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第43話 首輪を買う
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週末、クロを部屋に置いて外出した。特に用事があったわけじゃなく、いわゆるテスト前の現実逃避だ。
王都は野良猫が多く、今歩いている道端にも猫がちょこちょこいる。できればクロも連れてきたかったなあ、猫を見るたびと思った。今ごろ部屋の隅で丸くなっているだろう。ふと、鈴のついた首輪をつけた猫が通り過ぎた。どこかの飼い猫だろう。
首輪かあ。やっぱり僕のペットだし首輪つけたいなと思った。野良猫は思わず殺しそうになるけど飼い猫は飼い主の存在を考えるから殺そうと思わないし、やっぱり首輪って大事だと思う。よし、クロに首輪をつけてあげよう。どんな首輪がいいだろう。黒いから赤色とか似合うかな。そうだ、なんかの本で見た鍵付きの首輪がいいな。僕が鍵を使わないと取れないやつ。
この近くに犬猫の首輪や餌を売っている店があったことを思い出した僕は、その店に早速向かった。
店は一階建てのこじんまりした店で、店の前には花が沢山植えてあり、明るい黄色の壁の平和そうなお店だ。お店に入ると、若い男の店員さんが、
「いらっしゃいませ」
と迎えてくれた。
「何をお探しでしょうか」
「猫の首輪を」
「猫の首輪でしたら、こちらに」
店員さんが首輪が並んでいる棚に案内してくれた。棚の上にはいろいろな首輪があったが、どれもただのベルトのような普通の首輪だ。
「うーん……」
「お客様、何かお悩みで?」
「あの、できれば鍵がついた首輪が欲しいんですが、ここにはありませんか?」
「鍵? 南京錠付きの首輪ですかね?」
「あ、はいそんな感じです」
「……お客様、お客様もしかして、猫じゃなくてモンスターをお飼いじゃないですか?」
「ええ!?」
いきなり核心をつかれて度肝を抜かれてしまった。店員さんは僕に微笑みかけて続ける。
「大丈夫ですよ。魔道士さんってそういう趣味の方多いので。よかったらここの地下のモンスター用のグッズ売り場に案内しますよ。そこに南京錠付きの首輪もありますし、他にもお客様のお気に召す物があるかと……」
「モンスター用のグッズ? そんなものもあるんですか?」
「はい、こちらですよ」
僕は深く考えずのこのこ店員さんについて行ってしまった。
地下に続く木の階段を降りると、一階とは打って変わった不気味な地下の廊下に来た。廊下の側面に取り付けてある赤色の蝋燭だけが灯りになっている。くすんだ青色の石壁と石畳の床は、なんだかモンスターが出てきそうな気味の悪さを感じた。……まさか、なにかの罠でモンスターがこの先ゴロゴロいるかも。僕はロッドを握りしめ少し警戒した。
店員さんは重そうな鉄の扉を開けた。そこには、たしかにモンスターがいた。ただ、予想していたのと違うタイプのモンスターだった。
そのモンスターは、人形モンスターだった。見た目は女の人だったが、肌が紫色で、髪が緑色で、耳が尖っている。
人形モンスターは、店員さんを見るなり店員さんに無言ですり寄った。店員さんは人形モンスターの頭を撫でた。かなり懐いているようだ。僕にも危害を加える気配はない。ひとまずほっとして警戒を解いた。
人形モンスターは、フリルのついたかわいいメイド服を着ている。首に、僕の欲しかった南京錠付きの首輪をつけていた。
「お客様の家にもこういうのがいるのでしょう?」
店員さんが人形モンスターを指差した。
「ち、ち、違います!」
違う、こういうことじゃない!僕は急にいたたまれなくなった。いや、だってさ、僕人間の女の子とすらまだ恋愛経験もないのに、こんな世界ディープ過ぎてついていけない!
都市伝説的には聞いたことがある、人形モンスターと人間との恋愛。トイのクイズ作成魔法も、本来はこういう知能の高い人形モンスター相手の攻撃魔法なのだ。僕が持っている小説にもいくつかそういう題材のものはある。そうだ、南京錠の首輪はその小説で読んだんだった。
「あれ? 違いました? てっきりお仲間かと思ったんですが……」
「違います、僕は、猫型のモンスターを飼ってまして……本当に首輪が欲しくて……」
「そういうことでしたか。それは失礼を。しかし、この首輪はお客様の好みでは?」
店員さんは人形モンスターにつけてある南京錠付きの首輪を指差した。
「あ、はい、それは欲しいです」
「他にもバリエーションもありますよ」
店員さんがいろいろ持ってきた。
南京錠付きのやつ、南京錠の部分がハート型のやつ、首輪にトゲがついているやつ。いろいろある。やっぱり普通の首輪よりこっちの方がいいと思った。
「これもいかがですか。飼い主のそばを離れると首が締まります」
「へえ、いいですね」
「……お兄さん、やっぱり素質あると思いますよ。人形モンスター彼女にしたらいかがですか?楽しいですよ」
「え!? い、いや、いいです! そういうのは!」
素質ってなにさ!?人形モンスター飼うのにどんな素質がいるのだろう!?
「ふふふ。興味が出たらいつでも来てくださいよ」
「は、はあ……」
僕は結局、首輪の部分が赤色で、金色の南京錠がついたやつが一番気に入ったので、購入することにした。
「あの、うちの子結構危ない猫型モンスターなんですが、外に連れ歩くのにいいグッズありませんか」
「なるほど、かしこまりました」
店員さんはリードや、籠を見せてくれた。僕はそれらも購入した。これでクロと散歩に行けそうだ。
王都は野良猫が多く、今歩いている道端にも猫がちょこちょこいる。できればクロも連れてきたかったなあ、猫を見るたびと思った。今ごろ部屋の隅で丸くなっているだろう。ふと、鈴のついた首輪をつけた猫が通り過ぎた。どこかの飼い猫だろう。
首輪かあ。やっぱり僕のペットだし首輪つけたいなと思った。野良猫は思わず殺しそうになるけど飼い猫は飼い主の存在を考えるから殺そうと思わないし、やっぱり首輪って大事だと思う。よし、クロに首輪をつけてあげよう。どんな首輪がいいだろう。黒いから赤色とか似合うかな。そうだ、なんかの本で見た鍵付きの首輪がいいな。僕が鍵を使わないと取れないやつ。
この近くに犬猫の首輪や餌を売っている店があったことを思い出した僕は、その店に早速向かった。
店は一階建てのこじんまりした店で、店の前には花が沢山植えてあり、明るい黄色の壁の平和そうなお店だ。お店に入ると、若い男の店員さんが、
「いらっしゃいませ」
と迎えてくれた。
「何をお探しでしょうか」
「猫の首輪を」
「猫の首輪でしたら、こちらに」
店員さんが首輪が並んでいる棚に案内してくれた。棚の上にはいろいろな首輪があったが、どれもただのベルトのような普通の首輪だ。
「うーん……」
「お客様、何かお悩みで?」
「あの、できれば鍵がついた首輪が欲しいんですが、ここにはありませんか?」
「鍵? 南京錠付きの首輪ですかね?」
「あ、はいそんな感じです」
「……お客様、お客様もしかして、猫じゃなくてモンスターをお飼いじゃないですか?」
「ええ!?」
いきなり核心をつかれて度肝を抜かれてしまった。店員さんは僕に微笑みかけて続ける。
「大丈夫ですよ。魔道士さんってそういう趣味の方多いので。よかったらここの地下のモンスター用のグッズ売り場に案内しますよ。そこに南京錠付きの首輪もありますし、他にもお客様のお気に召す物があるかと……」
「モンスター用のグッズ? そんなものもあるんですか?」
「はい、こちらですよ」
僕は深く考えずのこのこ店員さんについて行ってしまった。
地下に続く木の階段を降りると、一階とは打って変わった不気味な地下の廊下に来た。廊下の側面に取り付けてある赤色の蝋燭だけが灯りになっている。くすんだ青色の石壁と石畳の床は、なんだかモンスターが出てきそうな気味の悪さを感じた。……まさか、なにかの罠でモンスターがこの先ゴロゴロいるかも。僕はロッドを握りしめ少し警戒した。
店員さんは重そうな鉄の扉を開けた。そこには、たしかにモンスターがいた。ただ、予想していたのと違うタイプのモンスターだった。
そのモンスターは、人形モンスターだった。見た目は女の人だったが、肌が紫色で、髪が緑色で、耳が尖っている。
人形モンスターは、店員さんを見るなり店員さんに無言ですり寄った。店員さんは人形モンスターの頭を撫でた。かなり懐いているようだ。僕にも危害を加える気配はない。ひとまずほっとして警戒を解いた。
人形モンスターは、フリルのついたかわいいメイド服を着ている。首に、僕の欲しかった南京錠付きの首輪をつけていた。
「お客様の家にもこういうのがいるのでしょう?」
店員さんが人形モンスターを指差した。
「ち、ち、違います!」
違う、こういうことじゃない!僕は急にいたたまれなくなった。いや、だってさ、僕人間の女の子とすらまだ恋愛経験もないのに、こんな世界ディープ過ぎてついていけない!
都市伝説的には聞いたことがある、人形モンスターと人間との恋愛。トイのクイズ作成魔法も、本来はこういう知能の高い人形モンスター相手の攻撃魔法なのだ。僕が持っている小説にもいくつかそういう題材のものはある。そうだ、南京錠の首輪はその小説で読んだんだった。
「あれ? 違いました? てっきりお仲間かと思ったんですが……」
「違います、僕は、猫型のモンスターを飼ってまして……本当に首輪が欲しくて……」
「そういうことでしたか。それは失礼を。しかし、この首輪はお客様の好みでは?」
店員さんは人形モンスターにつけてある南京錠付きの首輪を指差した。
「あ、はい、それは欲しいです」
「他にもバリエーションもありますよ」
店員さんがいろいろ持ってきた。
南京錠付きのやつ、南京錠の部分がハート型のやつ、首輪にトゲがついているやつ。いろいろある。やっぱり普通の首輪よりこっちの方がいいと思った。
「これもいかがですか。飼い主のそばを離れると首が締まります」
「へえ、いいですね」
「……お兄さん、やっぱり素質あると思いますよ。人形モンスター彼女にしたらいかがですか?楽しいですよ」
「え!? い、いや、いいです! そういうのは!」
素質ってなにさ!?人形モンスター飼うのにどんな素質がいるのだろう!?
「ふふふ。興味が出たらいつでも来てくださいよ」
「は、はあ……」
僕は結局、首輪の部分が赤色で、金色の南京錠がついたやつが一番気に入ったので、購入することにした。
「あの、うちの子結構危ない猫型モンスターなんですが、外に連れ歩くのにいいグッズありませんか」
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