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28、ノートン様

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私は部屋に入ると、専属の侍女達に手伝って貰い着替えを済ませました。

侍女のサラとユーリは、ずっと扉の側で控えたままでした。何か指示が出るのを待っている様子です。

「サラ、ユーリ、今日はもういいわ。明日から宜しくね。」

「はい。では失礼します。」

私がそう言うと、二人はやっと退室しました。二人はとても礼儀正しく素晴らしい侍女です。公爵の家にいた侍女達とはあまりにも違いました。


翌朝、私は公爵と共に食事をとりながら、公爵に今日の予定を伝えました。

「マリア、‥宰相のところにまた行くのか。宰相の肖像画は後何日かかる?」

「‥あと一週間ほどだと思います。」

「そんなに?だって、お城では二日目には終わってたじゃないか。」

「‥あれは、依頼者に本当に描いてもらう気がなかったようなので、いい加減に描きました。今回のは、ちゃんとした絵の依頼なので、きちんと仕上げたいです。」

「‥マリアは本当に画家なんだな。」

「ええ、画家ですよ。そして公爵様はまもなくこの国の王になられる方です。‥公爵様も、そろそろ御后様を探さないと‥‥。」

「その事なんだが、マリア‥君に‥。」

オホン、

「ご主人様、お時間です。」

「‥分かった。‥マリア、話の続きは夜だ。僕は仕事を済ませてから、またお城に行くから帰りが遅くなるけど‥僕の部屋で先に待っててくれ。」

「分かりました。」

公爵はベリアルと共に食堂を出ていきました。

私も食事を終えて、部屋に戻ります。

「マリア様、お着替えをさせて頂きます。」

「あっ、その汚いワンピースでいいの。それに自分で着るから大丈夫。」

「‥マリア様、駄目です。私達に任せて下さい。悪いようには致しませんから。」

「えっ、あっ‥。」

サラとユーリは、私の化粧をあっさりと済ませ、髪を軽く結うとシックなモスグリーンのワンピースを着せてくれました。

「あら、素敵。地味なのに、品があるわ。」

私は鏡に映る自分を見て思わず呟いてしまいました。

それを聞いたサラとユーリは満足そうに微笑んでいました。

「マリア様のお化粧は、下地クリームに薄くパウダーをはたいただけです。仕上げに艶のある茶系のリップを塗りました。髪は軽くハーフアップにしました。そして洋服は、淡い感じの色をお嫌いのようでしたので、大人っぽいシックな色のワンピースにしました。」

「素晴らしいわ。ありがとう。」

私は鏡に映った自分の姿にはあまり興味はありませんでしたが、彼女達の丁寧で心のこもった仕事ぶりに感動しました。


私はとても良い気分のまま宰相の屋敷へ向かいました。

宰相を前にして、昨日の続きから絵を描いていると、描き始めてまもなく宰相に話しかけられました。

「マリア嬢、僕の事はノートンと呼んでくれ。」

「突然どうしました?身分上宰相様を呼び捨てなんて出来ませんよ。」

「‥僕は君をマリアと呼ばせて貰うよ。」

「どうぞ。」

「‥今朝から機嫌が良さそうだったのに、僕に対しては素っ気無いんだな。」

「仕事中ですから。」

「‥描きながら話ぐらい出来るだろう?」

「宰相様は、今日はお仕事はしなくて良いのですか?」

「君が来る前に急いで終わらせたんだよ。」

「‥‥。」

「絵を描いてる君と、たくさん話がしたかったからね。」

「そうですか。」

「今日のマリアは可愛いね。薄化粧と控えめな髪型がよく似合ってる。それに、洋服も大人しくて僕好みだ。」

「侍女が優秀なんです。」

「侍女?貧乏で服も買えないと言っていたのに、侍女がいて、そんなに高そうな洋服も買えるなんて、よっぽど絵で儲けてるんだな。」

「私は人気の画家ですから。」

「アハハ、マリアは本当に良いなぁ。そういえば恋人はいないの?」

「‥‥いえ、いません。宰相様は私に恋人がいると思いますか?」

「うーん‥マリアは、他の令嬢達と違って可愛らしい洋服や派手な化粧もしないし、眼鏡をかけてるから、普通の男は君の事を女性として意識しないかもしれないな。」

「よくご存知じゃないですか。」

「でも、マリアの眼鏡を外したら美しいだろうな‥と気付く男もいるだろうよ。」

「そうですか?」

「例えば僕とかね。」

「宰相様なら、お美しくて優秀ですからお相手には苦労しないでしょう?私なんかにかまってないで、他の令嬢を口説いてみては?」

「フフフ、まあ良いよ。君の事はゆっくり口説いていくよ。なかなか一筋縄ではいかないようだから。」

「‥お手柔らかに。」

「‥本気なのになぁ。」

「‥‥。」

「マリア、今度一緒に出かけないか。」

「仕事以外で会うのはちょっと‥‥。」

「何だよ、そんなに僕は嫌われてるのか?」

「いえ、家族が厳しいんです。」

「それなら大丈夫、帰りが遅くならないようにするから。」

「分かりました、ノートン様。」

「あっ、今ノートン様って呼んでくれたよね。」

「フフフ、駄目ならまた宰相様とお呼びします。」

「駄目じゃない。‥マリアは案外意地悪だな。」 

「私は元々意地悪なんですよ。嫌いになりますか?」

「ならないよ。益々良い。」

「あっ、もう帰る時間になりました。」

「マリア、また明日。」

「ノートン様、また明日宜しくお願いします。」

私は絵も進んだし、ノートン様との会話も楽しかった事にとても機嫌を良くしたまま、公爵邸へ帰りました。
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