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31、消えたリナ
しおりを挟むラナンが相変わらず毎日お城か魔法の調査三昧の日々を過ごす中、リナはリナで食堂の仕事が忙しくなり、二人は完全にすれ違いの生活をするようになってしまいました。
「‥‥家族ってなんだろう。」
リナが仕事中に思わず呟いてしまうと、女将さんも同じく呟くように言いました。
「‥いて欲しい時にいなくて、どうでも良い時にいる存在‥かな。」
「いて欲しい時にいない‥か。」
「‥‥私なんかは旦那も亡くなって、息子も独立しちゃって、ずっと一人で生きてきたからなおさらそう思うのよね。‥でも、離れていても心配しあったり懐かしく思ったり、心で繋がってるって事よね‥‥。」
「‥‥そうなんだ。」
リナは女将さんの話を聞いても、いまいちピンと来ていないようでした。
「まあ、これはあくまでも私の考え方に過ぎないんだから。そう難しく考えないで。」
女将さんはそれだけ言うと、すぐにホールへ行ってしまいました。
女将さんは、ラナンが最近忙しそうにお城へ行くのは仕事だと思っているので、リナの複雑な思いには気付いてはいませんでした。
リナは、ラナンと王女の婚約話をお客さんから聞いて知っていたのです。それは仕方のない事だと分かっていたので良いのですが、ただその事をラナンが自分に話さずに隠している事に対して、少し腹を立てていました。
「‥朝からお父さんの事を考えてばかりね。駄目ね、仕事に集中しなきゃ。」
リナは何とかラナンの事を考えないようにしようと、仕事に集中しました。
厨房の中で、芋をひたすら皮剥きしていると、不思議とだんだん心は落ち着きました。
「‥リナちゃん、あんたにお客さんだよ。」
「はーい。」
ホールの方から女将さんが呼ぶので、リナが不審に思いながらも急いで行くと、身なりの良い男性達が扉の所に立っていました。
「‥リナさんですね。」
「‥はい。失礼ですが、どちら様ですか?」
「我々は王室の私的警備兵です。あなたの捜索願いが出ています。本当のご家族があなたを探しています。」
「えっ、本当に?」
「ご同行願えますか?」
「‥お父さんに確認してから、また改めて‥。」
「お父さん?それは血の繋がった本当のご家族ですか。‥‥我々は王命で動いているのです。この件は国際的問題になりますので、すぐにでもご同行願いたいのです。」
そう言って、その男性が王室の紋章入りの書面を見せてくれました。
「リナちゃん、これ本物よ。行かざるを得ないわ。」
「分かりました。行きます。」
リナは不審に思いながらも、王様の命令なら逆らうことも出来ないので、男性達について行く事にしました。
「お母さん、今までありがとう。お世話になりました。」
リナはもしかして女将さんと会うのがこれで最後かもしれないので、お別れの挨拶をしました。
「‥やだよ、この子は‥そんな一生会えないかのような挨拶‥。兵隊さん達、この子はこれからどこに行くんだい?この子のお父さんに伝えなきゃならないんだ、教えてよ。」
女将さんが警備兵達にそう聞いてみても、兵達は何の返答もせずに、黙ったままリナを馬車に乗せて走り去って行きました。
「‥私は、リナちゃんをこのまま兵達に引き渡して正解だったのかね‥‥何か大きな間違いをしてしまった気がするよ‥。」
女将さんは、リナを兵に引き渡した事を後悔しました。リナの事が気になって、もう仕事どころではなくなりました。
ガシャーンッ、
「‥女将さん、大丈夫かい?さっきからグラスを割ってばかりじゃないか。‥体調悪いなら、俺らが自分達で勝手に料理や酒を運んで適当に飲み食いするから良いよ。奥で横になってなよ。」
「‥ごめんね。少し休んで落ち着いたら戻るから。」
「ああ、そうしなよ。」
お客さん達の好意に甘えて、少し休むことにした女将さんですが、どうも落ち着きません。
しばらく女将さんが店の奥でモヤモヤしていると、店の扉が開いてラナンの声がしました。
「ただいま。‥女将さん、リナが店に出てないけど?」
「カルバンさん!大変だよ!」
女将さんは宿に帰ってきたラナンをつかまえると、リナが男達に連れて行かれた事を言いました。
「‥カルバンさん、リナちゃんの本当の家族がリナちゃんを探してるって本当なのかい?‥あんたがリナちゃんの本物の父親じゃないのは薄々気付いてはいたけど‥。私はあのままリナちゃんを男達に引き渡して良かったのかい?リナちゃんは無事なんだろうね?」
ラナンは、女将さんに体を掴まれ揺さぶられながらも、以前ニルバァナ大国の王様がリナの事で既に手を打ってある、と言っていたのを思い出しました。
「王様が‥リナを?一体どうするつもりなんだ‥‥。」
「‥カルバンさん‥。」
「女将さん。リナなら大丈夫、僕が今から探し出すから。」
ラナンはそう言って再びお城へ向かいました。
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