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第1章
第1章 1
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学生寮を出て数分。幼馴染み布団侵入事件(ティナ命名)直後とはうってかわって上機嫌なティナと一緒に学園の廊下を歩いていた。誰かが、「ティナリア様が登校されたぞ!」と、お姫様でも現れたかのように騒ぎ立てる。その声が合図となり、教室から人という人が出てくる。
ティナリアが困ったような苦笑いでこちらを向いてきた。……いやいや、俺に助けを求められても何も出来ることなんてないんだが……。
そして、ティナに注目が集まったことで、視界の中に、いやでも俺が入る状況が出来上がる。こうなってしまったらもう面倒くさい。
「何アレ、スミスのくせにティナリア様といっしょにいるなんてあり得ない」
「しかも、嫌がってるのに無理やり連れてきてるぞ」
「本当、あり得ない」
「けど、そんなスミスにまで慈悲を与えてくれるティナリア様ってほんとに素晴らしいお方だわ!」
「いつもいつも隣にいるやついなくなれば良いんだけどな」
「……何で『鳳家の恥』のゴミがティナリア様といつもいっしょにいるのよ」
『鳳家の恥』名高いソードマスターを幾人も排出してきた鳳家で唯一スミスの階級に着いた俺のことを、周囲はそう呼んでいる。魔術に適正があったとしても、魔力が少なかったり、魔術をうまく使えなければ大半の生徒がスミスに落とされる。圧倒的に前者が多いのは言うまでも無い。
「ッ!?レイは恥なんかじゃ……!」
声を荒げるティナの口元をふさぎ、遮る。俺がこの学園で『鳳家の恥』と言われるようになってから、ティナはこのワードに過敏に反応するようになっていた。本人曰く「レイは恥なんかじゃなくて私のヒーローだから!」らしいが、親からもお前は恥だと言われたため、あまり実感はなかった。
「これは俺の問題だ。お前の関わることじゃない……だからお前は心配なんてしなくていい」
できるだけ優しい口調でティナをなだめる。少し不満げな表情を浮かべていたが、少しして、「レイが大丈夫って言うなら……」と言って、俺に一任してくれた。そして俺は周囲の学生達に向き直り、口を開く
「そんなに人を蔑みたいなら、俺に勝ってみろ」
俺がそう言うと周囲は一瞬で静まり返った。その理由は、自慢などではなく皆俺に勝てないから。最低階級のスミスに勝てない、などという恥をかきたくないからだ。
何故そんなことになったのかを知るには、入学してすぐの頃まで遡る。
魔術階級3位『ウィザードナイト』の階級にあたる先輩が俺とティナが一緒にいたところに突っかかってきたのだ。そいつの言い分は、「気高きソードマスターであるティナリア様に最低階級のスミスが触れるな」だそうだった。それに俺が言い返したところ、「お前如き俺が黙らせてやる」と言って申し込まれた試合だったのだが、相手が怒り心頭で、冷静な判断に欠いていたため、自ら攻撃する必要もなくスタミナ切れで勝ってしまったのだ。
そのおかげで、ほかの生徒からの煽りや、差別的なものの抑止力にはなっているのでありがたいが。
「じゃあまた放課後に」と言ってティナが教室に入る。それと同時に、ティナのときの崇拝するような歓声ではなく、黄色い悲鳴と言うのが一番正しい嬌声の塊が近付いてくる。
「いい加減つけ回すのやめてくんないか?変態ストーカーナンパ男」
そう言うと、相変わらずうるさい学生の群れの中から、チャラチャラとした容貌の少年が出てくる。
「ねぇレイくん、冗談でもその罵倒は酷いと思うんだけど、……一応僕、『パラディン』なんだからね」
そう言いながら腰に巻いた魔術階級2位の証である紺色のパーカーをひらひらさせる少年神々廻茜はへらへらと笑っている。
「冗談じゃなく本気だ。ドM変態ストーカーナンパ男」
「酷くなった!?」
「で、何の用だ、茜」
茜は、その言葉を待ってましたと言わんばかりに目を輝かせながら口を開いた。
「ティナリアちゃんと付き合わ「断る」」
「お前みたいなナンパ男には絶対にティナはやらん」
俺の言葉に渋い顔をする茜に、俺はさらに追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「どうせ三人ぐらい掛け持ちしているんだろ?そんなやつに純情なティナはやれん!」
そう言うと、茜は顔を赤くして半ば叫ぶようにして俺に向かって罵倒を浴びせてくる。
「なんでお前はティナリアちゃんのことそんな大切にしてるのに付き合ってないんだよ!?お前は保護者かなんかなのか!?」
出会って1分も経たずにキャラクターが崩れ始めている。
「付き合ってないのは当たり前だろ。どうせ幼馴染みでしかないんだから。二つ目の質問に対しても同じ答えだ。幼馴染みだからこそ良いやつと付き合わせてやりたいと思うんだよ」
話を聞きながら顔を青くしたり、赤くしたりしている茜に向かってそう言い切る。これで終わるかと思ったが、茜が急に真面目な顔になり俺に問いを投げかける。
「レイ、じゃあお前は、ティナリアちゃんがどういう感情を抱いてお前に接していると思ってんだ?」
「普通に幼馴染みとしてじゃないか?俺をこのパーティーに入れてくれるように頼んだのだって、俺が性格上、孤立しやすいからだ、って言ってたし」
「じゃあお前を寮で自分と同じ部屋に住ませたのは?」
「それは俺が、出来損ないの『鳳家の恥』って言われるのをできるだけ聞かせないようにするため、って本人が俺に向かって言ってきたからな。…………ティナの口からそれ言われたときはショックだったなぁ」
「じゃあ毎日登下校、特に午後の授業が短いのに待ってまで下校をいっしょにしてるのは?」
「さっきの部屋のと同じ理由なんじゃないか?……これは俺の推測でしかないが……」
「もうお前マジでなんなんだよ……どんだけ鈍感なんだよぉぉ」
もう顔色なんてものではなく、半泣きになりながら茜は、そう、俺に言ってきた。その時、物陰から、何かが倒れるような音が聞こえたような気がしたが、その声はまわりから聞こえる雑音にかき消された。
ティナリアが困ったような苦笑いでこちらを向いてきた。……いやいや、俺に助けを求められても何も出来ることなんてないんだが……。
そして、ティナに注目が集まったことで、視界の中に、いやでも俺が入る状況が出来上がる。こうなってしまったらもう面倒くさい。
「何アレ、スミスのくせにティナリア様といっしょにいるなんてあり得ない」
「しかも、嫌がってるのに無理やり連れてきてるぞ」
「本当、あり得ない」
「けど、そんなスミスにまで慈悲を与えてくれるティナリア様ってほんとに素晴らしいお方だわ!」
「いつもいつも隣にいるやついなくなれば良いんだけどな」
「……何で『鳳家の恥』のゴミがティナリア様といつもいっしょにいるのよ」
『鳳家の恥』名高いソードマスターを幾人も排出してきた鳳家で唯一スミスの階級に着いた俺のことを、周囲はそう呼んでいる。魔術に適正があったとしても、魔力が少なかったり、魔術をうまく使えなければ大半の生徒がスミスに落とされる。圧倒的に前者が多いのは言うまでも無い。
「ッ!?レイは恥なんかじゃ……!」
声を荒げるティナの口元をふさぎ、遮る。俺がこの学園で『鳳家の恥』と言われるようになってから、ティナはこのワードに過敏に反応するようになっていた。本人曰く「レイは恥なんかじゃなくて私のヒーローだから!」らしいが、親からもお前は恥だと言われたため、あまり実感はなかった。
「これは俺の問題だ。お前の関わることじゃない……だからお前は心配なんてしなくていい」
できるだけ優しい口調でティナをなだめる。少し不満げな表情を浮かべていたが、少しして、「レイが大丈夫って言うなら……」と言って、俺に一任してくれた。そして俺は周囲の学生達に向き直り、口を開く
「そんなに人を蔑みたいなら、俺に勝ってみろ」
俺がそう言うと周囲は一瞬で静まり返った。その理由は、自慢などではなく皆俺に勝てないから。最低階級のスミスに勝てない、などという恥をかきたくないからだ。
何故そんなことになったのかを知るには、入学してすぐの頃まで遡る。
魔術階級3位『ウィザードナイト』の階級にあたる先輩が俺とティナが一緒にいたところに突っかかってきたのだ。そいつの言い分は、「気高きソードマスターであるティナリア様に最低階級のスミスが触れるな」だそうだった。それに俺が言い返したところ、「お前如き俺が黙らせてやる」と言って申し込まれた試合だったのだが、相手が怒り心頭で、冷静な判断に欠いていたため、自ら攻撃する必要もなくスタミナ切れで勝ってしまったのだ。
そのおかげで、ほかの生徒からの煽りや、差別的なものの抑止力にはなっているのでありがたいが。
「じゃあまた放課後に」と言ってティナが教室に入る。それと同時に、ティナのときの崇拝するような歓声ではなく、黄色い悲鳴と言うのが一番正しい嬌声の塊が近付いてくる。
「いい加減つけ回すのやめてくんないか?変態ストーカーナンパ男」
そう言うと、相変わらずうるさい学生の群れの中から、チャラチャラとした容貌の少年が出てくる。
「ねぇレイくん、冗談でもその罵倒は酷いと思うんだけど、……一応僕、『パラディン』なんだからね」
そう言いながら腰に巻いた魔術階級2位の証である紺色のパーカーをひらひらさせる少年神々廻茜はへらへらと笑っている。
「冗談じゃなく本気だ。ドM変態ストーカーナンパ男」
「酷くなった!?」
「で、何の用だ、茜」
茜は、その言葉を待ってましたと言わんばかりに目を輝かせながら口を開いた。
「ティナリアちゃんと付き合わ「断る」」
「お前みたいなナンパ男には絶対にティナはやらん」
俺の言葉に渋い顔をする茜に、俺はさらに追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「どうせ三人ぐらい掛け持ちしているんだろ?そんなやつに純情なティナはやれん!」
そう言うと、茜は顔を赤くして半ば叫ぶようにして俺に向かって罵倒を浴びせてくる。
「なんでお前はティナリアちゃんのことそんな大切にしてるのに付き合ってないんだよ!?お前は保護者かなんかなのか!?」
出会って1分も経たずにキャラクターが崩れ始めている。
「付き合ってないのは当たり前だろ。どうせ幼馴染みでしかないんだから。二つ目の質問に対しても同じ答えだ。幼馴染みだからこそ良いやつと付き合わせてやりたいと思うんだよ」
話を聞きながら顔を青くしたり、赤くしたりしている茜に向かってそう言い切る。これで終わるかと思ったが、茜が急に真面目な顔になり俺に問いを投げかける。
「レイ、じゃあお前は、ティナリアちゃんがどういう感情を抱いてお前に接していると思ってんだ?」
「普通に幼馴染みとしてじゃないか?俺をこのパーティーに入れてくれるように頼んだのだって、俺が性格上、孤立しやすいからだ、って言ってたし」
「じゃあお前を寮で自分と同じ部屋に住ませたのは?」
「それは俺が、出来損ないの『鳳家の恥』って言われるのをできるだけ聞かせないようにするため、って本人が俺に向かって言ってきたからな。…………ティナの口からそれ言われたときはショックだったなぁ」
「じゃあ毎日登下校、特に午後の授業が短いのに待ってまで下校をいっしょにしてるのは?」
「さっきの部屋のと同じ理由なんじゃないか?……これは俺の推測でしかないが……」
「もうお前マジでなんなんだよ……どんだけ鈍感なんだよぉぉ」
もう顔色なんてものではなく、半泣きになりながら茜は、そう、俺に言ってきた。その時、物陰から、何かが倒れるような音が聞こえたような気がしたが、その声はまわりから聞こえる雑音にかき消された。
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