上 下
51 / 138

第51話 補講期

しおりを挟む
 学校に帰ってきた僕は、コール先生にあずけていたクロの亡骸を受け取り、剥製屋に剥製にしてもらった。クロは、僕が寝ているベッドのすぐ側の棚に置いた。本当にただ眠っているかのようだ。
 リリイにはクロが死んだことをまだ知らせていない。
「リリイ……どうしてるかな……また学校に帰りたくない病にかかってないかな……」
 僕は、クロに話しかけるように独り言を言った。
「学校に帰りたくない病にかかってたら、また迎えに行ってあげよう」
 また馬車の旅も悪くないよね、なんて思っていたが、以外にもリリイは冬休み終了の前日に帰ってきた。
「リリイ! ちゃんと帰ってきたんだね!」
 ロビーに入って来たリリイに話しかけると、リリイは笑っていた。
「ええ、夏休みのときはいろいろ迷惑かけちゃったから」
「そっか」
 僕も笑って返した。
「キルル、クロは元気にしていて? 終業式の日にも顔が見れなくて、気になっていたの」
「あ……クロは、死んだんだ」
 リリイは目を見開いた。
「え? いつ!?」
「リリイが帰省してしばらくしてから」
「あのまま衰弱してしまったの?」
「……うん」
 本当は僕が殺したのだけど、言えなかった。
「そう……可哀想に……」
 リリイは涙ぐんでいた。
「うん、僕も間違ってた。扱いのわからないモンスターなんて、飼っちゃいけなかったんだ。退治されるより、苦しい思いをさせてしまった」
 僕も涙がこみ上げてきた。
「キルル……」
 リリイは気の毒そうな表情で僕を見つめた。僕はリリイにこんな目で見てもらう資格なんてない。彼女には、僕がただペットを悼んでいるように見えているだろう。
「大丈夫だよ、もう死んでからだいぶ時間が経ってるし、そんなに心配そうにしないで」
「そう……」
「そうだ、リリイは補講期は何するの?」
 リリイに同情されるのが心苦しくなって、僕は話をそらした。

 冬休みが終わると、補講期に入る。補講期というのは、前期と後期に取りそこねた単位を取ったり、魔法のレベルを上げたりする補習期間である。僕は特殊魔法のレベル上げも進級レベルになっていたし、一般教養の単位も取れていたから、実は補講期は特にやることがない。
「私は、一般教養の単位をもう少し取らないと」
「そっか。頑張ってね」
「キルルは?」
「僕は、特にやることないんだ。だから即死魔法のレベル上げでもしておくよ」
「あら、一般教養の単位も全部取ったの? すごい」
「いや、僕は一般魔法の授業ほとんど受けないから、一般教養の授業を人よりも多く入れられただけだよ」
 そう、他のみんなは特殊魔法に一般魔法に一般教養と忙しいため補講期に帳尻を合わせることになるが、僕はその必要がなかったのだ。すごいというよりできることが少ないのである。

「資格職の方の講義は取らないの?」
 補講期は、資格職の資格を取るための講義がある。資格職になると、魔道士だけではなく、他の職業も名乗れるようになるのだ。例えば、僕達の適性検査をしてくれた『診断士』も、魔道士とは別の職種だが魔道士が兼任している職業だ。コール先生の『モンスター情報士』もそれにあたる。いくつかの職業資格の取得講座が補講期には行われる。ただ、資格職の資格を取れるかどうかも素質によるものが大きく、素質がないものは取ることができない。
「ああ、僕は一般魔法使えないから、資格職も取れないんだ」
 ほとんどの資格職は一般魔法が使えるのが大前提のものばかりだ。それ以外だと「ずば抜けて頭がいい」とか、「ずば抜けて身体能力が高い」とかが前提になってて、どれも取れないものばかりだった。
 僕は結局、「即死魔道士」以外の肩書は名乗れそうにないらしい。
 逆にリリイは取れる資格はかなりありそうだったが、今の状態に加えて取れる資格をすべて取るのはきついだろう。世の中うまくいかないものである。
「そう……じゃあキルル、一般教養でわからないことばかりだから、助けて頂戴」
「え? 僕もたいしてできないけど……」
「単位落としてばかりの私に喧嘩売っているの?」
「いやいや、違うってば!」
 リリイは一般教養の話になると一気に機嫌が悪くなるタイプだということにようやく気がついた。リリイも案外得手不得手激しい……というか、実は感情の起伏が案外激しいんじゃないだろうか。そういえば、リリイのお母さんも、激しい性格だって校長先生言ってたっけ……





 
 
 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

処理中です...