捨てられたお姫様

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35、山の中での再会

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リナが山奥の小屋に置いて行かれて、泣きながらお爺さんの淹れたお茶を飲んでいると、小屋の扉を誰かがノックをする音がしました。

「リナー!リナー!」

リナのよく知るラナンの声がしました。しかもリナの事を必死に呼んでいるようでした。    

「‥お父さん!」

リナは急いで扉を開けると、ラナンが勢いよくリナに抱きついてきました。

「‥苦しい、お父さん‥。」

「あっ、ごめんごめん。でも、リナが無事で良かった。」

「‥お父さん、その姿‥懐かしいわ。最初に会った頃を思い出すわ。」

「‥あっそうか、慌てていておじさんの姿に変身するのを忘れてたよ。」

リナとラナンはしばらく抱き合ってお互いを見合っていましたが、何となく気恥ずかしさを感じて、どちらからともなく体を離しました。するとラナンは、お爺さんに向き合い、礼をして話をし始めました。

「お師匠様、お久しぶりです。彼女が僕の助けた赤ちゃんのリナです。」

「ほぉ、この子が例の子か。‥ふん、ふん、なるほど。」

お爺さんはそう言ってリナをじっと見ると、ニッコリ笑ってリナの頭を撫でました。

「リナちゃんか。苦労したね、よく頑張ったね。」

お爺さんはそう言ってリナのこれまでの苦労を労いました。

「お爺さん‥ありがとう。」

それからリナは、お爺さんがどれほど凄い人なのかをラナンに説明されました。

「‥この方は僕が悪い魔女を倒す為に、ずっと修行に付き合ってくれたお師匠様だよ。ちなみにこう見えても魔法協会のお偉いさんなんだ。」

「‥お爺さんって、そんなに凄い魔法使いだったのね。‥私ってば、そんな方にお茶を淹れて頂いてしまったのね。すみません。」

「アハハハ、良いんだ。‥それより、リナちゃんの「お父さん」と言うのはなんだい?ラナンと呼ばないのかい?」

「あっ‥お師匠様、それは‥僕がリナのお父さんに見えるように、旅の間中ずっとおじさんの姿に変身して、リナにも「お父さん」と呼ばせてたからです。」

「‥?お前達若い者の考える事はよく分からんな。なぜそんな設定を作ったのか理解できん。」
 
「‥僕がリナのお父さんになってやりたかったんです。‥家族になってやりたかったんです。」

ラナンがそう言ってリナに笑いかけました。

「‥ふん、ふん、なるほど。まぁ、二人ともしばらくはここでのんびり過ごすと良い。」

お爺さんは二人を小屋に残して、囚人達の働く様子を見に行ってしまいました。

リナとラナンは、部屋で二人静かに向き合いました。

リナはラナンをじっと見据えたまま、覚悟を決めたかのような真剣な表情で口を開きました。

「‥お父さん、私はニルバァナ大国の王にも、自分の生まれた国の王様にも嫌われてここに捨てられました。‥なぜなんでしょう?その理由をお父さんはご存知のはず。そろそろ教えて下さい。」

「‥‥‥もう少し待ってもらう訳にはいかないかな。」

「偉大な魔法使いに会うまで‥ですか?」

「‥そうだ。」

「お父さんは偉大な魔法使いに会って、何を教えて貰うつもりだったんですか?」

「‥‥それも、もう少し待って貰う訳には‥。」

ラナンのその言葉を聞いたリナは、頭にきたのかテーブルをバンッと叩いて大声で言い返しました。

「私は真実を知りたいんです。何も知らずに皆に嫌われて、とうとう山の奥にまで捨てられて‥‥私は自分が何者なのか、なんで嫌われるのかを知りたいんです!教えて下さい!」

ラナンはそれを聞いてしばらく考え込んでしまいましたが、リナの真剣さに負けてとうとう話す決意をきめました。

「‥リナ、僕の話を聞いても決して僕から離れて行かないと約束してくれるかい。」

「分かったわ。」

「‥落ち込んで自棄をおこさないと約束してくれるかい。」

「‥‥‥どんな酷い話を聞いても自棄をおこさないと誓うわ。」

「‥分かった。話すよ。まずは落ち着こう。」

ラナンはそう言って深呼吸をし、自分も椅子に腰掛けました。そして‥ようやく話してくれました。

「リナ、君はナステカ王国の双子のお姫様なんだ。‥だが、ナステカ王国で君にだけ悪い魔女が呪いをかけたんだ。」

「‥‥呪い?」

「‥死ぬまで自分もまわりも不幸になり続ける呪いをね。」

「‥‥。」

「それで君の父‥つまりナステカ王国の王は、災いが王家や国にくるのを恐れて君を僕に預けたんだ。君をナステカ王国へ入れないようにする為にね。」

「‥私の双子の姉妹は‥。」

「ナステカ王国のお姫様として育っている。‥多分君の存在は知らされていないはずだ。」

「‥私だけが要らない子だったんですね。」

リナは、自分のこれまでの人生を思い返していました。そして、自分が呪われた子だと言う真実を受け入れようとしていました。

「‥だから、私はいつも不幸になっていた訳なんですね。私は生きてる限り幸せになれないって事ですね。」

「‥リナ、これだけは言わせてくれ。僕は君と一緒にいて一度も不幸になった事はないよ。そんな馬鹿げた呪いなんて、信じなくても良い!」

「‥でもニルバァナ大国の王も、私を産んだナステカ王国の両親も私を捨てたわ。」

「‥僕は君を捨てない!一生そばにいるよ。」

「嘘!」

リナは泣きながらラナンを睨みつけました。

「嘘!お父さんだって‥本当はトランタ王国の王子なんだよ。私といつまでも一緒にいるなんて簡単に言わないで!そんなの無理なんだから!それに‥ニルバァナ大国の王女と結婚するんでしょ。」


リナは言いたい事を全て言い切ってしまったのか、それだけ言うとそのまま黙り込んでしまいました。

ラナンは、リナになんと声をかけていいのか分からずに困ってしまいました。

ですが、お爺さんの淹れたお茶を飲んで再び深呼吸をすると、急に何かを閃いたかのように明るい表情を浮かべると、リナのもとへ駆け寄り手を掴んで言いました。

「リナ、結婚しよう。血が繋がってなくても本当の夫婦関係がなくても、そうすれば家族としてずっと一緒にいられる!良い考えだ!」

リナはラナンの突拍子もない申し出に驚いてしまいました。ラナンが何のつもりでそんな事を言うのか訳が分からない様子でした。

「‥お父さん、正気ですか?私といると不幸になりますよ。」

「リナ!もうお父さんと呼ばなくて良いんだ。それに言っただろう?僕は君といても不幸になった事がないって。」

ラナンは満面の笑みでそう答えました。これにはリナも思わずつられて笑ってしまいました。

「‥フフフ。ありがとう、お父さん‥じゃなくてラナン。」

二人はすっきりとした気持ちで、心から笑い合いました。

そこへお爺さんが帰って来ました。

「ただいま。」

「お師匠様、僕達今結婚しました。」

「えっ、結婚だって?‥それが何か知ってて言ってるのか。」

「はい。家族になってずっと一緒にいる事にしました。」

「‥‥まぁ、そうだな。間違ってはないな。二人がそれで良いなら良いさ。おめでとう。」

こうしてその夜は三人で楽しく食事をして、狭い部屋で三人布団を並べて眠りました。

そして翌朝からはラナンとリナも、お爺さんの仕事を手伝い、真面目に働く囚人達とも打ち解けて、しばらくは平和な日々を過ごすのでした。
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