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22、ザギル公夫人
しおりを挟むザギル公爵夫人はお城の中をいくら探しても見つかりませんでした。そのため、私は一旦外へ出て庭園にある離宮らしき立派な建物を目指しました。
私が離宮の入り口まで来ると、夫人の侍女が何人かやって来ました。
「失礼ですが、招待状はお持ちですか。」
「いえ、ですが夫人の肖像画を描くように仰せつかってます。」
私がそう言うと、侍女達はヒソヒソと話し合いを始めました。そこで、私が持っていたイーゼルや油絵具の道具を彼女達に見せると、すんなり中へ入れてくれました。
離宮の中は、お城とは少し見劣りするものの、それでも贅を尽くした造りとなっていました。
私は離宮の中の一室に案内されました。部屋の真ん中にある大きなソファーに腰掛け、数人の若い愛人と共に、服を緩めて寛いでいました。
「‥あら、マリアさんもう来たの?」
「すみません。もし、ご迷惑でしたら出直してきますが‥‥。」
「‥面倒くさいから、今からで結構よ。すぐにやってちょうだい。」
夫人はそう言うと、近くにいた愛人の顎を猫を触るかのように撫でてやりました。
夫人のまわりの若い愛人達は、目がうつろで常に勃起状態で夫人に纏わりついていました。
侍女達は、この光景に見慣れているのか毅然とした態度で入り口に控えていました。
私はイーゼルを組み立て、キャンバスを置くと早速夫人を描き始めました。
すると夫人はニヤリと笑い、私に向かい話し始めました。
「‥久しぶりだなぁ、ルシフェル。私だよ、元は智天使だったアスモデウスだよ。天上界から一緒に追い出された仲じゃないか。」
「‥アスモデウス、お前まで何故この世界に?それに夫人の魂は?」
「‥昨日夫人に召喚されて、この世界に来たんだよ。夫人の色欲まみれの魂に惹かれてね。夫人の魂は‥‥夫人の体を愉しんだ後、食べたよ。夫人に取り憑いてた下っ端悪魔諸共ね。」
「‥そうか。」
「‥ルシフェル、お前もこの世界に呼ばれてきたんだろ。仲良くやろうじゃないか。」
「‥ああ。」
「お前、喋ってばかりで絵はちゃんと描いてるのか?」
私は白黒の絵の具だけで塗りたくった絵を夫人に見せました。牛と人と羊の頭に、ガチョウの足と蛇の尻尾を持つアスモデウスの絵を‥。
「フン、よくできている。」
「お前、夫人の二番目の王子に秘術を教えてくれないか。」
「良いだろう。この国の一番目の王子も居なくなってしまった今、新たな王が必要だ。俺が色々教えてやろう。すぐに連れて来いよ。」
「‥‥その足元の人間達は、インキュバスか?」
「‥ああ、常に発情している。いずれ国中の村に放し飼いにしてやるつもりだ。」
「‥うちのサキュバス二体も頼むよ。」
「‥頼まれ事ばかりされるのは嫌いなんだ。お前は何をくれる?その体を一晩俺に貸すのはどうだ?」
「‥うちの侍女達を全てお前にやろう。」
「‥良いだろう。いつでもここに連れて来るがいい。」
夫人はそう言うと、足元のインキュバス達を撫でてやり、頭にキスをしてやりました。
「‥元の夫人より、お前の方がよっぽど母性に溢れていて人間らしいな。」
「‥俺は慈悲深い悪魔なんだ。」
ザギル公夫人、いえ、アスモデウスはそう言って微笑を浮かべました。
私は自分の服や絵の道具などの荷物を纏めると、さっさとお城を後にし、公爵邸へと帰りました。
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