僕は君の姿を知らない

翡翠皐月

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藍沢穂希は作家である

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『盲目の小説家……??』

電話の声の主は岩本と名乗った。
春から俺の上司になる人らしい

[そう、今担当してる人が3月いっぱいで居ないんだって]

「そうですか……それで俺が…?」

[うん、君しっかりしてると思うし面接の感じからして優しいでしょ?ちょーっと無愛想だけど笑]

初の相手が目の見えない小説家とは、、
どうやら俺の編集者デビューの道のりは険しそうだ


____________________


「初めまして、今日からお世話になります。安達誠也と申します。右も左も分からないのでご迷惑をおかけしてしまうと思いますが何卒、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。」

[はーい、ありがとうー。ちなみに安達くんはもう担当決まってるんで!実践してみて上手くいかなかったら周りに聞いてみて~]

岩本さんは面接の時こそ怖かったものの、自分が想像していたよりもフレンドリーな上司だった。

社内は思っていたよりアットホームだけど、電話していたりデスクワークしていたりでしっかりした会社だ。


[安達くーん!早速担当の藍澤さんのところ行ってみようか。初めましてだし、一緒にいこう。]

「分かりました。よろしくお願いします。」

どういう感じでコミュニケーションをとったらいいのか不安だったのでありがたい。

藍澤さんの自宅兼仕事場である家は、会社から車で10分程だった。俺は自転車しか持ってないし30分くらいだろうか、いや、家から会社までが自転車で15分だから……45分、違う別に用事がなければ会社に寄る必要はない…

[……ん、…達くーん、、ちょっと聞いてる?安達くんー!!]

「あ、すみません。考え事を…」

[緊張して固まってるのかと思ったよ笑]

[まぁ、もうすぐ着くからね、あ、そうだ伝え忘れてたんだけど、盲目の方と話すのは初めてだよね]

「はい。」

声が聞こえない訳では無いし何かあるのか…?

返事したタイミングで藍澤さん宅に着いたようで車が止まった。

[まぁ、とりあえず俺一旦挨拶してくるから、その間、ちょっと目隠しして待ってて、社用車だから他の人入ってくるかも、]


藍澤さん宅にいるのになんで他の人入ってくるんだよ、というかなんで目隠ししなきゃ…と思ったものの

「分かりました…?」

と言ってその通り目隠しをした。

5分ほどすると車が開く。

すると急に肩を叩かれビクッとした

「おわっ、!」

[どうしました?]

岩本さんでは無い、この声は……?

「だ、誰ですか……?」

[内藤です。]

内藤さんは俺のもう1人の上司だ。それ以外は初対面だしほぼ知らない

「あぁ、内藤さんだったんですね、」

[急に肩叩いてすみません。びっくりさせてしまい…]

「いえ、大丈夫です。」

内藤さんはなんでここにいたんだろうか、、
岩本さん遅いな、、


そう思っているとまたドアが開く。

だけどさっきとは違った。


[ただいま。岩本だよ、目隠しをとるから耳に触れても大丈夫?]

なんだか、すごく安心した。

目隠しを取るとにこにこした岩本さんがこちらを覗いている。

「さぁ、安達くんよ。内藤さんの話しかけ方どうだった?」

え?岩本さん知ってたのか、


「びっくりしました」

[もっと言うと?]

「少し、怖かったです。」

[うん、その感情が正解だ。俺の話しかけ方は少し安心できただろ?]

「はい。最初に名前を言ってくれたおかげで誰か理解出来たし、触れる前に一言くれたので。」

[うんうん。盲目の人の気持ち少しは理解出来たかな?]

あぁ、そうか。

[目が見えない人は耳と感覚が敏感な人が多いんだ。目が見える人でさえ視界を奪えば敏感になるだろ?
だから、話しかけ方、会話の仕方、場所の教え方、全てが重要でコミュニケーションがとんでもなく大切になる。]

[言葉で伝えるより感覚でわかった方が接しやすいと思って、内藤さんに手伝ってもらったんだ。]

「すごく分かりやすかったです。ありがとうございました。耳は聞こえるし何とかなると思っていた自分の認識の甘さに気づきました。」

[最初なんてそんなもんだよ。俺は出る理由を作っただけで挨拶はしてないから一緒に行こうか。]


話しかけ方なんて気にしたこと無かったけど、
これからは気をつけてみよう


そんなふうに思った。

そしてそれを分かりやすく教えられる岩本さんは尊敬出来る上司だと改めて感じた。



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