7 / 22
第1章
第1章 5
しおりを挟むそれから少し経った夕飯時。私はレイと一緒に食事を採っていた。先程までレイの脚を絡ませたりしていたのだが、顔を真っ赤にして拒否されたのでやめた。……顔を真っ赤にして慌ててるレイ、可愛かったなぁ。今度は写真を撮らねば!
「なぁティナ、最近、なんかつらいこととかあったりするか?……例えば戦場でなんかあったりとか……」
いきなり(に思っただけだが)喋りかけてきたレイに驚いて声を出す、なんてことはもうしない。けど、つらいことの8割方貴方の事なんだけど、とはいえない。レイ以外のこと、レイ以外のこと。
『戦争』
その言葉が出てきた瞬間、手が震え、鳥肌が立つ。息が止まり、過呼吸になる。
「……っ!……っ!」
喋りたくても喋れない。それがもどかしいが、それを伝えることすらできない。
「ティナ、大丈夫。ここにはティナに悪いことは起こらない。一度落ち着いて、それから話を聞くから」
レイは、耳元でそう私に言いながら、そのまま抱きしめてくれた。レイの体は暖かく、体の震えもすぐに収まっていった。でも、レイは私が落ち着いたと分かると、すぐに離れて私の向かいに座ってしまった。名残惜しくないと言えば嘘になるが、心配してくれているレイにそんなことを言うのは筋違いだろう。
「あ、あのね、レイ────」
そして私はこの一ヶ月半に戦場で起きたこと、無意識のうちになかった事にしようとしていたことをありのまま話した。戦場に沢山の死体がそのままの状態で転がっていたこと、自分が相手の呪術師や、『呪獣』を何人も、殺してしまったこと、最後に、自分と同い年のパラディンがすぐ近くで死んでしまったこと、それを自分が助けられなかったこと。その全てを話した。
それをレイは、険しい表情で聞いていた。一通り聞き終わると、先程までと一変した優しい表情になったレイは、私にこちらへ来るようにと促した。レイは、私を持ち上げて、膝の上にのせると、私に構いもせず頭を撫で始めた。
「ふ、ふぇ?」
やられていることが完全に幼い子供たちにやるようなことだと気付いていない私は、もうなにも考えられなくなっていた。
「 そんなにつらかったなら、俺に言ってくれれば……」
「ぁ、あうぅ」
レイの少し寂しそうな呟きの意味を理解できずに返事を返す。
「?なあ、ティナ、うなじが赤いんだけど熱でもあるのか?ちょっとこっち向いてみろ」
「ふぇ?」
変な声(本日3回目)を出しながら私はまた持ち上げられて、レイと向かい合う形になる。
突然レイが自分のおでこと私のおでこをくっつけた。
「!?!?!?!?」
(近い近い近い近い近いぃぃ!!)
顔が熱を持って汗が出る。レイの目を見てしまったせいで、自分が耳の先まで真っ赤なのも分かってしまった。
「熱っ!やっぱり熱あるじゃんか。とりあえず布団に……」
そういってレイは私を膝の上からおろしベッドに寝かせようとしたのだが、私のベッドを触って呻くように呟く。
「……汗でびしょびしょになってるし、これじゃ逆に悪化するよなぁ」
独り言のようにそう呟き、レイがこちらを見る。そして、覚悟を決めたように自分の布団を敷き始めた。
「嫌だとは思うが、我慢して俺の布団で寝ててくれ。その間にティナの布団のシーツ洗濯しとくから」
そして、若干頬を紅く染めながらレイが私にそう言った。
(か、かかかかわいい!なんなの?ねぇなんなのレイ?可愛すぎるんですけど!!私を萌え死にさせたいの?ねぇ、私をどうしたいの!?)
レイのかわいさに身をよじらせていた私を見て、レイは少ししょげたように口を開く。
「ごめん、やっぱ嫌だよな。他から借りてくる──」
「レイので良い!」
というかレイのがいい!
「いや、さっき嫌がってたと思うんだけど……」
「嫌がってない!むしろうれし……嫌だけど、他の人から借りるのは申し訳ないから!!」
「わ、分かった。それじゃあ洗濯しに行ってくるから……」
前のめりになってしまった私に、レイは気圧されたようにそう言うと、少し急ぎ足で部屋を出ていった。
レイの足音が遠ざかっていったのを確認してレイの布団に入ろうとしたとき、足の裏に何か温かいものが当たった。
「何これ?」
小さな水滴のようなものなのだが、部屋が暗すぎてそれがなんなのかは、分からない。
ただ、月明かりだけに照らされた部屋には、レイがどこに行ったか示すように、それが光っていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる