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29、堕天使ルシフェル

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私は公爵邸へ帰るとすぐに支度を済ませ、公爵の部屋に向かいました。

言われた通り公爵を待っていると、いつの間にか私は眠ってしまいました。

悪魔は眠らないはず。なのに、マリアのこの体が睡眠を求めていました。

「‥ルシフェル、ルシフェル。」

「公爵?あっ、そうかここは公爵の部屋だったか。」

「‥ルシフェル、疲れてるなら今日は何もせずに一緒に眠ろうか。」

「‥分かった。」

私がそう言うと公爵は私を抱き上げてベッドに寝かせて、自分も隣に横になりました。

「‥公爵、本当にしなくても大丈夫なのか?」

「‥大丈夫じゃない。だけど、明日の朝してくれるなら良い。」

「分かった。‥なら、今晩は少し話でもしようか。公爵はどんな話が聞きたい?」

「ルシフェルの昔の話が聞きたい。」

「分かった。」

私は公爵に天上界にいた頃の話をしました。



〝遠い昔、全ての創造主である神は、真っ白な空間でポツンと一人で存在していました。

神は何もない空間に自分一人だけが存在してる事に飽きてしまいました。

退屈で仕方なかった彼は、やがて宇宙や星を作りました。そして、闇の中に光を作り、天と地を作りました。地の上には獣や鳥を作り、最後に自分にそっくりな人間をつくりました。それが〝アダム″です。

私は、神が作った天、すなわち天上界にいました。天使の中で一番美しく、才能豊かな私は、地位も神の寵愛も欲しいままにしていました。

そんなある日、私の腰骨から一人の女性が生まれました。〝サタン″です。サタンは私の分身なのです。私はサタンを大切に育てました。サタンを愛していたのです。

なのに、神はサタンを女性だと言うだけで、醜いと言って嫌いました。女性は災いの元だと言うのです。私を誘惑した悪魔だと罵りました。

酷い話です!サタンだって、神の意志で生み出された私の一部だと言うのに、あろう事か、悪魔だと罵ったのです。

神はサタンを地獄へ落としてしまいました。そして、アバドンによりサタンの魂は長い間封印されてしまう事になりました。  

神はサタンにそんな仕打ちをした一方で、私には、地上に作られた最初の人間〝アダム″に仕えろ、と言うのです。

私は神を恨んで、他の天使達を率いて神に反旗を翻しました。この時一緒に戦ってくれたのがベリアルでした。

結局この戦いで私は敗れて、堕天使として地上に落とされてしまったのです。私は地球で宇野優香という女性に生まれ変わり、宇野優香の魂にルシフェルの魂を封印したまま地球で暮らしていました。

あれほど嫌がった〝アダム″の子孫として生きていたのです。

そんな中、私ルシフェルは再び神に呼び出され、マルキ公爵に召喚される形でこの世界に落とされてしまいました。″


公爵は、私の語る長い昔話を最後まで真剣に聞いていました。

「‥‥ルシフェル、君の昔の話が聞けて嬉しいよ。ありがとう。」

「まさか公爵は、私の話を全て信じてるのか?」

「勿論信じてる。君は僕の唯一の家族だから。あっ、そう言えば朝に言いかけた話だけど‥‥。」

「‥‥。」

「僕と結婚して、僕が王になった暁には君に王妃となって欲しい。」

「公爵は、私を愛してるのか?」

「君は僕が呼んだんだ。僕だけのものだ。だから、他のやつにとられるのは嫌だ。僕と結婚して欲しい。」

「‥‥公爵のそれはただの独占欲じゃないのか?私の事を愛してると錯覚しているのではないか?」

「‥分からない。僕は愛なんて分からない。だけど、君が欲しいんだ。君の心も体も僕のものだ!」

「‥‥。」

「僕がこんなに何度も君に結婚を申し込んでいるのに、王妃になって欲しいと言っているのに、何で君は返事をしてくれないんだ!挙句には、今朝のように僕に他の后を探せと言ってくる!何なんだ!君は僕の気持ちを弄んでいるのか!?」

「‥私も公爵を愛してる。だからこそ、公爵にはまともな女性を后に選んで欲しいと思っている。私の体が欲しいのなら、妾にでもすれば良い。私と話したいなら、いつでも応じてやる。私は公爵を愛してる!」

「‥ルシフェル、悪魔でもいい。僕と結婚してくれ。君以外の王妃なんて考えられないんだ。」

私は困ってしまいました。公爵を愛してるのに、私は公爵の愛には応えられないのです。

何故なら、私にはこの世界で果たすべき使命がある事を思い出してしまったからです。

神が私の魂の奥深くに刻んだ、抗えない命令‥‥。

私は公爵への愛と神の命令の狭間でこれからずっと悩み続ける事になるのでした。
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