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第5話 配達
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次の日、屋敷で過ごしていた昼下がりに、呼び鈴を鳴らす音が聞こえた。
……まさか、カイルが押しかけてきた、なんてことないわよね……と思わず考えてしまった。
警戒しながら屋敷の扉を開くと、本当にカイルがそこに立っていた。
「カイル! とうとう家まで来たわね! 帰って!」
「まあライラ様、そう言わずお話だけでも。僕の農場の商品、訪問販売もやっているんですよ。注文してくださったら屋敷まで商品お届けしますよ」
「それ、ただのお前が毎日家に来る口実じゃないの! お断りします!」
「そうですか。とりあえず試供品どうぞ。うちの農場の新作です」
この間の中身の違うジャムと野菜をいくつか手渡された。カイルは、試供品を手渡すと去っていった。
その夜の食事のパンにその試供品のジャムを塗ってみたところ、またこれが美味しかったのである。
翌日もカイルがやってきたので、
「ジャムと野菜、注文したいんだけど、配達してくれる人はあなたしかいないの?」
「他の人もいますよ」
「じゃあ、あなた以外の人が配達してくれるのを条件に注文するわ」
「ありがとうございます。注文を取ってきただけでもご主人に褒めてもらえるので、助かります」
カイルは嬉しそうに笑ってそう言うと、帰って行った。カイルはしつこい性分ではあるが、帰ってくれといえばきちんと帰るだけましかもしれない、と思った。
次の日の朝、15歳ぐらいのかわいらしい女の子が屋敷にやってきた。赤毛の髪を二つに結っていて、頭に緑の頭巾、そして緑色のエプロンをつけている。
「カイルのところの牧場の人ね?」
「はい、ライラ様のお宅担当になりました。ミアといいます。よろしくお願いします」
「毎朝呼び鈴を鳴らさなくてもいいから。郵便箱の中に入れておいて」
「かしこまりました」
呼び鈴を鳴らさなくてよいと言ったものの、数日はミアが配達に来ているか、窓から様子を見ていた。ちゃんと毎日ミアが届けているのを確認し、ほっとした。やはりカイルは私の言うことは一応聞くようだ。問答無用で屋敷に忍びこむほど無礼者ではないとわかり少し安心した。
ところが、ある朝、いつものようにミアがやってくる気配がしたので、それとなく窓から様子を見た。郵便箱に野菜を入れていたのは、たしかに赤毛のおさげ姿の、緑色のエプロンをつけた人間だったが、カイルだった!
「カイル!」
私は慌てて玄関のドアを開けた。
「ライラ様! おはようございます!」
目の前には、赤毛のおさげのかつらと頭巾を被り、緑色のエプロンをつけたカイルが立っていた。
ミアの変装をしたカイルは、ミアと違ってかわいらしくなかった。しかし、カイルはもともと小柄で、丸っこい顔のためか、かわいくはないけど、こういう女の子は実際にいてもおかしくない感じがした。
「カイル、わざわざこんな格好してまでうちにこなくても」
「なんのことですか。私はミアです」
やや上ずった声でカイルが答えた。あくまでも「ミア」で通す気か!?
思わず笑ってしまった。わざわざこんな格好をして、毎朝ここにやってくるつもりなのか。農場から歩いてくるのか途中で着替えているのか謎だが、いずれにせよ想像するとおかしい。
「……わかったわ。ミア。これからもよろしく」
「はい」
「そのかわりカイルが配達してきたら注文打ち切りますからね。よろしくね。『ミア』」
「わかりました」
カイルは上ずった声のまま返答し、帰って行った。
カイルにはこのままミアの格好で配達させてやろうと思った。カイルがこれからもあの格好を毎朝すると想像すると楽しくなってしまったのだ。
……まさか、カイルが押しかけてきた、なんてことないわよね……と思わず考えてしまった。
警戒しながら屋敷の扉を開くと、本当にカイルがそこに立っていた。
「カイル! とうとう家まで来たわね! 帰って!」
「まあライラ様、そう言わずお話だけでも。僕の農場の商品、訪問販売もやっているんですよ。注文してくださったら屋敷まで商品お届けしますよ」
「それ、ただのお前が毎日家に来る口実じゃないの! お断りします!」
「そうですか。とりあえず試供品どうぞ。うちの農場の新作です」
この間の中身の違うジャムと野菜をいくつか手渡された。カイルは、試供品を手渡すと去っていった。
その夜の食事のパンにその試供品のジャムを塗ってみたところ、またこれが美味しかったのである。
翌日もカイルがやってきたので、
「ジャムと野菜、注文したいんだけど、配達してくれる人はあなたしかいないの?」
「他の人もいますよ」
「じゃあ、あなた以外の人が配達してくれるのを条件に注文するわ」
「ありがとうございます。注文を取ってきただけでもご主人に褒めてもらえるので、助かります」
カイルは嬉しそうに笑ってそう言うと、帰って行った。カイルはしつこい性分ではあるが、帰ってくれといえばきちんと帰るだけましかもしれない、と思った。
次の日の朝、15歳ぐらいのかわいらしい女の子が屋敷にやってきた。赤毛の髪を二つに結っていて、頭に緑の頭巾、そして緑色のエプロンをつけている。
「カイルのところの牧場の人ね?」
「はい、ライラ様のお宅担当になりました。ミアといいます。よろしくお願いします」
「毎朝呼び鈴を鳴らさなくてもいいから。郵便箱の中に入れておいて」
「かしこまりました」
呼び鈴を鳴らさなくてよいと言ったものの、数日はミアが配達に来ているか、窓から様子を見ていた。ちゃんと毎日ミアが届けているのを確認し、ほっとした。やはりカイルは私の言うことは一応聞くようだ。問答無用で屋敷に忍びこむほど無礼者ではないとわかり少し安心した。
ところが、ある朝、いつものようにミアがやってくる気配がしたので、それとなく窓から様子を見た。郵便箱に野菜を入れていたのは、たしかに赤毛のおさげ姿の、緑色のエプロンをつけた人間だったが、カイルだった!
「カイル!」
私は慌てて玄関のドアを開けた。
「ライラ様! おはようございます!」
目の前には、赤毛のおさげのかつらと頭巾を被り、緑色のエプロンをつけたカイルが立っていた。
ミアの変装をしたカイルは、ミアと違ってかわいらしくなかった。しかし、カイルはもともと小柄で、丸っこい顔のためか、かわいくはないけど、こういう女の子は実際にいてもおかしくない感じがした。
「カイル、わざわざこんな格好してまでうちにこなくても」
「なんのことですか。私はミアです」
やや上ずった声でカイルが答えた。あくまでも「ミア」で通す気か!?
思わず笑ってしまった。わざわざこんな格好をして、毎朝ここにやってくるつもりなのか。農場から歩いてくるのか途中で着替えているのか謎だが、いずれにせよ想像するとおかしい。
「……わかったわ。ミア。これからもよろしく」
「はい」
「そのかわりカイルが配達してきたら注文打ち切りますからね。よろしくね。『ミア』」
「わかりました」
カイルは上ずった声のまま返答し、帰って行った。
カイルにはこのままミアの格好で配達させてやろうと思った。カイルがこれからもあの格好を毎朝すると想像すると楽しくなってしまったのだ。
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