月の魔女と聖剣

空流眞壱

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辺境伯対他貴族

第80話 盗賊退治の依頼

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月の魔女と聖剣

第80話 盗賊退治の依頼

 街道沿いに盗賊が出て封鎖されたと言う件は、冒険者ギルドにも伝わっていた。が、街道沿いの町の冒険者たちでは荷が重く、誰も依頼を受けることが出来ない状態であった。

 王国騎士団が街道沿いのモンスターを退治する為、冒険者になる者があまり多くなかった事とそれに付随して質まで高くなかったことが響いた。基本的に、盗賊退治はBランクアップの条件にされる位厳しいものだったりする。それだけに、下手なランクでは返り討ちにあうのが関の山であったからだ。

 そうなってくると話が回ってくるのが荒野の狼である。実質、盗賊を退治できる資格があるのがミストヘイムもしくは荒野の狼だけ。ミストヘイムの面々は実績は十分だが、実力が足りないと思っているから昇格試験はまだ受けないと聞いているだけに、動けるのは荒野の狼だけだった。

「盗賊かあ、あまりいい思い出はないかな」

「盗賊にいい思い出を持つ人はいませんよ。普通に過ごしている人からすれば、害悪そのものですから」

 ミリアの言葉にルーカが突っ込む。盗賊のおかげで家族や友人、恋人を失っている人も多い。真っ当に働いている人間からしたら犯罪者以外の何者でもなかった。

 なった理由は様々だが、それでもそうなることは回避出来たかもしれないことを考えれば、盗賊に慈悲はない。

 護衛を請け負う冒険者でも相棒や同僚を盗賊に殺された話は掃いて捨てるほどある。だからこそ、盗賊を許すと言うことはあり得なかった。

「盗賊ごときじゃ準備運動にしかならねえなあ。歯ごたえなさすぎだぜ。でも、退治は必要だろうよ」

 盗賊に遭遇したことで、人生が狂う人もいるだけに今回の依頼を受けないことはあり得なかった。ヘレナがそうであったからだ。

「街道の封鎖は、ウエストエンドよりも街道沿いの領地に相当の被害をもたらしていますし、早急に対処しますね」

 沙更もその辺りは分かっていたのでそう言う。辺境よりも他地域の方が被害が大きいからだ。領地差が大きいのもあり、領主の腕の差でもあった。

 そもそも、独自に騎士団を持つ辺境伯と侯爵以下の貴族では兵力差があり過ぎる上に、練度も違いがありすぎた。街道の見回りを王国騎士団に丸投げしている時点で質も分かろうと言う物。

 それに、盗賊たちも戦力差を知っているからか辺境には手を出して来ない。他地域から辺境へ襲いかかる盗賊は居ないのだ。もしやったら、やられるのが分かり切っていたからだ。モンスターとの戦いで実戦を経験した騎士たちを相手取るのは自殺行為にしかならない。王国騎士団よりも組織だって攻めてくる上に、辺境の騎士に取ってはモンスターよりも弱い。例外はあるが、基本的に盗賊が騎士団を相手にして勝ち目があるわけが無かった。

 魔法士が混ざったとしてもCランクモンスターに勝ることはない。余程手練れでなければオーガやサイクロプスなどと同列には並ばないからだ。

 とは言え、それは集団戦に慣れている騎士ならではであって冒険者にとっては脅威であった。

「今回の依頼は盗賊団の退治になります。依頼を完遂したら、大金貨1枚と金貨20枚です。カタリーナ様からの援助金もあり、少し高くなっています」

「もしかして、街道沿いの町から泣きつかれたとか?」

「当たらずとも遠からじです。町ではなく領主かららしいですよ?」

 ルーカの答えに、納得がいった5人だった。
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