最弱の少年は、最強の少女のために剣を振る

白猫

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第1章

第1章 5

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 それから少し経った夕飯時。私はレイと一緒に食事を採っていた。先程までレイの脚を絡ませたりしていたのだが、顔を真っ赤にして拒否されたのでやめた。……顔を真っ赤にして慌ててるレイ、可愛かったなぁ。今度は写真を撮らねば!
「なぁティナ、最近、なんかつらいこととかあったりするか?……例えば戦場でなんかあったりとか……」
 いきなり(に思っただけだが)喋りかけてきたレイに驚いて声を出す、なんてことはもうしない。けど、つらいことの8割方貴方の事なんだけど、とはいえない。レイ以外のこと、レイ以外のこと。
 『戦争』
 その言葉が出てきた瞬間、手が震え、鳥肌が立つ。息が止まり、過呼吸になる。
「……っ!……っ!」
 喋りたくても喋れない。それがもどかしいが、それを伝えることすらできない。
「ティナ、大丈夫。ここにはティナに悪いことは起こらない。一度落ち着いて、それから話を聞くから」
 レイは、耳元でそう私に言いながら、そのまま抱きしめてくれた。レイの体は暖かく、体の震えもすぐに収まっていった。でも、レイは私が落ち着いたと分かると、すぐに離れて私の向かいに座ってしまった。名残惜しくないと言えば嘘になるが、心配してくれているレイにそんなことを言うのは筋違いだろう。
「あ、あのね、レイ────」
 そして私はこの一ヶ月半に戦場で起きたこと、無意識のうちになかった事にしようとしていたことをありのまま話した。戦場に沢山の死体がそのままの状態で転がっていたこと、自分が相手の呪術師や、『呪獣』を何人も、殺してしまったこと、最後に、自分と同い年のパラディンがすぐ近くで死んでしまったこと、それを自分が助けられなかったこと。その全てを話した。
 それをレイは、険しい表情で聞いていた。一通り聞き終わると、先程までと一変した優しい表情になったレイは、私にこちらへ来るようにと促した。レイは、私を持ち上げて、膝の上にのせると、私に構いもせず頭を撫で始めた。
「ふ、ふぇ?」
 やられていることが完全に幼い子供たちにやるようなことだと気付いていない私は、もうなにも考えられなくなっていた。
 「 そんなにつらかったなら、俺に言ってくれれば……」
「ぁ、あうぅ」
 レイの少し寂しそうな呟きの意味を理解できずに返事を返す。
「?なあ、ティナ、うなじが赤いんだけど熱でもあるのか?ちょっとこっち向いてみろ」
「ふぇ?」
 変な声(本日3回目)を出しながら私はまた持ち上げられて、レイと向かい合う形になる。
 突然レイが自分のおでこと私のおでこをくっつけた。
「!?!?!?!?」
(近い近い近い近い近いぃぃ!!)
 顔が熱を持って汗が出る。レイの目を見てしまったせいで、自分が耳の先まで真っ赤なのも分かってしまった。
「熱っ!やっぱり熱あるじゃんか。とりあえず布団に……」
 そういってレイは私を膝の上からおろしベッドに寝かせようとしたのだが、私のベッドを触って呻くように呟く。
「……汗でびしょびしょになってるし、これじゃ逆に悪化するよなぁ」
 独り言のようにそう呟き、レイがこちらを見る。そして、覚悟を決めたように自分の布団を敷き始めた。
「嫌だとは思うが、我慢して俺の布団で寝ててくれ。その間にティナの布団のシーツ洗濯しとくから」
 そして、若干頬を紅く染めながらレイが私にそう言った。
(か、かかかかわいい!なんなの?ねぇなんなのレイ?可愛すぎるんですけど!!私を萌え死にさせたいの?ねぇ、私をどうしたいの!?)
 レイのかわいさに身をよじらせていた私を見て、レイは少ししょげたように口を開く。
「ごめん、やっぱ嫌だよな。他から借りてくる──」
「レイので良い!」
 というかレイのがいい!
「いや、さっき嫌がってたと思うんだけど……」
「嫌がってない!むしろうれし……嫌だけど、他の人から借りるのは申し訳ないから!!」
「わ、分かった。それじゃあ洗濯しに行ってくるから……」
 前のめりになってしまった私に、レイは気圧されたようにそう言うと、少し急ぎ足で部屋を出ていった。
 レイの足音が遠ざかっていったのを確認してレイの布団に入ろうとしたとき、足の裏に何か温かいものが当たった。
「何これ?」
 小さな水滴のようなものなのだが、部屋が暗すぎてそれがなんなのかは、分からない。
 ただ、月明かりだけに照らされた部屋には、レイがどこに行ったか示すように、それが光っていた。
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