最弱の少年は、最強の少女のために剣を振る

白猫

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第2章

第2章 2

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 リア達を挑発して少し経った。そろそろ仕掛けてきてもいい頃なんだが、初撃はいつくるん──
「だッ!?……とぉ、随分と手荒い歓迎だな」
 飛んできた矢をギリギリで躱す。飛んできたのは後ろ。一発も返さないのは気に食わない。
「『氷魔術アイススペル形状変化デフォルメアロー』」
 飛んでいく氷の矢を追いかけるように走りながら思う。
 簡略化された現在の魔術は便利なものだ、と。
 昔はこの氷の矢一本作るのに、一対一や一対多数での戦闘で扱えない程の時間をかけていたのだから驚きだ。それと同時に、そんなものをこんなに短い詠唱で飛ばせるようにした人の知能の高さが恐ろしい。
「きゃッ」
恐らくリアのものであろう小さな悲鳴。それを耳に入れギアをあげる。一瞬、右側で何かが揺れたように見えた。次の攻撃がくるのは右か?
「おぉぉっ!!」
左からスルトが飛び出てくる。隙の大きい袈裟斬りだが、不意打ちと、もう一人の気配で誤魔化されたせいで反応が遅れる。
「なっ!?」
 慌てて剣を抜きすんでのところで受け止める。元々大柄なスルトの剣撃は重く、受け流すことすら許されない。
「セァッ!」
声が聞こえたときには、短刀の攻撃が飛んでくる。ルカ・ルーン。しのびの家系に生まれた彼女の強さは剣技だけでいったら神々廻姉弟と遜色ないレベルだと個人的には思う。
 避けることもままならないまま脇腹に短刀が突き刺さる。
「ぐ、うぅ!!」ら 体勢を立て直すために大きく飛び退く。そこについさっき悲鳴が聞こえた方向から矢が飛んでくる。何とか身体をひねり躱すが、短刀のダメージで脇腹から血が溢れ出し、体の動きを制限していく。
「『氷魔術アイススペル形状変化デフォルメシールド
 『付加魔術エンチャントスペル身体能力強化  フィジカルブースト 全能力強化フルエンチャント』!」
 魔力切れ。これでもう、俺は魔術を使えない。でも、これだけあれば負けることはない。出血量からして、強制転移までは3分程、それまでにカタをつける。
 剣を捨て、体勢を低くし刀の柄に手を添える。氷の盾が割れた瞬間が最後のチャンス。絶対に逃すことはできない。
 目を閉じて、息を止める。三人は直線状に並んで、一番後ろのリアを守るような形になっている。これなら全員まとめて倒すことが出来る。
 蓄積したダメージからひびが入り、気味の良い音と共に氷の盾が砕け散る。
 目を開き、地を蹴る。その反動で地面が抉れ、土がまき散らされる。先ほどまでそれなりにあった距離が一気にゼロになり、三人それぞれの顔に驚愕の色が浮かぶ。
刀身が鞘の内側を滑りその姿をさらす。玉虫色の刃に純白の魔力が流れるそれは、一振りで三人を強制転移させた。
 思わず乾いた笑いが漏れる。
「ははっ。馬鹿みたいな切れ味だな」
俺の目の前には、三人の体に当たるはずだった、抜刀時の衝撃波が当たった数本の木々が横たわっている。学園の闘技場についている強制転移の魔術がなければどうなっていたのか想像もしたくない。一発で死に至る攻撃、または戦闘不能になったときにだけ発動する強制転移。試験的に導入されたものではあるが、この光景を見れば、その性能がかなり高いことも分かる。思いに耽っていると、身体から力が抜け、膝から崩れ落ちる。直後、一瞬空間が歪むような感覚に襲われる。たまらず目を閉じると、次にみたのは治療室の天井だった。
 強制転移から5分程度経っており、傷はほぼ塞がっている。これも便利なものだ。
 魔術と科学の融合。科学の力で傷が出来た部分、炎症、腫瘍などがある部分を見つけ、あらかじめ回復系魔術を中に封じた魔道具を使い、ピンポイントで治療する。現代の医療の最先端の技術であり、これのおかげで、より実践的に戦闘の経験を積めると言っても過言ではない。また、これもこの学園で初めて導入された技術である。
 こんなような形で試験的に導入されたり、初めて導入された技術が多い分、建設費用が安くなったらしい。
 革靴が床を鳴らす音が聞こえる。多分、別室の三人だろう。
「ちょっとレイ!ボク達あんなのがあるなんて聞いてないよ!」
 ドアが開くと同時に、そんなルカの言葉が飛んできた。他の二人も頷きながら入ってくる。
「言ってなかったからな」
「そうですか。それで、あの刀は何なんですか?」
 そう言ってくるリアは、無表情ではあるが、その瞳には純粋な興味、未知のものを知りたいという好奇心が見えている。スルトも後ろで目を光らせている。
「あれは、『擬似魔剣』。名前の通り魔剣を擬似的につくったものだ」
「「「っ!!!!」」」
 三人とも表情は違えど、その顔には驚愕の色が滲んでいる。
「そ、それで、どうやってつくったんだ?」
恐る恐る、と言う表現がふさわしいと思える声音で、スルトが聞いてくる。
「つくってみれば簡単だ。三人とも、今から打ちに行くぞ」
「うん!」「はい」「おうっ!」
 三者三様に喜んでいる三人に一言声をかけ、俺は、着替えのために一度寮に戻り、スミス専用の特別棟へと向かった。
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