地味令嬢画家とマルキ公爵の秘密

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27、マリアと宰相ノートン

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私は例のごとく地味な令嬢画家としての扮装をし、王都の宰相ノートンのお屋敷に行きました。

宰相は、若くて優秀だと聞いています。今でも王様が建前上病気で亡くなった事になっている為、王様不在の中でアスモデウス扮するザギル公夫人の片腕として、国政に携わっていました。

そんな宰相が、この時期なぜ私に仕事を依頼してきたのかは分かりません。  

ですが、今度こそきちんとした肖像画が描けそうな気がしてワクワクしていました。

私がそんな事を考えていると、いつの間にか宰相の部屋の前まで来ていました。案内係が扉を開けて、私を中へ促します。宰相は奥のデスクから私を見ると、すぐに声をかけてきました。

「画家のマリア令嬢だね。私はノートンだ、宜しく。早速だが、すぐに私の肖像画に取り掛かって欲しい。‥私は時間を無駄にするのが大嫌いなんでね。」

「分かりました。今すぐに描き始めます。」

私は部屋ですぐにイーゼルを組んで、キャンバスを置くと、木炭で下書きを描き始めした。宰相は私に絵を描かれている最中も、体や顔を動かさないように注意しながらも、デスクの上の大量の書類に目を通しては、決裁していました。

「マリア嬢は‥絵は誰か師匠についていたのかい?」

「‥ほとんど独学でした。教会の天井画などを真似て、家でひたすら独りで描いていました。」

「‥その‥失礼だが、君はあまりドレスや化粧に興味が無いみたいだが‥。」

「興味がないと言うよりも、家が貧乏でしたから、ドレスなどは買う余裕がありませんでした。まぁ、ドレスがあったとしても、着ていく所もありませんから。」

「そうか。」

宰相は、私と少しだけ会話を交わすとまた書類に集中しました。

それにしても、最初は素っ気なく感じた宰相ですが、こうして話してみるとなかなか感じが良い青年のように思いました。

窓の外がオレンジ色に染まってきた頃、宰相は書類を全て決裁し終えたようで、椅子に腰掛けたまま大きく伸びをしました。

「あっ、しまった。マリア嬢‥動いてしまった。」

「フフフ、いいんですよ。動いて貰っても描けますから。私こそすみません、最初にそう言っておけば良かったですね。」

「‥マリア嬢、笑うとそんな感じなんだ。」

「変でしたか?」

「‥いや、良い。真剣に絵を描く君も素敵だが、君の笑った顔は可愛らしくて凄く良い。」

「‥ありがとうございます。」

「僕の肖像画を見ても良い?」

「まだ途中ですがどうぞ。」

宰相は、私のイーゼルの側まで来ると、そっと描きかけの絵を覗き込みました。

「‥ああ、僕だ。そっくりだ。しかも凛々しい。‥君には僕がこんな風に見えてるの?」

「‥多少は美化させて描いてますが。」

「アハハ、君と話してると面白いよ。令嬢と話してる気がしない。まるで同性の友人と話してるかのように、気楽だよ。」

「女性に見えないという事ですか?」

「いやいや、君は可愛いよ。きっと化粧をして、ドレスを着ればどんな令嬢よりも美しいだろう。」

「私は、あの淡い色彩の甘ったるいドレスを着るのは嫌ですから、このままで充分です。特に他の令嬢と美を競うつもりもありませんし。」

「‥君、良いなぁ。明日も来るよね?」

「絵が完成するまでは来ます。‥明日で宜しければ、明日も来ます。」

「‥明日も来てよ。同じ時間でいいから。」

「分かりました。」

私は宰相と明日も来る事を約束して、宰相邸を出ました。

公爵邸に帰ると、ベリアルが新たな侍女達を引き連れて出迎えてくれました。

「マリア様、ザギル公夫人より選りすぐりの侍女を何人か派遣して頂きました。マリア様専属の侍女を決めて頂きたいので、お気に入りの侍女がいたら、またお声がけ下さい。」

「分かりました。‥今決めたわ。この人とこの人ね。二人だけで良いわ。」

「承知しました。ではサラとユーリ、マリア様に付いて下さい。」

「はい。」

こうして私は専属侍女を二人決めて自分の部屋へと向かいました。
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