最弱の少年は、最強の少女のために剣を振る

白猫

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第1章

第1章 3

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 『生徒諸君!今すぐ第一闘技場に集まれ!』
 その放送の主は一瞬で分かった。俺の父親の妹にしてこのアルティア学園の理事長、クヴィナ・ラタ・リヴェラヴィアその人である。彼女は3年前に設立したこの学園の創設者の一人であり、今もこの学園にただ一人残っている。
 毎年新しい行事をこれでもかと立案するのだが、突拍子もないものばかりで、生徒に発表された後に却下されることがたびたびある。しかも、学校からではなく国からだ。
(あの、ロリババァ今度は何を考えていやがる!?)
 前回が「女子だけ水着で体育祭」とか言うふざけた内容(勿論却下された)だったので嫌な予感しかない。俺の考えている事など知るよしもない生徒達は、喜びの声をあげながら第一闘技場へと向かっていく。
「ああもう!どうとでもなれ!」
 そして俺は、その人の波に半ば流されるように第一闘技場に向かって歩き出した。
 闘技場は気持ち悪くなるような人数の人でごった返っていたが、ティナ達はすぐ見つかった。何せ、そこだけぽっかりと穴が開いたように人がいなかったからだ。
しかも、その中心で何やら口論までしていた。
「…………何してんだお前ら」
 ティナ、茜、葵先輩が口を揃えて叫ぶ。
「「「お前が悪い!!」」」
「は?」
 全くもって理解不能。それしか言葉が出てこない。俺の疑問に答えるように茜が俺に向かって話を続ける。
「だいたいお前がティナリ、ぐぼぁ」
 ティナが魔力を込めた渾身の右ストレートを茜の鳩尾に叩き込んでいた。茜は白目をむいて倒れている。
「アハハー、茜くんは何が言いたかったのかなー」
 今のティナの言葉を文章に直したら笑っているようにみえるかもしれないが、今のティナは全く目が笑っていない。どちらかというとマジでキレてる顔だ。 
『よく集まってくれたな!諸君』
 闘技場の中央から、マイクを通したエコーのかかった声が闘技場に響く。
 その声だけで、周囲は静まり返り、さながら、先程までの喧騒がまるで嘘のようだ。
 声につられ、闘技場の中央を見ると、そこには豪奢な黒いドレスを着た少女がたたずんでいる。ロリババァ、もとい理事長のクヴィナだ。
『これから、今月の行事の発表を行う。今回の行事は────チームに分かれてのランク戦だ!!!!』
 大きな横断幕が掲げられ、闘技場全体から、震える程の雄叫びが上がる。
『今回はしっかりと、国からの許可も取ってある。思う存分戦うがいい!』
 珍しく、まともな行事だった。しかも、事前に許可まで取ってあるとは驚きだ。
『それでは、この大会でのルールを説明しよう。1チームで最大の人数は4人、もちろんスミスも含めてだ。そしてこのとき、専属スミスは専属でついているチームとスミス限定チームの2つのチームを掛け持ちすることになるからな。
 勝敗は定められた試合時間の終了時のチームごとの人数、またはチームメンバーの全滅だ』
 一拍おいて理事長は元気よく締めの言葉を言う。
『対戦はトーナメント戦で行う。チームのメンバー、対戦表はもう決めてある。試合は明日からだ!皆寮に帰ってゆっくり休め!』
 その後クヴィナの言葉通り解散となったのだが、クヴィナの『スミスで、今完成させたい剣がある人は、学校に残って良い』と言う一言を聞き、俺は学校に残り、剣を打ちに行った。ティナが校門で待つと言っていたのでできるだけ早く完成させなければ。
 俺は、すぐに自分の鍛冶場に行って制服から作業用のつなぎにきがえ、未完成の剣を1本取り出し、もう出来上がっている刀身から延ばすように柄を造っていく。そして、剣を冷やしている間に刀の心鉄に魔術刻印を刻んでゆく。この作業が今造っているものの肝となる1番大事な作業になる。 緊張で震える手を動かし、なんとか刻印に成功する。その内容は、こうだ。
『我が魂の片鱗を以てこの剣に力を携えん』
 本物より、少し改編し、能力は落ちているが、これをしなければこの剣の使用者が、どうなるのかすら分からないのだから仕方ない。
 まだ柄も刀身も完成していない刀に魔力を流し込む。すると、その刀から薄くだが純白の魔力が漏れ出す。
「……やっと、やっと完成した……『擬似魔剣』!」
 『擬似魔剣』その名の通り、魔剣の模造品だ。本来魔剣は、七大天使、七つの大罪と呼ばれる14の天使、悪魔を封印した剣なのだから、それを完璧につくりあげることは不可能。だからどうなるのかすら分からないのだ。
 そして、冷やしていた長剣の鍔の中心に刀の心鉄にいれたのと同じ魔術刻印をした最上位の通魔金属、オリハルコンの水晶をはめる。そしてそこからのばすようにして魔術回路を組んでいけば完成だ。
「後2、3本打ってから帰るか……」
 思ったよりも、俺は『擬似魔剣』の完成に興奮しているらしかった。
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