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5、ガナンの誤解

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ガナンが殺気を飛ばしながら覗き見を続けていると、男爵夫人がそれに気付き窓辺に近づきカーテンを閉めてしまいました。

「夫人?どうかしましたか。」

「‥いえ、日が射してきましたので‥。少し席を外しても大丈夫かしら?」

「構いませんよ。‥キャロルさんテラスへ移動してお茶でもしましょうか。」

「‥あっ、はい。是非‥。」

夫人がアトリエを出た後、ダンテとキャロルも続いてアトリエを出てテラスの方へ歩き出しました。

テラスには、お手伝いさんらしき美少女が立っていました。お茶の用意と焼き菓子をワゴンに乗せて、二人を待っていました。

「‥キャロルさんは甘いものは好きですか?」

「ええ。大好きです。」

「良かった。僕も甘いものはすきなんです。」

二人は甘いもののせいか、すぐに打ち解けて会話に花を咲かせました。


「‥アハハ、じゃあキャロルさんは貴族なのにそんなに貧乏な暮らしをしていたんですね。何だか親近感がわきました。」

「フフフ、私もダンテさんがこんなにも気さくな方だとは思いませんでした。」


「‥ところでキャロルさん、実は横にいる彼女は僕の内縁の妻なんですよ。」

「‥え?籍は入れてないのですか。」

「‥あまり公にはしていないんです。僕の熱狂的なファンが、彼女が私の妻だと知ると嫌がらせをしかねないので‥。」

「私に話してしまっても良かったのですか?」

「男爵夫人とキャロルさんなら大丈夫だと思いました。」

「信用されているようで嬉しいですわ。えっと‥お名前は?」

「メグと申します。」

「メグ、宜しくお願いしますね。」

キャロルは時折メグを見るダンテの優しそうな表情を見て、ダンテのメグに対する愛情がとても深い事がよく分かりました。

「‥はぁ、お二人が羨ましいわ。」
 
「キャロルさんは結婚したばかりでしたね。旦那様は優しくしてくれないのですか?」

「‥なぜか避けられてます。嫌われているのかもしれません。」

「‥ガナン様は見た目からして怖いですからね。女性はガナン様を苦手に思うかもしれませんね。‥キャロルさんが無意識にガナン様を傷つけていたような事はなかったですか?」

「全く見に覚えがありませんわ。まあ、確かに旦那様の外見がむさくるしくて強面なのは認めますけど‥‥。でも私は‥。」

ガサガサ、

「‥‥えっ、今そこの茂みが揺れませんでしたか?」

「鳥か何かでしょう。」

ダンテがそう言うと、二人は再び会話を続けました。

話してるうちに、キャロルがメグにも話を振ると、それからは三人で夫婦の事やら絵の話で盛り上がっていました。

そしてそんな三人の楽しそうに会話をする様子を、覗き見る人物がいました。ガナンです。

ガナンは、キャロル達がテラス席へ移動すると同時に、窓際からテラスの茂みへ移動していたのです。

「‥キャロルが俺をむさくるしくて強面だと言った‥。」

ガナンは二人の会話を盗み聞きして、キャロルが自分の悪口を言っていた事にショックを受けていました。

ガナンは動揺して思わず茂みにぶつかり、茂みを大きく揺らしてしまいました。幸い二人には気付かれずにすみましたが‥。

ガナンは大きい体をうつ伏せにして、そろそろと後退してその場を去ろうとしました。

ですが、そんなガナンの背中を足で踏みつける無礼者がいました。

「‥‥!」

ガナンが声を出さずにその人物に抗議の目を向けると‥‥そこにいたのは、男爵夫人でした。

男爵夫人はガナンを建物の裏へ誘いだし、ガナンの奇行を責めました。

「ガナン!あなたは一体何をしてるの。私達のあとをつけてきたのね。キャロルさんが心配なら心配だと言えばいいのに!それに来るならもっと堂々と来なさいよ。」

「‥‥キャロルが俺の外見をむさくるしいと言っていたんだ。」

「‥それであなたは傷付いたとでも言うの?」

「‥‥。」

「外見の事を言われたくなければ、その髭を剃って長い髪を切ることね。」

「‥それは‥まるで女達の趣味に迎合するみたいで嫌だな。」

「あなたは、そのちっぽけなプライドをまず捨てるべきね。外見を変えろというのは、何も女性に媚を売れと言ってるわけではないのよ。人を不快にさせない為の最低限のマナーを守れと言ってるの。‥分かる?」

「‥‥。」

夫人はそれだけ言うと、キャロルとダンテのいるテラスへ向かいました。

ガナンはまだショックから立ち直れないまま、ダンテの家の門の方へ歩いて行きました。

その時、ふと木陰で休ませていた女性の事を思い出して声をかけに行きました。

「‥お嬢さん、大丈夫ですか。お嬢さ‥。」

「キャーッ!」

ガナンが声をかけられて目を覚ました女性は、目を開けてすぐにガナンの顔が見えたので、悲鳴をあげてしまいました。そして、少しずつカナンから後退り距離をとったところで、立ち上がって走って逃げて行きました。

女性が自分を見て逃げていく様子を見たガナンは、頭をかきながらトボトボと家まで歩いて帰って行きました。
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