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第24話 ポールトーマス
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僕は皆から「ポールトーマス」と呼ばれているが、本当の名前は「トーマス」だ。じゃあ「ポール」はどこから来たのかというと、「ポール」は僕の中にいる。
僕は、母親のお腹にいるときは双子だと言われていた。ところが、いざ産まれてみると僕一人だったのだ。
「トーマス」と名付けられ、一人っ子として育てられた僕だが、僕の頭の中にはいつも双子の弟である「ポール」がいた。僕の双子の弟は僕の頭の中で生きているのだ。
「複合魔道士」の適性が見つかったとき、本名とは別に魔道士としての名前を名乗ってもよいと言われたので、ポールが、せっかくだから二人の名前を両方名乗ろうと言い出したのだ。「ポールトーマス」と、ポールの名前が先に来ているのは、ポールの方が僕より我が強い性格だからである。
複合魔法を使うとき、僕とポールはそれぞれ別の呪文を唱える。それで二つの魔法を同時に使って複合しているのだ。
「ポールトーマス、夏休みは家に帰っちゃうの?」
ネルが尋ねてきた。僕は、ネルを部屋に送り届けたのだが、ネルは全然眠くないらしく、僕の部屋に押しかけて来ていた。ネルは、僕のベットに勝手に腰掛けている。僕はベッドのそばの椅子に腰掛けていた。こういうことは今まで何回かあったが、さっきトイにあんなことを言われたので、内心かなり緊張していた。
「帰るよ。と言っても僕の実家はわりと王都に近いから、割とすぐここに戻ってくるよ」
「そう」
「ネルはなんで家に帰らないんだ? 家族は心配してないのか?」
「私の実家、夏ちょーあついんだもーん。帰りたくなーい。冬はかえるー」
そういうことか。なにか家庭の重い事情があるのかと心配してしまった。
「ネル、夏休みの間、勉強さぼっちゃだめだぞ。たまには魔法使えよ。せっかくレベルあがったのに、鈍っちゃうぞ」
「はーい」
ネルは、くせ毛の長い髪を指先で弄りながら、気の抜けた返事をした。
(おい、トーマス! この期に及んでそんなくそ真面目な話すんなよ)
ポールが口出してきた。
(じゃあなんの話をするんだ)
僕はポールに心の中で返事をした。
(夏休み、俺達に会えなくてネルは寂しがってる。いい機会じゃないか。少し体に触らせてもらおうぜ)
(ポール! お前はなんでいつもそうなんだ。僕達はまだ学校の一年生だぞ!? なんの責任もとれないのによくそんなこと)
(だれが子作りしろっつったよ。まだキスもしていないんだからまずその辺だろ。何気にトーマスの方が性根がスケベだよね)
(なんだと!? うるせーな! ポール、お前ちょっと黙ってろ!)
(この状況でひっこんでられるか! お前一人だけ色々体験するとか許さねーし!)
ああ、面倒くさいことになった!今までは、魔法を使ったりするときは力を合わせられていいけど、この状況やりづらーい!今まで恋愛と無縁だったから、始めて陥ったタイプのピンチだった。ただ、女の趣味がポールと別れなかったのは不幸中の幸いだと思う。僕もネルが好きだがポールもネルが好きなようだ。これで、ポールだけ違う女が好きだったら大変なことになっていただろう。
(そうだよ。意見は概ね一致してるんだ。ガンガン行こうぜ)
ポールがそそのかす。
(と、いっても、何をどうするんだ)
(ネルの本名聞こうよ)
(なるほど)
僕とポールは具体的に話さなくても通じることもある。さっきのように喧嘩になることもあるが……
「ネル、ネルって本名じゃないだろ。その、本名は何?」
「ロザリア」
ネルは、本名をあっさり教えてくれた。レベル100の魔法は相手の顔と本名がわかるだけでかけられたりするから、魔道士は身を護るために本名を名乗らないそうだ。なので魔道士は基本偽名だと。本名を教えてくれるということは、信頼してくれていると思っていいだろう。
「ポールトーマスは? ほんとはなんて名前?」
僕は、ある意味ポールトーマスが本名だ。しかし、一応本来の名前を答える。
「トーマス」
「ふーん? だったら、『ポール』はどこから?」
「……死んだ、双子の弟」
ぼーっとしていたネル、いや、ロザリアは、目を見開いて僕を見た。改めて見ると、とてもかわいい顔をしている。
「え? ……いつ、亡くなったの?」
「一年ぐらい前。適性検査を受けるの楽しみにしてたな。得意な魔法が見つかったら、それを極めて大魔法使いになるんだって言ってた。なのに事故であっけなく」
「だから……トーマスはいろいろ頑張ってるんだ」
「うん、弟の分まで、僕はいろいろな魔法を覚えたいんだ」
「そう……」
「ロザリアか、かわいい名前だね。二人でいるときは、ロザリアって呼んでいい?」
「うん、私もトーマスってよぶー」
「いや、僕のことはポールトーマスでお願い」
「なんで?」
「ロザリア、うっかりみんなの前で本名呼びそうだし」
「えー。そんなこと……うん、ありそう……ポールトーマスにしとく」
すまん、ロザリア、ほんとはそんな理由じゃない。ポールがお前だけ名前呼ばれるなんてずるいって、ポールが引き下がらなかったんだ。だからポールトーマスでお願い。
あと、ポールについては、ロザリアの気を引くため大幅に変更して伝えてしまった。すべてポールの思いつきのでまかせだ。ポールが死んだ弟なのは事実だから、すべてが嘘ではないけど。
でも、おかげでロザリアに触れられたよ。ありがとう、ポール。
僕は、母親のお腹にいるときは双子だと言われていた。ところが、いざ産まれてみると僕一人だったのだ。
「トーマス」と名付けられ、一人っ子として育てられた僕だが、僕の頭の中にはいつも双子の弟である「ポール」がいた。僕の双子の弟は僕の頭の中で生きているのだ。
「複合魔道士」の適性が見つかったとき、本名とは別に魔道士としての名前を名乗ってもよいと言われたので、ポールが、せっかくだから二人の名前を両方名乗ろうと言い出したのだ。「ポールトーマス」と、ポールの名前が先に来ているのは、ポールの方が僕より我が強い性格だからである。
複合魔法を使うとき、僕とポールはそれぞれ別の呪文を唱える。それで二つの魔法を同時に使って複合しているのだ。
「ポールトーマス、夏休みは家に帰っちゃうの?」
ネルが尋ねてきた。僕は、ネルを部屋に送り届けたのだが、ネルは全然眠くないらしく、僕の部屋に押しかけて来ていた。ネルは、僕のベットに勝手に腰掛けている。僕はベッドのそばの椅子に腰掛けていた。こういうことは今まで何回かあったが、さっきトイにあんなことを言われたので、内心かなり緊張していた。
「帰るよ。と言っても僕の実家はわりと王都に近いから、割とすぐここに戻ってくるよ」
「そう」
「ネルはなんで家に帰らないんだ? 家族は心配してないのか?」
「私の実家、夏ちょーあついんだもーん。帰りたくなーい。冬はかえるー」
そういうことか。なにか家庭の重い事情があるのかと心配してしまった。
「ネル、夏休みの間、勉強さぼっちゃだめだぞ。たまには魔法使えよ。せっかくレベルあがったのに、鈍っちゃうぞ」
「はーい」
ネルは、くせ毛の長い髪を指先で弄りながら、気の抜けた返事をした。
(おい、トーマス! この期に及んでそんなくそ真面目な話すんなよ)
ポールが口出してきた。
(じゃあなんの話をするんだ)
僕はポールに心の中で返事をした。
(夏休み、俺達に会えなくてネルは寂しがってる。いい機会じゃないか。少し体に触らせてもらおうぜ)
(ポール! お前はなんでいつもそうなんだ。僕達はまだ学校の一年生だぞ!? なんの責任もとれないのによくそんなこと)
(だれが子作りしろっつったよ。まだキスもしていないんだからまずその辺だろ。何気にトーマスの方が性根がスケベだよね)
(なんだと!? うるせーな! ポール、お前ちょっと黙ってろ!)
(この状況でひっこんでられるか! お前一人だけ色々体験するとか許さねーし!)
ああ、面倒くさいことになった!今までは、魔法を使ったりするときは力を合わせられていいけど、この状況やりづらーい!今まで恋愛と無縁だったから、始めて陥ったタイプのピンチだった。ただ、女の趣味がポールと別れなかったのは不幸中の幸いだと思う。僕もネルが好きだがポールもネルが好きなようだ。これで、ポールだけ違う女が好きだったら大変なことになっていただろう。
(そうだよ。意見は概ね一致してるんだ。ガンガン行こうぜ)
ポールがそそのかす。
(と、いっても、何をどうするんだ)
(ネルの本名聞こうよ)
(なるほど)
僕とポールは具体的に話さなくても通じることもある。さっきのように喧嘩になることもあるが……
「ネル、ネルって本名じゃないだろ。その、本名は何?」
「ロザリア」
ネルは、本名をあっさり教えてくれた。レベル100の魔法は相手の顔と本名がわかるだけでかけられたりするから、魔道士は身を護るために本名を名乗らないそうだ。なので魔道士は基本偽名だと。本名を教えてくれるということは、信頼してくれていると思っていいだろう。
「ポールトーマスは? ほんとはなんて名前?」
僕は、ある意味ポールトーマスが本名だ。しかし、一応本来の名前を答える。
「トーマス」
「ふーん? だったら、『ポール』はどこから?」
「……死んだ、双子の弟」
ぼーっとしていたネル、いや、ロザリアは、目を見開いて僕を見た。改めて見ると、とてもかわいい顔をしている。
「え? ……いつ、亡くなったの?」
「一年ぐらい前。適性検査を受けるの楽しみにしてたな。得意な魔法が見つかったら、それを極めて大魔法使いになるんだって言ってた。なのに事故であっけなく」
「だから……トーマスはいろいろ頑張ってるんだ」
「うん、弟の分まで、僕はいろいろな魔法を覚えたいんだ」
「そう……」
「ロザリアか、かわいい名前だね。二人でいるときは、ロザリアって呼んでいい?」
「うん、私もトーマスってよぶー」
「いや、僕のことはポールトーマスでお願い」
「なんで?」
「ロザリア、うっかりみんなの前で本名呼びそうだし」
「えー。そんなこと……うん、ありそう……ポールトーマスにしとく」
すまん、ロザリア、ほんとはそんな理由じゃない。ポールがお前だけ名前呼ばれるなんてずるいって、ポールが引き下がらなかったんだ。だからポールトーマスでお願い。
あと、ポールについては、ロザリアの気を引くため大幅に変更して伝えてしまった。すべてポールの思いつきのでまかせだ。ポールが死んだ弟なのは事実だから、すべてが嘘ではないけど。
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