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31、戻ってきた日常?
しおりを挟む旭商会の会長とフジコさんによる、マキシム君の監禁事件から何日か経ち、私とマキシム君にも平和な日常が戻ってきました。
「マキシム君、今日こそ図書室で一緒に勉強を‥。」
「レミー、ごめんね。今日も先生に勉強を見てもらう約束をしてるんだ。」
「‥そうですか。じゃあ‥部屋で一人で勉強しようかな。」
「‥僕がいなくても、タケルと勉強すれば良いじゃないか。タケルなら、分からない所を色々聞けるだろ?」
「‥‥そうなんですけどね。」
「‥タケルに何か言われた?」
「あっ、いいえ。‥そうですね、やっぱりタケル君に教えてもらう事にします。」
私はマキシム君の言う通り、図書室に行ってタケル君と勉強をしました。
ヒソヒソ、ヒソヒソ、
「‥‥。」
「‥レミーさん、どうかしたの?」
「あっ、‥何だかまわりの人達のヒソヒソ声が気になってしまって‥。」
「‥‥レミーさん、勉強のキリもついたし、校庭で休憩しがてら話でもしようか。」
「あっ、はい。」
私は勉強道具を片付けて、タケル君と共に校庭のベンチへと向かいました。
ベンチに二人で腰掛ける時、私は無意識にタケル君と距離をとってしまいました。それに気付いたタケル君が、申し訳なさそうに話し始めました。
「‥レミーさん、何だかごめんね。ここ最近マキシムがいないせいか、二人っきりでいる事が多いせいで、あらぬ噂をたてられてしまったね。」
「‥そうですね。やはり、男女が二人きりでいると、お付き合いをしてるように見えてしまいますね。」
「‥マキシムが一緒にいてくれたら問題ないんだけど‥‥。」
「‥‥いえ、それも今後はどうかと思いますよ。女子が男子を二人終始連れ歩いている様子は、他の女子生徒達にあまり良い印象を与えないようです。」
「‥そうなのか。」
「ヒルトンさんが言うから間違いないです。」
「ヒルトンさん‥レミーさんの同室の女の子だね。」
「‥‥ええ、そうです。ヒルトンさんは、私の良き相談相手なんです。
‥‥私、最近タケル君のクラスの女子生徒達によく絡まれるんです。
『タケル君は皆んなのタケル君なのよ!抜けがけしないで!』
『タケル君にあんたみたいなブスは相応しくない!』
とか言われてしまいました‥‥。
それが何となく不快に思えて、寮に戻ってからその事をヒルトンさんに相談したんです。」
「ヒルトンさんは何て言ってた?」
「タケル君みたいな人気者と一緒にいるから、女子生徒達から要らぬ嫉妬をされてしまうんだ、と言っていました。」
「‥‥僕のせいだと言うのか。‥‥それで‥レミーさんは、僕を避けるの?僕から離れたい?」
「えっ‥‥。」
タケル君は、いつもの穏やかな顔とは違い、鋭い目つきで私を見つめてきました。
「僕はそんなつまらない噂や嫉妬のせいで、レミーさんに避けられなきゃならないのか?僕は、いつだって‥‥。」
「タケル君‥私はタケル君を避けたりしませんから、落ち着いて。‥その‥二人っきりではなく大勢でいれば、要らぬ嫉妬も買わないかと思うんです‥‥。」
「だって、そんな友達いないし‥。」
「‥‥タケル君、友達多いかと思ってました。」
「‥いないよ。友達なんてマキシムとレミーさんぐらいだ。」
「‥‥。」
タケル君が、何故友達が少ないのか、何故そんなにも女子生徒達の注目を集めてしまうのか、その訳を教えてくれました。
「僕は‥実はこの国の王族の血筋をひいてるんだよ。‥‥僕の母がね、今の王様の妹なんだ。母は父と知り合って恋におちて、父と結婚する為に民間に降嫁したんだ。‥‥結婚した当初は新聞記者が毎日家に張り付いてて、大変だったらしいよ。‥‥母は父と結婚してからも、元王女としての役割を全うしている。今では、有名な神宮の祭主をしているんだ。
だけどね、僕の父は一般の国の施設研究員だし、僕もただの一般学生なんだ。なのに、世間はいまだに僕ら家族を放っておいてはくれない。
僕がこの全寮制の寄宿学校に入学したのも、両親が僕を世間の好奇の目から守る為なんだ。‥なのに、僕の血筋目当てに沢山婚約話が来るし、学校の女子生徒達からは不必要なほどに騒がれるし、いい加減うんざりしてるんだ。」
「‥タケル君がこの国の王族の血筋だったなんて‥知りませんでした。」
「ああ、だから僕はマキシムや君と仲良くなろうと思ったんだと思う。」
「‥クラスではどうしているんですか?こうして私やマキシム君と話す時みたいに、明るく話せてますか?」
「‥‥駄目なんだ。まわりから騒がれるのが嫌で、僕自身どうしてもまわりに対して壁を作ってしまう。」
「‥独りぼっちなんですか。」
「‥‥そうだね。僕はいつだって独りぼっちだったよ。‥実は以前に、マキシムや君以外にも、少し仲良くなりかけた子がいたんだ。なのにその子は、下らない嫉妬や好奇の目に晒される毎日に耐えきれなくなってしまって、ついに退学してしまったんだ。‥‥だから、今も君を失うんじゃないかと思って、苛立ってしまったようだ。‥‥怖がらせてごめんね。」
私はタケル君の意外な身の上話にすっかり感情移入してしまいました。そのせいで、要らない一言を言ってしまったかもしれません‥‥。
「タケル君、大丈夫!私はタケル君から離れて行かないから。ずっと一緒にいてあげるから。‥友達として、だけどね。」
‥‥ずっと一緒にいてあげるから、なんてタケル君に簡単に言ってしまった私ですが‥
タケル君がこの時、この言葉をどれほど重く受け止めていたのか、なんて知りもしませんでした。
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