地味令嬢画家とマルキ公爵の秘密

みるみる

文字の大きさ
上 下
32 / 43

31、初恋の自覚

しおりを挟む

私は眠たい目を擦り重い体を持ち上げ、侍女達に支度を手伝って貰いました。

「お疲れですか。」 
 
「ええ、最近眠くて眠くて‥‥。」

「目覚めの良いお茶を用意しますね。」

「ありがとう。」

私はお茶だけ飲むと、宰相のノートン様の屋敷へ向かいました。

ノートン様の部屋で、前回からの続きの絵を描こうとしたところ、部屋にいきなりたくさんの侍女達が現れて、私を別室へと連れて行きました。

そして、無理矢理着替えさせられ、化粧も施され、髪も結われました。

鏡の前で呆然として立ち尽くす私の前に、ノートン様は満面の笑みで現れました。

「マリア、今から出かけよう。」
  
そう言って、私の伊達眼鏡を外して自身の胸元にしまういこむと、私の手を掴んで玄関へと向かいました。

「えっ、今からですか‥。っていうか強引じゃないですか!」

「これぐらい強引でないと、君を外へ連れ出せないからね。」

「‥‥それにしても強引過ぎです。」

「ごめん、もうこんな強引な事はしないから。今日だけは付き合ってよ。」

「‥しょうがないですね。」

結局私はノートン様のお誘いを断りきれずにお出かけをする事になりました。

「君の服、僕が君に似合うと思って選んだんだ。僕の肖像画が順調に進んでいるご褒美だよ。ワインレッドが君の白い肌によく映えて美しいと思ったんだ。」

「‥ありがとうございます。」

「もっと喜んでよ。‥それともまだ怒ってる?」

「怒ってはないです。ただあまりの強引さに呆れているんです。」

「‥普通の女なら、ここで喜ぶのにな‥‥。」

「あら、こういう事をするのは私が初めてではないようですね。」

「‥いや、違う。そうじゃなくて‥‥僕の想像の中では、今日ここで君が僕の強引さに惹かれて恋に落ちるところだったんだ。」

「プッ、フフフ、何ですか?それ。ノートン様、可愛らしいところがおありなんですね。」

「‥‥マリア‥。」

ノートン様は急に私を抱き寄せ、キスをしてきました。

「ん、んん‥‥。」

私は驚いて、思わずノートン様を突き飛ばしてしまいました。

「‥あっ、びっくりしてしまってつい‥‥。すみません。」

「‥‥いや、大丈夫だ。僕がどうかしてた。ごめん。君が笑った顔が可愛いくてつい‥。」

「‥いえ、大丈夫です。」

気まずい雰囲気のまま、馬車が飲食店の前でとまりました。私は乱れた髪の毛を整えると、ノートン様に手を取って貰い、馬車から降りました。

「ここは‥?」

「‥‥〝エーアステ・リーベ″。街で有名な飲食店だよ。店主のワイン好きが高じてはじめた店らしいけど、美味しいワインが揃っているし、チーズも種類が豊富なんだ。料理も勿論美味しいんだけど‥‥とにかく君といつか来れたらいいな、と思ってたんだ。」

「プッフフフ、女性をいきなりお酒のあるお店へ連れて来るなんて‥下心が丸見えです。しかも昼間から‥‥。ノートン様は女性にモテモテな割には案外女性の扱いには慣れてないのですね。」

「‥‥そう言うなよ。何だか落ち込んでしまうな。」

「‥フフフ、私は落ち込んでるノートン様を是非見てみたいです。」

「‥マリア。」


オホン、

「ノートン様、お待ちしておりました。お席へご案内します。」

私達はお店の案内係に案内されて、壁際の少し目立たない席へと案内されました。‥それにしても、ここはとてもお高いお店のようです。ドレスコードでもあるのでしょうか。‥皆さん正装に近い服装をされています。

‥‥だから、私はノートン様に着替えさせられたのですね。

私が色々考えていると、ノートン様が心配そうな表情で私を見てきました。

「マリアは、こういう場所は嫌い?‥君が目立つのは嫌いだと言ってたから、席もここにしたんだ。‥‥あまり人目につかなくて良いだろ?」

「‥ノートン様、下心が‥‥。」

「‥違っ、これは本当に違う。君に食事や僕との会話に集中して欲しかったんだ。」

「フフフ、ノートン様は案外面白い方なのですね。私はノートン様といると楽しいです。」

「‥マリア、ありがとう。君からその言葉が聞けただけで、僕は充分満足だ。」


私達は良い雰囲気のまま、美味しいワインを楽しみ、会話に花を咲かせました。

ノートン様と話をするのはとても楽しかったです。私と話してる間も、ノートンの様の表情はコロコロと変わり、赤くなったり青くなったりして、退屈しませんでした。

それに彼はよく見ると、美しく男らしい容姿をしていました。

紫がかった艶のある黒髪、筋の通った鼻、切れ長の目、薄い唇、引き締まった体‥‥。

私は彼の性格だけでなく外見にも惹かれ始めていました。

彼を見てると、私の胸は苦しくなるのです。

私は公爵に対する愛情とは別の思いを、ノートン様に抱き始めていました。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

マリオネットララバイ 〜がらくたの葬送曲〜

新菜いに/丹㑚仁戻
恋愛
平穏に暮らしていた女子高生、神納木《こうのき》ほたる。 いつもの塾の帰り道、不審な存在に遭遇したのをきっかけに彼女の“いつもどおり”が終わりを告げた。 突然見知らぬ男に連れ去られた先は吸血鬼達の世界。 そこでわけも分からないまま裁判にかけられ、告げられたのは自身が謎の“シュシ持ち”だということ。 「登録のないシュシ持ちは処分される決まりがある」 処分――死を回避するためには誰がほたるにシュシを与えたか調べ、その者にシュシを取り除いてもらわなければならない。 突きつけられた命の期限、しかも周りは全員吸血鬼――彼らの抱く憎しみの矛先は、ほたる。 自分を攫った誘拐犯とともに、ほたるは吸血鬼の世界で旅に出る。 ※序盤はそこまででもないですが、中盤以降はグロめな表現がぽこぽこ出ます(私にしては極力控えているつもりです) ※カクヨム、小説家になろうでも掲載しています。 ※カクヨムにのみスピンオフと本編に収まらなかった番外編(予定)入りコレクションを置いています。  →https://kakuyomu.jp/users/nina_arata/collections/16816927859728193064 ©2021 新菜いに

その女、女狐につき。

高殿アカリ
恋愛
最近よくある不良もの。 つまりは、そう、お姫様の腹黒親友のお話。 猫かぶり主人公、一体どこまで騙せるかしら? 楽しく愉快に、笑いましょう。 恋とか愛とか、馬鹿馬鹿しいわ。 欲しいのは、その権力。 欲しいのは、その地位。 一年前のあの日、 私は寵愛姫になることを誓った。 その女、 女狐につき。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...