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第16話 リリイの部屋

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 レベル2になると、僕の即死魔法の範囲は今までの倍になり、さらに、一日に使える魔法の回数が少し増え、一日三回使えるようになった。また、魔力を使い切っても、前ほど疲れなくなり、魔力を使い切ったあと、ロビーで雑談できるぐらいの元気は残るようになったのだ。
 夕方にロビーに行くと、複合魔道士ポールトーマスがすぐに気づいて声をかけてきた。
「キルル、今日は具合はいいのかい?」
「ああ」
「よかった。みんな心配してたんだよ」
 ポールトーマスはとても面倒見が良い気質のようで、僕が寝込んでいたときもしょっちゅう部屋に様子を見に来てくれていた。しかも、彼は毎朝、ホームルームに遅刻しないよう全員の部屋を尋ねている。今年の特殊クラスの生徒全員ホームルーム皆勤なのは彼のおかげだ。
 ロビーには、特殊クラスの生徒がほぼ揃っていた。いないのは音楽魔道士カランドと瞬間移動魔道士ワープマンぐらいだ。カランドはたしか音楽学校にも通っているから忙しいのだろう。ワープマンは一箇所にじっとしていられない性分だから、ロビーでだべったりはしないと思われる。

 ロビーでは、皆蘇生魔道士リリイを取り囲んで話していた。
「リリイはすごいんだよ。どの魔法の授業でも誰よりも優秀だよ」
 ポールトーマスは言った。あまりの素質のすごさに皆興味津々らしい。リリイも、入学当初と比べれば随分明るい表情で皆と話しているが、相変わらず肌は恐ろしく白く、病人のようだ。僕はリリイの病的な白さが好みだけど、ここは好みが別れるところだろう。
 リリイは、廊下ですれ違ったりすると、「ごきげんよう」ととても上品に挨拶してくれる。僕はそれに満足してしまっていて、リリイと面と向かって会話したことは未だにない状態だ。
「キルルだ。なんだかロビーで見かけるの久しぶりね」
 笑わせ魔道士ショウが話かけてきた。
「ねえ、リリイの部屋、見たことある? すごいんだよ」
 ショウが唐突に尋ねてきた。女の子の部屋なんて見る機会ないよ、と返すと、
「そっか。そうよね。リリイ、あの部屋キルルに見せちゃだめ? きっとびっくりするわ」
 ショウに話しかけられたリリイは振り向いて僕を見た。リリイと目が合い、少しどきっとした。
「他のみんなと一緒なら、構わないわ」
 リリイがそう答えたので、ショウ、変身魔道士キャサリン、簡略魔道士リャと他の女子生徒と共にリリイの部屋を訪問した。
 
「わあ」
 リリイの部屋の扉が開いた瞬間、僕はびっくりして声を上げてしまった。
 リリイの部屋は、部屋というより森だった。
部屋の壁は全く見えず、木々がひしめいていた。地面は土になっており、草花が生い茂っている。部屋の隅の方には小さな池があり、真ん中は噴水になっていた。
「どうなってるの? これ」
 僕がポカンとしながら部屋を見渡すと、リリイが解説してくれた。
「習った魔法を駆使して故郷の村を再現したの。今の魔法ではまだ完璧じゃないけど、だいぶ落ち着くようになったわ」
 リリイは魔法で部屋を故郷そっくりにすることによってホームシックを緩和したらしい。発想もすごいが入学して二週間でこれができるのもすごい。今の僕なんて、この部屋の地面の草花の一部を枯らせることしかできないというのに。
「その、生活空間というか、寝起きはどうしてるの?」
「部屋を二分割してあるから、奥の部屋にベットやクローゼットがあるの。ごく普通の部屋だから、特に見せるものでもないわ」
 とリリイは言った。まあたしかに、女子の生活スペースは見ない方がいいだろう。森のようなスペースだけ見せてもらい、退室した。

 その後、少しロビーでみんなと話し談笑したあと、自室に戻った。
 リリイの部屋と比べて、僕の部屋は恐ろしく簡素だった。本棚に多少の本が並べてあるが、それ以外はほとんど寮に入った日と変わらなかった。一人部屋の寮の部屋としては恐ろしく広いこの空間を、僕はまだ持て余していた。
 後に、この部屋は自分の趣味を反映した部屋へと変化していくのだが、まだそれは先の話だ。
 
 
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