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13、馬車の中
しおりを挟む私と公爵は馬車に乗り込むと、無言のまま何分か過ごしました。
最初に口を開いたのは、公爵でした。
「その、君を何て呼べばいいのか‥。」
「皆んなの前では、マリアとお呼び下さい。公爵と二人きりの時はルシフェルで結構です。」
「‥その、君を女と認識して良いのか?勿論体はマリアの体なのだから、女なのだが‥。君はその、男の体にもなれると‥。」
「マリアの体は女ですので、皆んなの前では女性として扱って下さい。公爵と二人きりの時は、‥‥公爵のお好きな方で認識して下さい。私ルシフェルは、そもそも性別は無いんです。‥‥なんなら体もルシフェル本来の姿になれますが‥。それも公爵のお好みの方で。」
私がそう言うと、公爵は困惑しつつも何とか理解したようで、深く頷いていました。
「‥ルシフェル、僕と二人の時でも君の好きな姿でいてくれていいんだよ。勿論マリアの体のままでも、ルシフェルの姿でも。」
「公爵がそれで良いなら、それで。」
「ルシフェル、ただその名を呼ばせるのは、僕だけにして欲しい。」
「ああ、それはどうでしょう。ベリアルは二人きりの時、私をルシフェルと呼びます。公爵が嫌ならベリアルにもルシフェルの名を呼ぶ事を禁じますが?」
「‥ルシフェル、ベリアルとはどういう関係なんだ?もしかして二人は特別な関係にあるのか?」
「特別‥なんでしょうか。遠い昔からの知り合いなんです。私が天使ルシフェルの頃からの。」
「‥ルシフェル、いつか君の昔の思い出話を僕に聞かせてくれ。君の事をベリアルだけが知っているのは、何だか嫌なんだ。‥君は僕がこの世界に呼んだんだ。君はもう僕のものだ。‥そうだろう?」
公爵は悲痛な顔でそう言うと、私に抱きついてきました。
何だろう、この人懐っこい人間は‥。公爵は年齢は幾つだったろうか。これではまるで子供ではないか。
私が地球で宇野優香として亡くなったのが、人間年齢で26歳。‥公爵はそれよりも大分若く見える。それに随分と庇護欲をそそられる。‥これも公爵の計算なのだろうか。
私に抱きついて縋る公爵を見てると、最初に会った時のイメージとは打って変わって弱々しく見えました。
ああ、違う。これは公爵の計算でもなんでもない。公爵は幼い頃からずっと、今でも家族愛に飢えていたのだ。そして、公爵は私を唯一家族として認めていて、今もこうして私に甘えて縋っているのか‥。
私はまいってしまいました。公爵を利用して、消えた悪魔界をこの世界に蘇らせて、後にサタンも呼んでやろうと思っていたのですが‥‥。
これは‥‥公爵に情が移りそうだ。ベリアル、お前の言う通りだ。私は、私を求めてくる公爵を無碍に振り払えない。公爵、お前が私に家族を望むなら、なってやろう。私がこの世界で唯一のお前の味方になってやろう。
ああ、ミイラ取りがミイラになってしまったな。
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