初恋はかなわないけど‥

みるみる

文字の大きさ
上 下
38 / 48

38、舞踏会の終わり

しおりを挟む

私はマキシム君に抱きしめられながら、マキシム君の匂いや温もりを堪能していました。

マキシム君は、腕の中で鼻をクンクンしたり、ゴソゴソと動く私を不審に思ったのか、私の体を引き離してしまいました。

「レミー、僕って臭う?何か変?」

「‥いいえ、違います。‥マキシム君は臭くないです。むしろ良い匂いがします。私はその匂いを堪能していただけなんです。」

「‥僕の匂い?どんな匂いなの?」

「‥んー、もわんとした心地良い匂いです。」

「‥‥もわん?まあ、レミーが臭くないなら、良かった。‥‥ハハ、変なレミー。」

マキシム君はそう言って、ふわふわの栗毛を利き手でかき上げました。

その時のマキシム君の骨張った大きな手を見て、私はドキッとしてしまいました。
  
マキシム君は、いつの間にこんなにも大人っぽくなってしまったんでしょう‥‥。

‥‥マキシム君は初めて会った頃とは違って、私よりも背が高くなったし、背中も大きくなったような気がします。

‥‥私は今までこんなにもマキシム君の近くにいたというのに、実はマキシム君の姿形をあまりしっかりと見た事がありませんでした。

‥ですが、今こうしてまじまじと見てみると、まわりの人が『ボサボサ頭』と揶揄するその頭は、ふわふわで綿菓子みたいで可愛いし、伊達眼鏡の奥にある奥二重のキリッとした瞳も、とても凛々しく見えました。

‥‥私の目に映るマキシム君の全てが、何だか急にとても素敵に見えてきたのです。

「レミー?」

「‥‥はいっ、マキシム君。」

「ハハ、何だい?急にかしこまってしまって、変なレミーだな。」

「‥‥私、マキシム君が実はカッコ良いって事に、今頃気付いちゃいました‥。」
  
「ハハ、そんなこと言うのレミーぐらいだからね。」

「‥‥他の人は、マキシム君のカッコ良さを知らなくてもいいんです!私だけが知っていれば‥。」

「ハハ、今日のレミーは面白いなぁ。」


私達がそんなおかしな会話をしている間も、会場からはワルツの曲がずっと流れ続けていました。

「‥レミー、せっかくだから一曲だけでも踊ろうか。」

「ええ、是非。‥あっ、でも‥先程の騒動のせいで注目を浴びてしまうかもしれませんね‥。」

「レミーは何も悪くないんだから、堂々としていればいい。」

「‥ええ、そうですね。堂々としていましょう。」

私はそう言って、マキシム君の手を取り、会場の入り口へ向かいました。

「さあ、今から君のダンスで皆んなを感動させようじゃないか。‥そうすれば、先程までの悪い印象なんて吹き飛んでしまうさ。」

「アハハ、マキシム君大げさだよ。‥でもありがとう。」

私は、隣に立つマキシム君の笑顔に見惚れながら歩いていました。会場の入り口に立つと、案の定皆んなの注目を一斉に浴びてしまいました。

マキシム君が会場の皆んなに向けて礼をしました。私も続いてカーテシーをしました。

すると‥意外にも会場の皆さんから拍手が起こりました。私達は、皆さんから歓迎を受けているようです。

‥後から聞いた話によると、私がダイアン様にお説教をしていた姿が多くの女性達の支持を集めたようでした。また、私がメディチ王国からこのヒノキ国へ来た経由が、メディチ王国の誰かから広がってしまい、私に同情・共感する女性も多くいたようです。

それを受けてのこの歓迎ぶりなのでした。

皆んなは私達をダンスホールの真ん中へと導くように、道を作ってくれました。

私達は促されるままに、そこへ行きました。

すると、一旦止まっていた演奏が再び再開され、私はマキシム君とワルツを踊るのでした。

私はマキシム君の瞳が、室内のシャンデリアを映してキラキラしている事に気付きました。それに、ピアノ演奏をする有栖川先生の方へ顔を向けて微笑む横顔が美しい事を発見しました。
 
あと、マキシム君の首が案外長い事も知りました。

私はマキシム君から‥マキシム君の全てから目が離せませんでした。

マキシム君にうっとりしながら踊る私と、それを優しく受け止めながら優雅に踊るマキシム君‥

私達の踊る姿に、会場内の至るところから歓声があがりました。

気付くと、会場内で私達だけが踊っていました。

曲が終わると、再び会場内から拍手が起こりました。

私達は礼やカーテシーをして‥退場しました。

‥本当はもっとマキシム君と踊っていたかったのですが、何となくこのまま二人で退場するべき空気が流れていたので、やむなく退場しました。

私達は建物から出てくると、他に居場所を求めて、近くの温室へ入りました。こちらの温室には、会場へ入りきれなかった若い男女が大勢いました。

私とマキシム君はその中を通り過ぎると、とうとう建物の敷地から出てきてしまいました。

「‥‥。」

「レミーは、まだ踊り足りないようだね。」

「‥そうですね。正直もう少しマキシム君と踊っていたかったです。」

私がそう言うと、マキシム君が私の額にキスをし、にっこり微笑みました。

「‥レミーが踊りたい時は、いつでも応えてあげるよ。」

「‥マキシム君‥。」

「‥レミーの願いは、僕が全て叶えてあげるからね。」

マキシム君は、こんなにも甘いセリフを言う人だったでしょうか‥。私はマキシム君の告白の後から、マキシム君の魅力に翻弄されまくっています。

私の中で、マキシム君を好きな思いが飽和状態になっていました。

「‥私、今とても幸せなんですよ。‥こんなに幸せで良いんでしょうか。私、本当にマキシム君の事が大好きだったんですよ。」

私はそう言いながら、自分の頬を涙が伝っていくのを感じていました。

私はこれまでに、初恋相手のジャックや婚約者のダイアン様が、自分の目の前で他の女性と仲睦まじくしてる姿を見て、何度も傷付いてきました。

でも、でも今度こそ、マキシム君と結ばれても良いんですよね?

‥‥マキシム君は、今までの人生で私が一番好きな人、かけがえのない人です。

この人を‥マキシム君を絶対に失いたくない!

そう思った時、ふとフジコさんの事を思い出してしまいました。フジコさんの気持ちが、今の自分なら少しは理解できる気がしました。

‥そう言えばフジコさん、行方不明と聞きましたが、今頃どこで何をしているのでしょう‥。

私がそんな事を妄想して泣きながら俯いていると、マキシム君が私の頬の涙を拭いながら、クスクス笑っていました。

「ハハハ、本当にレミーは笑ったり泣いたり忙しいね。‥色々辛かった事を思い出してるのかい?もう何も心配ないから。」

そう言ってマキシム君は、私を優しく抱きしめてくれました。‥相変わらずマキシム君の手は、私の背中をトントンと優しく叩いてくれてましたが‥‥。

私はもっと、ぎゅーっと抱きしめて欲しかったのに‥。

そう思って、私はマキシム君を思いっきり抱きしめてみました。‥マキシム君は、戸惑いつつも、ほんの少しだけぎゅっと私を抱きしめてくれました。

この時、私達のまわりに温かく平和な空気が流れているのを感じました。



この日マキシム君が私に言ったように、それから何年かは、本当にこれ以上ないぐらい平和で幸せな日々が続いていったのでした。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

処理中です...