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18、レミーの旅立ち
しおりを挟む私が留学する事を決意してから、あっという間に一週間が経ちました。
我が家の侍女達や執事に事情を説明すると、涙ながらに実家に戻る者や、他の働き口を紹介してそこへ転職する者、苦労してもいいから‥と言って私達についてきてくれる年配の侍女達や執事がいたりと、反応は様々でした。
父が親戚にも事情を説明し、他にも色々な引き継ぎを済ませ、家財も整理すると、いよいよ出発の準備に取り掛かったのでした。
「一応、ヒノキ国にいる知り合いに手紙を出しておいたが、向こうでどうなるかは着いてみないと分からない。気を引き締めて行こう。」
「‥それにしても、あれから王家に何も言われてないし、こんなにも色々な引き継ぎがスムーズにいくなんて‥‥何だか不気味よね。」
両親がそう言うのも無理はありません。私もあまりにスムーズに事が進んでいく事に、少し不気味さを感じていました。
「‥‥。」
「まぁ、考えてても仕方がない。さっさと準備を進めよう。」
そう言って私達は準備を進めました。
そして‥とうとう旅立ちの日がやって来ました。
私はマキシム様にお別れを言おうと思っていたのですが‥お城の図書室へは行きづらく‥結局何も話せないままでした。
最後に一言だけでもお礼が言いたかったです。
この国で一番お世話になったマキシム様に、心からのお礼の言葉を伝えたかったのに‥。
そう思っていたら‥‥
「よいしょ。」
「‥マキシム様!?」
なんと、マキシム様が私達家族の馬車に乗り込んできたのです。
「‥あっ、僕もヒノキ国の学校に行く事にしたんだ。」
「えーっ!?」
なんと、マキシム様は宰相であられるお父上に譲位されていた爵位も返し、籍からも外れ、貴族から平民に降格したのだそうです。ヒノキ国へ身軽な体で留学するために‥。
それに‥‥お父上に、私とギリス大国の王子ハインリヒ様との婚約が我が国に無益どころか、害になる事を進言したのだそうです。
実はハインリヒ様は、ギリス大国の王子達の中でも女癖が悪くて、おまけに放浪癖があり、王家の厄介者だったのだそうです。
それに、ハインリヒ王子は放浪した先々で様々な国の令嬢に求婚しており、断られる事も多かったのだそうです。
ですから、私がハインリヒ様との婚約を断っても、何の外交問題にもならなかったようなのです。
それにハインリヒ様は、各国で既婚の貴族女性に手を出したり、王族の幼い王女にまで手を出そうとしていて、ギリス大国に各国からの苦情が殺到していたのだそうです。
ちなみに今回の婚約話も、ギリス大国の王様はハインリヒ様が私に振られる前提で申し出たのだそうです。
‥‥それなら
「それなら、私達この国からヒノキ国へ亡命する必要ないんじゃ‥‥。」
「さあ、行こう!」
マキシム様が、私の言葉を遮るかのようにそう言うと、私達を乗せた馬車は動き出しました。
この国のお城や我が家が段々と遠のいて行きます。
もう後戻りはできません。
「‥そうね。もう全て終わったのよね。前を向いて生きていかなきゃ。」
私がそう呟くと、隣のマキシム様が微笑んで下さいました。
「‥!」
私の心臓が、マキシム様の笑顔を見ただけでドキドキと激しく脈打ちました。
マキシム様の笑顔が眩しくて‥私は思わず俯いて顔を隠してしまいました。
‥マキシム様は、私の為にヒノキ国へ行くのかしら?ううん、そんな事するような方じゃないはず。‥‥きっとたまたまヒノキ国への留学が私と重なっただけよ。
なのに、私は顔がにやけていくのを止められません。
もう会えないかと思ったのに‥。
私は嬉しくてたまりませんでした。またこれからも沢山マキシム様に会える!
‥‥でも、せっかく諦めたマキシム様への恋心がまた燻り始めてしまいました。
私の頬には、嬉しいのか悲しいのか分からない涙がずっと伝いつづけていました。
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