月の魔女と聖剣

空流眞壱

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聖剣の鞘の行方

第119話 聖剣キャリバーン

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月の魔女と聖剣

第119話 聖剣キャリバーン

 ジョージ41世から手渡された聖剣キャリバーンは、ウィリアムの手の中で静かなままだ。聖剣に認められぬ者の場合触れることも叶わない。まさか選ばれるとは思ってもなかっただけに、驚きは隠せずにいた。

「私を聖剣キャリバーンが選んだ?」

「ヘンリーも末姫もキャリバーンに弾かれた。残るお前が選ばれたと見るしかなかったのだよ」

 ジョージ41世も凡人ながら聖剣キャリバーンに選ばれた正統な王であった。が、ヘンリー王子はそうではない。聖剣が選ぶ時点で、何かを持っているのだろうと思う。

「わしの背中を一番つまらなさそうに見ていたお前が選ばれるとはな」

「父上の背中は母上を失ってから寂しさとつらさしか現れていませんでした。母上が生きていれば、また違ったのかも知れませんが」

 ウィリアムの言葉に、ジョージ41世は亡き妻を思い出していた。王となって一番良かったことが亡き妻をめとれたことだろうと自分でも思っていたからだ。そもそも、亡き妻は侯爵家でも一番権力から遠い家で王家に力をもたらさないことから嫁に選ばれた経緯を持つ。だが、ジョージ41世としては下手に傲慢な公爵家の令嬢よりも力をもたらさないからと選ばれた女性に心惹かれたのだ。

 公爵たちの横やりを受けつつも、なんとか国家運営が出来ていたのはできるだけ妻に良いところを見せたいと言う男の見栄と矜持がそうさせていた。その思いが父よりも国家運営がまともに出来るようになったと言われるようになった所以であった。

 そんな妻に一番似たのがウィリアムであり、才能も引き継がれていた。それだけに、隣国への留学はこの国で留まるよりも視野を広く持たせる事が出来るだろうとジョージ41世は思っていた。ヘンリー王子にはその才覚はなかったのだから。

「ウィリアム、聖剣を頼むぞ」

「父上、分かりました。聖剣に選ばれた身として、守り抜きましょう」

 ジョージ41世にそう言われて、聖剣キャリバーンを持ったウィリアムは剣を腰に差す。聖剣キャリバーンは、元々ウィリアムの持ち物だったかのように、その腰に収まっていた。それを見たジョージ41世は、世代交代を強く感じていた。

『シルバール王国はわしの代で終わりだが、王家の血筋はウィリアムが継いでくれる。息子の成長した姿を見られるだけでも幸せ者だと言えよう』

 次の世代に無事聖剣を渡すことが出来ただけでも、ジョージ41世としてはほっとしていた。自らの役目をこれで果たしたといわんばかりに。

 聖剣を受け取ったウィリアムは、そのままガーゼルベルトの部屋に向かう。既に、王都を離れる算段は付いていた。ガーゼルベルトも既に宰相の職を辞していた。王国最強の老将は、今なおこの国最高の将軍であったから。
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