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39、ルシフェルと神
しおりを挟む私が歳をとり、そろそろ体が寿命を迎えようとする頃、マルキ公が私を訪ねて昔の公爵邸へやってきました。
「ルシフェル‥いや、その醜い老婆の姿をルシフェルと呼ぶのはよそう。‥マリア、またここで絵を描いていたのか?」
「はい。私はここで絵を描く事が大好きなのです。私がこの世界に来て、一番嬉しかったのが、絵を描けるようになった事なんです。」
「‥マリア、君が今描いてるのはなんだい?」
「私が天上界にいた頃の姿です。」
「‥ああ、たしかにルシフェルの姿だ。ルシフェルを見た時、この世にこんなにも美しい人がいたのかと驚いたよ。」
「その隣は公爵‥‥あなたです。あなたは甘えん坊ですから、この絵のようにいつも私に抱きついていましたね。」
「‥今も抱きつきたいけど、やめておくよ。だって君はあまりにも弱々しくて、俺が抱きしめたら壊れてしまいそうだ。」
「‥公爵、抱きしめて欲しい。」
私がそう言うと、公爵はその胸に私をそっと抱きしめてくれました。
「‥公爵、私は自分の意思でこの世界でマリアとして、人間の体で年老いていく事を選んだんです。後悔はありません。」
「‥ルシフェルは、マリアの体が死んだらどうするんだ?まさかルシフェルも死ぬのか!」
「‥私の魂は死にません。また何処かで会える日が来るかもしれません。」
「‥死なないでくれ。俺は君を愛してる。‥おいて行かないでくれ。」
私は、その手に絵筆を持ったままマリアとしての生涯に幕を閉じました。享年72歳。私の事を狂気的に愛してくれた夫に看取られながら天へと召されました。
「‥シフェル、ルシフェル。」
「‥私の名を呼ぶのは神か?なら私の魂は天上界に来たのか‥。」
「ルシフェル、お前は相変わらず惚れっぽい奴だ。人間に惚れて、惚れた人間の為に頑張ってしまったんだな。」
「‥はい。私は自分がいた世界の人間に触れ、人間の良さをようやく知る事が出来ました。私は人間を見下していた過去の自分を反省しています。
人間とは本当に素晴らしいです。
私は人間達が、自分達で平和な世界を実現させる様子を見届けました。‥その上であの世界は、私が消滅させる必要はないと判断しました。」
「ほお、己の傲慢さを知ったとな。ならばルシフェル、お前には再度地球へ行ってもらい、人間達を見守り仕える使命を与えよう。」
「分かりました。謹んでお受けします。」
「ふむ、よかろう。」
「‥あの、サタンはどうなりましたか?」
「‥心配するな、いずれ覚醒する。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「‥ルシフェル、お前のいた世界の様子を見届けてから地球へ行くがいい。」
神はそう言って、ルシフェルを大きな画面の前へと誘導しました。
画面を食い入るように見つめるルシフェルを見つめながら、神はルシフェルにバレないように呟きました。
「‥ルシフェルが改心したのは良い事だ。最初の目論見通りだ。‥だが、あの世界をルシフェルには是非消滅させて欲しかったのに‥‥残念だ。あの醜い悪魔達を私が生み出したのかと思うだけでうんざりする‥‥。地球人がよく言うところの、私の〝黒歴史”だ。‥‥ベリアル、いよいよお前の出番だ。今度こそ、お前の力であの世界を消滅させるんだ!‥‥私の大切なルシフェルを誘惑したサタンも共に滅ぼしてくれ!」
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