初恋はかなわないけど‥

みるみる

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30、マキシム君を助けに‥

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私はやっとのことで旭商会の前までやって来ました。商会の屋敷の方の入り口には、強面の男性が二人見張りとして立っていました。これにより、私は入り口から堂々と入って行く事を断念しました。

「‥入り口が駄目なら‥‥裏にまわろうかしら。ヒノキ国の塀には、裏手の方に確か小さな扉があったはず‥‥。」

私は旭商会の塀伝いに裏手へとまわりました。けれども、扉は内側から鍵がかけられていました。

「‥‥ここまで来て諦めないわよ!」

私は履いていたスカートの裾を引っ張り上げ、両サイドで結び、靴を脱いで足を露わにしてから塀に登り、近くの大きな木へととび移りました。

そして、大きな枝を選んでは足をのせて屋敷の側まで近付く事に成功しました。

‥そして息を潜めて耳をすましていると、マキシム君の声が聞こえてきました。

 

「‥ですから、僕はこんな署名をした覚えはありません。その婚姻届の書類を返して下さい。」

「‥マキシム君、君には私の会社を助けて貰って、とても感謝しているんだよ。‥だから、私の娘と結婚して私の跡継ぎにしてやると言ってるんじゃないか。‥嫌がる意味が分からない。」

「‥フジコさんと結婚するつもりはありません。それに旭商会の跡を継ぐつもりはないとはっきり断ったはずです!」

「‥‥フジコは美人だろ?おまけにマキシム君をとても愛しているんだ。‥何の不満がある?」

「‥僕はまだ誰とも結婚はしませんし、この商会で働くつもりもありません!」

「‥‥ちっ。おい、誰か例の物を持ってこい!」

旭商会の会長の声が辺りに響きわたりました。

私は思わずドキッとして、木から落ちそうになりました。私はあらためて足場を確保しようとして下を見た時に、屋敷の塀に潜む何人かの警備隊を発見しました。

警備隊は私の落としていった靴を拾って、首を傾げていました。

私は頭に付けていた髪飾りを警備隊に向けて投げて、存在をアピールしました。すると、警備隊はようやく木の上を見上げて、私の存在を発見してくれました。

‥以降、私と警備隊はジェスチャーと読唇術で会話をしました。

私はマキシム君のいる部屋を指差して、音を発せずに口の動きだけで警備隊に話しかけました。

『ここにマキシム君がいます。』

『分かりました。何か変わった動きがあれば、また教えて下さい。』

『はい。』

私は塀の向こうに警備隊がいる事に安心しつつも、マキシム君の部屋から聞こえる声に集中し続けました。

「おーい!誰かおらんのか!例の物を持って来いと言っとるんだ!」

「はーい。お父様、持ってきたわよ。」

会長の呼びかけに応えて、部屋にやって来たのはフジコさんでした。

「フジコ、お前マキシム君の隣に座ってお酌でもしなさい。」

「いえ、お酒は結構です!それより早く婚姻届の書類を返して下さい!フジコさん‥あなたはこんな事をして平気なのですか!」

「平気よ。マキシム君を誰にも取られたくないんだもん、しょうがないでしょ。‥それに愛のない結婚でも、一緒に暮らすうちにすぐに愛ぐらい芽生えるわよ。」

マキシム君とフジコさんのそんなやり取りを聞いていると、煙りと共に甘酸っぱい匂いが鼻をついてきました。

私は思わず鼻をつまんで、身悶えてしまいました。それに何だか頭も少しボーッとしてきました。

「マキシム君、無駄な抵抗はやめるんだ。フジコ、マキシム君をおさえて。‥しばらく屋敷の奥に監禁でもして、その間に婚姻届の書類を提出してしまうんだ!」

「お父様、ああ、これでやっとマキシム君を私だけのものにできるのね。」

「‥嫌だ!やめるんだ、離してくれ!」

マキシム君の嫌がる声が聞こえてきたので、私はすぐに警備隊に合図しました。

『マキシム君が監禁されそうです!助けて!』

警備隊達は、私の合図を受けて一気に旭商会へと突入して行きました。

「旭商会の会長はどこにいる!阿片の不法所持と吸引の容疑、並びに未成年監禁の罪で逮捕する!」

警備隊がそう言って突然屋敷に上がりこんできたものですから、旭商会の会長の屋敷内は、大混乱しました。会長とフジコさんも必死に屋敷内を逃げ回りましたが、結局警備隊に捕まってしまいました。

これにより、会長は商会をクビになり、使用人が会長に繰り上げされ、旭商会はなんとか存続していったのでした。

商会をクビになった会長は、しばらくは留置場に拘束されて、取り調べを受けるはずでしたが脱走してしまい、今は行方不明となっているそうです。

フジコさんは‥‥学校を自主退学し、会長と同じく今も行方を晦ましているそうです。


「マキシム君、マキシム君、私です。レミーです。‥何も心配いりませんよ。マキシム君は助かったんですよ!」

「‥‥レミー?婚姻届は?」

私はマキシム君の側に落ちていた婚姻届の書類を拾うと、マキシム君の目の前で力いっぱい破り捨ててやりました。

「‥はあ、スッキリした!‥‥あっ、しまった!フジコさんの頬を一発引っ叩いてやるはずだったのに!」

「‥‥ハハハ。‥レミー、助けて貰っておいて、言うのもなんだけど‥‥こんな無茶をしちゃ駄目じゃないか。」

「‥マキシム君、辛かったですね。これからは私になんでも打ち明けて下さいよ。」

「‥ああ、これからは何でもレミーに言うよ。約束する‥。」

マキシム君は、そう言うと目を閉じてしまいました。

「レミーさん、大丈夫ですよ。彼は眠っているだけです。阿片を少しだけ吸ってしまったんですね。‥こんな少量だし、そこまで常習性はないようですし、心配はいりませんよ。」

警備隊はそう言って、マキシム君を抱きかかえると、我が家へ連れて行き、ベッドへ寝かせてくれました。

私は自宅に戻ると父にこっぴどく叱られてしまいましたが、両親共にマキシム君の無事を喜んでくれました。

「学校へは連絡しておくから、今晩はもう遅いし、泊まって行きなさい。」

父がそう言って、私を部屋に案内してくれましたが、私は部屋を抜け出してマキシム君の寝てる所へ忍び込みました。

マキシム君は寝息をたてて眠っていました。

「マキシム君、大好きです。」

私はそう言ってマキシム君の手を握りしめ、マキシム君の頬におやすみのキスをしてから、部屋に戻りました。

部屋に戻ると、私は怒涛のような一日を過ごして心身共に疲れていた為、すぐに眠りに落ちてしまいました。

おかげで翌朝はスッキリと目覚め、朝食ももりもりと食べる事ができました。

一方マキシム君は、何故か朝からぎこちない様子で私と目も合わせてくれませんでした。

「マキシム君、何を気にしてるんですか!二人で一緒に登校するのが恥ずかしいんですか?それとも旭商会での一件を気にしてるんですか?」

「‥違う。どれも違うんだ。」

マキシム君は真っ赤な顔でそう言いました。

「‥もう、マキシム君、何なんですか。」

私は、マキシム君が初めて見せる反応に戸惑ってしまいました。

マキシム君のこの反応の理由を私が知らないのは無理もありません。

私がマキシム君の部屋に忍びこんだ時、実はマキシム君は起きていたという事を、私は知らなかったのですから‥。
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