月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱

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第145話 辺境伯の屋敷にて7

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月の魔女とよばれるまで

第145話 辺境伯の屋敷にて7

招いた側の予想しないことで、さらなる恩を売る形になってしまったことに驚愕するしかない。リエットを救って貰っただけならず、バタークッキーのレシピまでとなるとなかなかに笑えない事態になってしまったからだ。

これは、単に沙更の知識をジーク達が甘く見ていたことが原因なのだが。

一方、パウエル達からしてみれば沙更の知識が桁外れなのは分かっている上、料理の腕もあることは分かっているのでおいしいお菓子を食べられたことで逆にホクホクだったりしたわけだが。

「やっぱり、セーナちゃんが持つ知識から作るお菓子はおいしいね」

「さすがに、これは驚いたな。こんなさっくりとしてパサつかないクッキーは初めてだ」

「流石にうめえなあ。これなら、ミリアやヘレナが嬉しがる理由も分かるってもんだ」

「さっくさくのクッキーは本当においしいわ。これほどのクッキーを食べられるなんて」

ヘレナは完全に夢見心地といったところだろうか?ミリアは、沙更の料理の腕を知っているから嬉しそうな表情を浮かべている。

リエット自身もおいしいお菓子は嫌いでは無いらしい。自然に表情がほころんでいた。その変化に、ジークとして懸念材料が減ったことを感じていた。

(お嬢様が居なくなった間の変化が凄まじい。ここまで自然に表情を変えられるようになるとは思いもしなかった)

一気に表情が変化するようになったのは言うまでも無く、ムーンライトの効果の所為としか言えなかった。精神に働きかけ、眠る才能を揺り動かす力を持ちつつも精神を癒やす事も出来る魔法など、現代に存在出来るわけが無かったのだから。

そんな変化を見つつも、ジークは沙更に話しかける。

「これでは、恩ばかりが増えてしまいます。どうして恩を返していけばいいのやら」

「貴族として、恩を返さなければならないのなら開拓村の出の私にウエストエンドに住む権利をいただけませんでしょうか?本来ならば、開拓村の人間がここまで来てここに住むこと自体が逸脱行為なのでしょう?」

この世界での知識は、エーベルの古代知識とミリアからの現状を聞いたことしかない。が、それでも沙更にとってはそれだけでも推測という物は成り立つ。その推論から導き出されたことを口にしてみたのだが、当たりのようだ。

ジークは沙更に、その事を言われて動揺する。普通にはそれを知られていると言う事はない。が、開拓村の人間にだけはそれが適応されている事もまた事実であった。

「ふむ、貴女はこのウエストエンドに住みたいと?」

「元住んでいた開拓村は、邪教の集団に滅ぼされました。このままでは住む場所もありません。良ければ、このウエストエンドに住まう許可が欲しいです。ダメでしょうか?」

沙更にそう言われ、ジークとしてそこに拒否をする必要性を一切感じなかった。ここまでの恩を受けた人間に、そんなことくらいで報いられるとは思ってもいなかったが。
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