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6、キャロルの気持ち
しおりを挟むガナンは一人で屋敷へ帰ると、侍女を呼びました。やってきたのはマリーでした。
「‥髭を剃って、髪をさっぱりさせようと思うんだ。‥頼むよ。」
ガナンが頭をかきながら、恥ずかしそうにそう言うと、マリーは腕まくりをしながら目を輝かせてこたえました。
「ガナン様!とうとうその気になられたのですね。‥ええ、ええ、宜しいですとも。私、頑張らせてもらいます!」
「‥ああ、頼むよ。」
こうしてガナンは、自身の外見を変える決断をしました。
一方その頃ダンテのアトリエでは、男爵夫人が一点の絵画を購入し、メグに包装紙で包んで貰っていました。
ダンテが後日屋敷まで届けると言ったのを、夫人が断ってすぐに持って帰りたいと言ったからです。
「お母様、どんな絵画を買われたのですか?」
「ホホホ、帰ってからのお楽しみよ。ガナンとあなたの反応が楽しみだわ。」
夫人はそう言って馬車に乗り込みました。キャロルは絵が気になって仕方がありませんでしたが、それよりも屋敷に帰ってガナンに会う事を考えて少し憂鬱になっていました。
「‥キャロルさん、ガナンとはどう?」
「‥どうとは?」
「ガナンを少しは好きになれたかしら?」
「私は初めて会った時から旦那様を好きでしたよ。勿論外見は一般の女性からしたら怖いかかもしれませんが‥‥。でも私はあの髭も髪も旦那様らしくて好きです。それにあの髭も見た目は堅そうですが、長く伸びてる部分を撫でていると案外気持ちが良いのですよ。」
「‥キャロルさん、あなたいつの間にガナンの髭を触るほどの仲になってたの?」
「‥あっ‥違うんです。旦那様とはまだその‥まともに会話すらできていませんが、その‥旦那様が寝ている時に、つい出来心で髭を触ってしまいました。」
キャロルはそう言って、両手で赤くなった顔を隠してしまいました。
「‥キャロルさん、あなたはあのガナンの髭も好きだと言ったわね。」
「‥はい。」
「ガナンの母である私が言うのもなんだけど‥、あのむさくるしい外見と愛想のないガナンが旦那で辛くない?」
「‥私は、愛想が良くて口がうますぎる人が、お父様を騙してお金を奪って行く場面を何度も見た事があるんです。ですから、下手に愛想を振り撒かない旦那様に寧ろ好感を持っています。
それに‥あの強面の旦那様が、赤ちゃん熊みたいに可愛い寝顔で寝てるのを見ると‥何だか猛獣を飼い慣らしてるみたいな気分になるんです。」
キャロルがそう言って、恋する乙女のように目を輝かせているのを見た夫人は、キャロルとガナンが両思いである事を確信しました。
「フフフ。そうなの、あなた達両思いなのね。なら、話は早いわ。
でもあなた達だけに任せてたら、いつ孫に会えるか分かりゃしないから‥私がなんとかしなくてはね。」
夫人はそうやってボソボソ呟きながらほくそ笑みました。
「お母様、何かおっしゃいましたか?」
「フフフ。何でもないのよ、キャロルさんは何も心配しなくていいのよ。」
夫人はそう言って、頭の中にいろいろな計画を立てていました。ガナンとキャロルが仲良くできる様々な計画を‥。
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