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7、マルキ公爵side 1
しおりを挟む僕は、この国の第二王子として生まれた。厳格な父と、兄ばかりを可愛がる母は、僕に充分な愛情を注いではくれなかった。
僕は、いつも5歳年上の優秀な兄の影に隠れた存在だった。
剣も銃も勉強だって社交術だって兄の足元にも及ばなかった。
まわりの人間達が兄だけを褒めそやす中、僕は一人で空想の世界へと導かれて行った。
僕の想像の世界の中には、とても不思議な生き物達がいた。お腹を大きく膨らませたカエルの口から、溢れ出てくる裸の大人達。池の蓮の葉の上で昼寝をする小さな悪魔。お尻をランプのように光らせて、辺りを照らす心優しい昆虫男。
僕は空想の中の沢山の怪物や悪魔達と、自分も戯れたいと本気で願った。
だけど、これらは全て僕の頭の中で完結している非現実的な世界なのだという事もちゃんと理解していた。
それでも、僕は自分の空想の世界の虜になってしまっていた。この空想の世界を表現したい欲求は、もう誰にも止められない。
そこで、若き芸術家達の育成という名目のもと、沢山の表現者達を僕の屋敷に集めたのだった。
そして、僕の屋敷に来た音楽家たちは、巷で流行りの華やかで軽い音楽ではない、重厚で盛り上がりのない音楽を生み出した。
この音楽をピアノで弾かれると、僕はとても落ち着いた。貴族達が好む軽薄な音楽とは違い、実に体に馴染む音だと感じた。
僕は王宮や貴族の館で開催される夜会が嫌いだった。そこで話される会話も、音楽も、人々が着るやたらと明るい洋服も、まるで道化のようだった。
僕は自分に合う暗い色の服を好んだ。そして、お気に入りのドレス工房を見つけた。
デザイナーは、地味な格好をした男だったが、腕もセンスも一級品であった。
作り出す服はどれも巷では悪趣味と酷評されていたが、僕だけは彼のセンスを理解できた。
彼の服は着る人を選ぶ服だった。彼の服を着る者は、軽薄であってはならない。それに煌びやかであってはならない。暗い影のある、高貴な人物である僕こそ、彼の服を着るのに相応しかった。
彼は、最初に僕と会った時、僕の姿を見るなり感動して抱きついてきそうな勢いだった。
僕の姿や存在は、彼の創造意欲を刺激するらしい。
僕はこの事を素直に嬉しく思えた。僕は彼という素晴らしいデザイナーに認められたのだ。
そしてもう一人、僕は優秀な芸術家を見つけた。マリア・ロズベル伯爵令嬢だ。
彼女の実家は貧乏で、彼女の画家としての稼ぎは実家の生活費に当てられているようだった。
彼女の実力は素晴らしいと巷で評判だった。実際に彼女の描いた人物画や風景画を見たが、素晴らしい描写力だった。
彼女なら、僕の頭の中の世界を絵にして、可視化してくれるに違いないと思えた。
僕は彼女にとても興味を持った。そして早くこの屋敷に呼びたいと思った。
それにもし、彼女が若くて美しい処女だったら、以前からやりたかった事が実現するかもしれないと期待した。
だから、我が公爵邸のお抱え画家として彼女を呼んだ。そして、実際に僕の執務室を訪れて挨拶をする彼女を見た時、僕は確信した。
彼女は間違いなく処女だ。男を知らない。それにみすぼらしい身なりだが、磨けばひかる美しさがあった。
そして僕は後に、彼女の描く絵と彼女自身に惹かれていくのだった。
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