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33、ルシフェルの決意

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私は公爵の腕の中で目覚めました。公爵は私を抱きしめたまま眠ってしまったようです。

公爵の寝顔はやはりとても可愛いらしくて、私をとても幸せない気分にしました。

‥‥公爵をこれ以上苦しめる訳にはいかない‥。私は今日でノートン様の肖像画を仕上げてしまい、彼とお別れをするべきなのでしょう。‥もう二人きりでは会えないのだと伝えなければいけません。

私は王妃になるのですから‥‥。

私は胸の奥がチクリと痛むのを感じました。それに何故か寂しいような虚しい気持ちがこみ上げてくるのです。

まさか‥私はノートン様ともう会えなくなる事を残念に思っているのでしょうか。

‥‥確かに彼に対して好意は抱いていました。それに公爵の事がなければ、私は‥‥。


「ン、ンン‥ルシフェル‥、どこにいる‥。」


公爵の寝言を聞いて、私はふと我に帰りました。私は今何を考えていたのか‥‥。

私は公爵の頭を撫でて、その額にキスをしました。

「公爵、私はどこにもいかない。ずっと公爵の側にいるから‥‥。」

私は寝てる公爵の耳元でそっと囁きました。

窓の外が段々と白んできました。

私は窓際へ行き、外が明るくなっていく様子をずっと眺めていました。草木は朝日に照らされて輝きはじめ、空は段々と青味を帯びてきました。

朝の景色のこんな清々しさとは裏腹に、私の心は何故かまだ鬱々としていました。

私は公爵の部屋を出ると自身の部屋へ帰り、身支度をはじめました。

侍女達が慌てて私の元へやって来ました。彼女達を朝早くから起こしてしまった事を詫びながら、私は身支度を終えました。

今朝もやはり侍女の淹れたお茶のみを頂き、朝食はとりませんでした。

「はぁ‥。」

私はソファーに横になりました。体が怠くて仕方がないのです。

しかも、私は元々性別のない天使でしたのに、最近は自分が女性らしく人間らしくなってきたような気がしてならないのです。

自分は天上界の大天使なのだからと、人間を馬鹿にしていた頃の私の中の傲慢さは、いつの間にかなくなっていました。

ノートン様とのふれあいで、私は人間も悪くはないな、なんて思うようになっていました。


‥‥公爵やノートン様のいるこの世界を滅ぼす事なんて私にできるでしょうか。‥‥それともこの世界をまともな世界にかえて治めたら、この世界の存続は神に許して貰えるのでしょうか‥‥。

私の心は、神に与えられた使命とは反する事を望み始めていました。


「‥人間とは、こんなにも感情に支配されてしまう生き物だったんだな。‥いや、違うか。私は昔から感情で動いていた気がする‥‥。だとしたら、人間と天使の違いとは何なのだ?人間と神との違いとは‥‥?」


私は答えの出ない思考の迷路から抜け出せないまま、ノートン様の屋敷へと向かうのでした。


一日ぶりに会うノートン様は、やはり素敵に見えました。

私は肖像画を描きながら、彼とまた他愛のない話をして楽しい時間を過ごしました。

「ノートン様、出来上がりました。」

「‥ああ、ありがとう。」

「ノートン様、今までありがとうございました。」

「‥‥こちらこそ、こんな素敵な肖像画を描いてくれてありがとう。それに素敵な思い出も‥‥。」

「‥ノートン様、私は‥マルキ公爵と婚約しました。」

「‥ああ。」

「‥もう二人きりでは会えないでしょう。」

「‥未来の王妃様、あなたとお城で会える日を楽しみに待っています。私が少しでもあなたの力になれるように‥もっと精進します。」

「‥ノートン様‥。」

「この肖像画とは別に、これも頂いても良いですか?」

ノートン様はそう言って、自身の上着の胸元から、私の伊達眼鏡を取り出して見せました。

「‥そんなものを‥なぜ?」

「あなたとの思い出の記念に‥‥。」

ノートン様は私の伊達眼鏡に口付けすると、またそれを大切そうに胸元にしまいこみました。

「さようなら、マリアさん。」

「さようなら、ノートン様。」

こうして私はノートン様との決別を果たしました。

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