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35、賢王マルキ
しおりを挟む私のウェディングドレス仮縫いの翌日、早速医師が私の部屋へやって来ました。
そして、医師の詳しい診断で妊娠が確定しました。妊娠三ヶ月目だそうです。
仕事から帰ってきたらばかりの公爵が、私の妊娠の知らせを聞いて、すぐに私のもとにやってきました。
「‥ルシフェル、妊娠したって聞いたよ。」
「‥‥。」
「僕と君の赤ちゃんだなんて、素敵だな。産まれて来るのが楽しみだ。」
「‥公爵は喜んでるのか?」
「嬉しいよ、凄く嬉しい!ルシフェルは嬉しくないの?」
「‥よく分からない。」
「‥不安なんだね、でも大丈夫だ。僕がついてる。ルシフェルも赤ちゃんも守ってみせる!」
「‥私は不安なのか‥。」
「ルシフェル?」
「‥何だか眠い‥眠らせて欲しい。」
「ああ、ルシフェル、そうだな。ゆっくり寝てるといい。医師が妊婦は良く眠るように、と言っていた。」
「‥‥。」
私は部屋に戻るとすぐに眠りました。それからも何日か眠り続ける日が続き、公爵とは別々の部屋で過ごす事が多くなりました。
その間に公爵は戴冠式を済ませ、この国の王となっていました。
国王マルキの治めた何年間かの治世は、これまでとは打って変わり、平和で国民にやさしい政治であったと後に評価されました。
そして国王マルキの様々な改革は、世界中で評価されるところとなり、「賢王マルキ」として、その名は後世まで語り継がれる事となりました。
彼の行った改革は次のようなものでした。
まず、貴族達の不当な税金搾取がないように、農地を全て国が管理する事としました。
これにより貴族達は、これまで持っていた領地の所有権が国に移った為、領民から税金を取る事が出来なくなりました。
その代わり、領地を正しく管理・運営を行っていれば、国から年間で一定額の報酬が得られました。
そして次に行ったのは、国の子供達全員に教育を無償で受けさせる事の実現です。子供達の制服や教材も無償で国から提供しました。
この為、国中の子供達の学力が向上し、将来国を発展させてくれるであろう優秀な人材がしっかり確保されました。
更には、医療従事者の境遇を向上させ、国の医療関係の予算もこれまで以上に多く充てる事にしました。これにより、医療従事者は年々増加していき、国の医療は更に発展していきました。
彼の改革はこれだけに留まらず、芸術分野でも優れた者達に活躍の場を与えられるようにと、国の芸術分野の予算も新たに作りました。そしてその予算で、芸術分野専門の国立学院も開校しました。
これにより、我が国の芸術家達は世界的に有名になり、国内外を問わず活躍できるようになりました。
他にも彼の素晴らしい改革の成果は山程ありますが、その全てを語ろうとすると、枚挙にいとまがありません。
賢王マルキ、彼はまさに王の器を持つ男でした。
一方マリアは妊娠による重い悪阻や、切迫早産の危険があったりと、とても結婚式をあげられるような状態ではなかった為、式は延長される事となりました。
国民達は、まだ結婚式はあげていないものの、マリアをすでに王妃として認知していました。
国民達や王が、マリアが出産する日を今か今かと待ちわびていました。
そして、ついにマリアの出産の時が来ました。
マリアは、激しい痛みと闘っていました。
「‥‥‥苦し‥い。うう‥‥。う‥。」
オギャー、オギャー、
「‥‥産まれ‥た?私の赤ちゃん‥‥。なんて可愛いんだろう‥。」
長い陣痛の末、元気な産声をあげて無事産まれた赤ちゃんは男の子でした。
マリアは、しわくちゃな顔で泣く赤ちゃんを医師から受けとると、そっと胸元に抱き寄せました。
マリアは、赤ちゃんの温もりやずっしりとした重みを感じ、この上ない幸福感を感じていました。
この子の為なら、神にも抗える。
この子の為なら、全てを捨ててもいい。
この子が、世界で一番愛おしい。
我が子を抱くマリアの中に、これまで味わった事のない感情が湧出しました。
マリアにとって、こんなに誰かを愛しいと思うのは初めての事でした。
王マルキを愛しく思う気持ちや、ノートン様を恋しく思っていた頃の気持ちとは違う、全く別の愛を我が子に感じていました。
マリアは我が子を抱きしめながら、いつの間にか涙を流していました。
この時、マリアが我が子を抱いてる姿を見た者は、まるで聖母が天使を抱いているようだったと感動したそうです。
まさかマリアが、実は悪魔ルシフェルだなんて誰も夢にも思わなかった事でしょう。
この赤ちゃんの出産に、王も国民達も全員が歓喜しました。
マリアの産んだ赤ちゃんは、「クロノス」と名付けられ、次期王位後継者として大切に育てられるのでした。
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