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45、フジコさんとの再会
しおりを挟む私は見知らぬ男性に気絶させられた後、どこかへ運ばれたようです。気付くと手足を縛られて板張りの空間にいました。何故か床がゆーらゆーらと揺れている気もします。
ここはまさか海の上かしら‥‥。微かに海面の波打つ音が聞こえるような気がしました。
段々と視界が暗闇に慣れてきたのか、私は今自分がいる空間の全容を見る事ができました。
私がいる所は、やはり船の中のようでした。船員達の食料庫‥といったところでしょうか。
‥それにしても、埃とカビが舞っていて咳が出そうです。
ゴホッ、ゴホッ、
「‥‥気が付いたようだな、レミーさんよ。」
私のいる部屋の天井から、声がしました。天井の一部の板が外され、男が顔を出しました。
「‥‥私をどうするつもりですか。」
「‥もうじき死んでもらうよ。楽しみに待ってな。」
「‥‥どうして私を殺すんですか?」
「‥俺の女がお前を殺したいって言うんだ。‥お前によほど恨みがあるらしい。」
「‥‥女って‥。」
「私よ。」
男の後ろから顔を覗かせてきたのは、フジコさんでした。
「‥しばらくこの女と私の二人っきりにさせてよ。」
「ああ、いいぜ。‥じゃあ後でな。」
「‥‥。」
フジコさんは男が去って行くと、天井の板をもう一枚外して、梯子をおろして私の所にやって来ました。
「‥マキシムは元気?」
「‥ええ、元気です。」
「あんた達結婚したんだ。」
「‥はい。」
「‥私がマキシム君と結婚するはずだったのに!」
フジコさんは声を荒げて、私の近くにある木箱を蹴りました。そして私の胸ぐらを掴んで持ち上げると‥、私の顔に唾を吐きかけてから突き飛ばしました。
「‥マキシムが私の事を愛さなくても、もう良いの。‥でも、他の女と結ばれるのは嫌!しかも、それがあんただなんて、もっと嫌!」
「‥だから、私を殺すと言うの?」
「そうよ。‥私はあんたのせいで、国を出て逃げ回らなきゃならない犯罪者になってしまったの。それに‥‥今や海賊船の船長の女よ。笑っちゃうわよね。‥‥でも、もういいの。もう終わりにするの。」
「‥終わりにするって‥。」
「あんたを殺して、私の復讐を終わりにするのよ!」
フジコさんはそう言うと、私の首を絞めてきました。
ゲホッ、
「‥やめて‥苦し‥い‥。」
私はフジコさんに首を絞められて、苦しくて咳き込みましたが、死には至りませんでした。
「チクショー!死ねよ!」
フジコさんは、私の首を絞めて殺す事を諦めたのか、一旦手を緩めると、鋭い爪を立てて、思いっきり私の首を引っ掻いてきました。
「‥痛いっ!」
フジコさんは、爪の間に入った私の皮膚と血をハンカチで拭き取ると、口笛を吹きました。
‥誰かを呼んだようです。
天井の穴から、男が二人梯子を使って降りてきて、私を羽交い締めにしました。
そして‥‥私を誘拐してきた若い男がやってきて、ナイフを構えてゆっくりと私のもとへ来ようとしました。
しかし、その瞬間‥‥私のいる船が沢山のライトに照らされて、眩しいぐらいに明るくなりました。
目が開けられない‥‥。
「そこまでだ!」
誰かがそう叫ぶ声がしました。
私のいる部屋の上で、沢山の足音がします。
そして、天井の穴からたくさんの警備隊が入って来ました。
「婦女誘拐と殺人の容疑で逮捕する!」
警備隊は私を保護すると、フジコさんや船長の男や、他の船員達を捕まえて、船の甲板に全員を連れて行きました。その中には、フジコさんのお父様もいました。
仲間達が全員捕まったというのに、フジコさんと船長の男は、何やら不敵な笑みを浮かべています。
‥どうやら前回捕まった時のように、他の仲間に後から助けてもらう算段のようです。
警備隊がフジコさん達を捕まえたまま、しばらく待つと、大きな船が来ました。
そして、私達がいる船の甲板に近づき、長い板を渡しました。
「行け!」
警備隊がそう言って、フジコさん達にその板を登って、大きな船へ移動するように命じました。
フジコさん達は、渋々応じて歩き出しました。
フジコさん達が大きな船へ移動し終わると、長い板は外されて、大きな船はそのまま地平線の方へ向かって去って行きました。
「‥フジコさん達は、どこへ向かっているのですか?」
わたしが聞くと、警備隊が教えてくれました。
「‥二度と戻って来られない所だよ。」
警備隊はそう言って、私を安心させるような優しい笑顔を見せてくれました。
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