最弱の少年は、最強の少女のために剣を振る

白猫

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第2章

第2章 4

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 三人に『擬似魔剣』のつくり方を教え、槌を打ち始めてからずっと、横から視線が突き刺さっている。
「何だ、リア。なんか用か?」
 声をかけた途端、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。声をかけずに待っていたのは、リアなりの気遣いと思って良いのだろうか。
「質問です。何故レイは私達に『擬似魔剣』のつくり方を教えてくれたのですか?」
 何故だろうか。聞かれてみると言葉が出ない。別に三人を戦争に送り出したい訳でもないし、実力がしっかりあるのだから二対一を保つことが出来ればランク戦でも十分戦える。
「……理由がないな」
 思わず声に出てしまった。念のためってほど使用者の能力が上がるわけでもないからそうとも思えなかった。隣でリアが笑っている。そんなにおかしいことだろうか。
「もう一つ、質問です。この『擬似魔剣』をつくる刻印を弓に付けたらどうなるんでしょうか?先程の説明では、魔力経路パスを剣まで通す様なことだと言っていましたが、弓の場合、攻撃に使うのは矢であって弓ではないです。そうなると、弓に刻印をするのは無駄なのかもと思いましたが、どうなるんでしょうか?」
 自分の武器のことばかりでそんなことまで考えてなかった。だが、これも気になる。
「…………試しにつくるか」

 試作した弓を持って俺とリアは闘技場に戻ってきていた。さすがに、オリハルコンや俺がつくった『擬似魔剣』の多くに使われているミスリルを使うわけにはいかないので銀で代用した。その弓を持ったリアの藍色をした魔力がオリハルコンの時よりはかなり薄くではあるものの、しっかりと流れている。
 弓を構え、弦を引き絞り、的を狙う。リアが行ったこれだけの動作に、俺は思わず見とれてしまった。間違いなく、今までみてきた中で一番綺麗だ。
 的までの距離は二百メートル程。普通の弓なら威力減衰が激しく、そもそも当たることなどほぼないが、当たっても的に刺さらないほどの距離だ。
 リアが弦を押さえていた指を離す。瞬間、
「は?」
 遅れて衝撃波が俺とリアの身体を叩く。危険な域まで達したものではないが、矢を放って衝撃波ができるとはどういうことだろうか。しかも、この距離で的に当たった弓が的を砕く程の威力を出せるなんて、見ていなかったら信じなかっただろう。
「………………」
 リアは、口を開けて、放心状態で自分の放った矢が砕いた的の方を見ている。
「……驚き。自分でも放った矢が見えなかった」
「!!」
 放った本人でさえ見えない程の速さとは一体何なのか。刀の時も思ったが、これで再現なのだ。馬鹿げてる。人間の扱える魔力でこれだけの威力を出せるものに、最上位に数えられる天使や悪魔が封印されていると思うと、憧憬より畏怖の感情に近くなってくる。それはリアも同じようで、的の方を見るのをやめて、自分の弓を見ている。
「これで知りたかった事はわかったな。しかも、かなり強いこともわかった。ありがとな、リア」
「むふん。褒めてくれて嬉しいです。ありがとうございます、レイ」
 ぽすんと頭に手をのせてやると、リアは誇らしげにそう言った。その姿は小動物を思わせ、こちらの気持ちが和む。
「けど、その、むふんってなんだ?」
「…………」
 ………………ぽすん。
「むふん」
 …………ぽすぽす。
「むふん、むふん」
そういう原理か。
 ちらりと目を向けると、リアが、顔をうつむかせて顔を隠す。だが、耳が真っ赤なせいで顔まで真っ赤なのは容易に想像できる。この間も、俺はリアをぽすぽすし続けているので、横でリアはむふんむふん言っている。
「あの、……むふん、すみま……むふん、せん。恥ず……むふん、かしい……むふん、ので……むふん、やめ……むふん、ていた……むふん、だけます……か?……むふん、むふん」
 わかりづらいが、「あの、すみません。恥ずかしいので、やめていただけますか?」だろうか。
「小動物みたいで可愛いから無理だ」
「っ!?~~~~!!」
 更に顔を真っ赤にして、怒っているのだろうか?ほっぺたを膨らませようとして、むふん、と言って中の空気が抜けてしまう。この動作を何回も繰り返している。
 一頻りリアで遊んだので、そろそろ切り替えなければいけない。また『擬似魔剣』をつくりに戻らなければいけない。
「戻るぞ、リア。弓にもその刻印をつけるかは自分で決めてくれ。俺としては欲しいが、その判断はリアに任せる」
 俺の言葉に、リアは意外な反応を見せた。
「少し、怒っています。なんで私には、レイにあれだけ遊ばれて、何にも見返りがないんですか。不公平です!平等じゃないです!」
 まさかそんなことを言われるとは想像もしてなかった。でも、確かにその通りと言えばその通りだ。ここは俺が悪い。素直に認めるべきだろう。
「わかった。じゃあ何が欲しい?」
「…………回答です。恥ずかしかったですけど、とっても嬉しかったので、またこんな風に、頭をぽんぽんしたり、なでなでして欲しい、です」
 思わず、「は?」と声が漏れそうになった。まさかまたしてくれなんて頼まれると思わない。普通ならではあるが……。
 リアの方を見ると、リアは、上目遣いにこちらを見ていた。こんな風に見られたら断ることが出来るわけがない。
「……わかった。今度からも、こうしてやればいいんだな」
「わかれば良いのです。わかれば。さあ特別棟に戻りましょう」
 リアの言葉に頷き、特別棟に足を向けた。
「レイはバカです。女誑しです。鈍感です」
 後ろを歩いていたリアの小さな呟きは、俺には聞こえなかった。
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