりとりは、カイルともやったことを思い出した。とはいえローム氏とカイルにはやりとり以外に共通点はない。背格好も年齢も立場も違う。
「まあ、なんのことですか、ミアはただのメイドでございます」
 カイルはミアという設定に戻り、しらばっくれた。
 
 また翌日、出かけた際にローム氏が声をかけてきた。
「ロームさんは、ここにしばらくご滞在なんですか?」
 気になっていた事を尋ねてみる。
「ええ、せっかくの出張なので、この辺の本屋や図書館を巡ってまして」
「なるほど、お疲れ様です」

 という他愛のないやりとりをしていたのだが、数日後、私はようやく事態に気がついた。
 郵便箱に、ローム氏からの手紙があったのだ。そこには、
「ライラ様、この間の手紙に『先日は、拙宅に訪問いただきありがとうございます』と書かれておりましたが、私はそちらに伺った覚えはないのですが、どなたかとお間違えではありませんか」
 と書かれていた。
「え? じゃあ……」
 この間、ここにやってきたローム氏は、誰――?

 そのとき、ガタン、と音がして、思わず作業椅子から飛び上がった。
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