最弱の少年は、最強の少女のために剣を振る

白猫

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第1章

第1章 6

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(何とかバレずに済んだか)
 誰もいない夜の学園の廊下は、靴の音がよく響き、辺りの静けさを際立たせる。
(どうして気付けなかった。どうして気付こうとする努力をしなかった、どうしてティナを傷つけさせた!)
 気付かぬうちに歩く速度が速くなる。自分への怒りと後悔が募っていく。
(俺が、守らないといけないのに!何でだ、何でだよ!)
 怒りを込めて振りかざした拳は、不覚にも目的地の扉を突き破るような形になっていた。
「おいロリババア、話がある」
 扉を開きながら放った言葉に、理事長クヴィナ・ラタ・リヴェラヴィアその人は、カラカラと笑いながら答える。
「随分と荒いノックの仕方だな、レイ。外でそんなことしたら本当に鳳の姓を名乗れなくなるぞ」
「ははっ。それならそれで楽になるかもしれないな。でも残念だったな、今回来たのはティナのことでだ」
「……ほう、あのソードマスターか。……それで其奴がどうしたと?」
あくまで余裕綽々な態度を崩さないクヴィナに俺は、苛立ちを隠すことなく言い放つ。
「約束と違うぞ、ロリババァ。あいつは前線に出さないでくれと頼んだはずだ!」
「おお怖い怖い。確かに君はそう言ったな……だが、誰がそれを承諾した?」
「っ!」
 実際、ティナが実戦に出るという時に頼んだときは、『考えておく』と言われただけで、承諾はされていない。
「だが、あいつは人を殺すことに耐えられるほど強くないと言ったハズだ!実際、倒れるような状態まで疲弊していた!」
「だから、なんだ?一流の兵士達は感情を殺してでも敵を殺すぞ。それが出来ないやつは死ぬだけだ。……言いたいことがそれだけなら寮に戻れ」
 その言葉で、俺の中で、何かが音を立てて切れた。
 そばにあった長剣を持ち足を踏み込む。一気に距離を詰めて上段から縦に一閃。その刃はクヴィナの肩口に吸い込まれ──。
 横から入ってきた細剣に
「っ!?誰だよ?」
「私ですよ。レイ君」
 その声は艶やかで、嫌ではないが、耳に残る、不思議な響き。俺はこの声の主を知っている。
「なんであんたがいんだよ……クレア・ラナ・シュタイン」
「理事長先生に用があったからに決まっているでしょう。理事長先生とお茶でもするとでもおもったんですか?……あぁ、あと、感情的に剣を振るうのは褒められたことではないですよ~」
 魔術階級1位『ソードマスター』で、この学園の生徒会長を務める先輩なのだが、この人は苦手だ。あまり会いたくはなかったのだが、起きてしまったことはしょうがない。
「……で、どこから聞いてたんですか?先輩」
 出来るだけ怒りを抑え、静かに問いかける。
「最初からだと思いますわ」
 驚く暇もなく先輩はクスリと笑って続ける。
「そこで提案ですわ、レイ君。私の権限をもって、私のチームと貴方のチームが初戦であたるようにして差し上げますわ。そしてその場で、貴方が私に勝つことができたら、戦場へと行けるように手配しましょう。そうすれば、貴方の思っているティナリアさんを守る、ということも可能になりますから」
 その提案を断ることができない事が悔しかった。ティナが無理をしていると分かっている以上俺には、それを断る理由がない。
「……分かりました。ただ、その試合、明後日でもいいでしょうか?」
「えぇ、かまいませんよね、理事長先生」
 俺たちの会話をずっと聞いていたクヴィナは、まるでこうなることを見透かしていたかのように、全てを了承した。若干、クヴィナや先輩の思うままに事が進んでしまったような気もしたが、結果的には、一応自分の目的は達成できたという喜びはあった。
「そうそう、あなたは気付いていないかもしれないけど、手からずっと血が流れてますよ。……これに気付いた誰かが、そろそろお迎えも来るんじゃないですかねぇ。それとも、それが目的ですか?」
 部屋を出ようとした俺の背中に投げられた言葉に振り向くと、先輩は、クスリと笑って手を振ってきた。たったそれだけのことが、抑えていた感情を爆発させた。
「あまり俺を舐めるなよ、クレア・ラナ・シュタイン。明後日、絶対にお前を殺す」
そういって、扉を閉める。寮に続く廊下を見ると、血の跡を辿ってきたティナがこちらに駆けてくるところだった。
 俺は、誤魔化しきれないことも忘れて小さな声で『ヒール』を唱え、手の傷を消してから、ティナの元へ向かった。
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