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バラード

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魔物討伐隊に参加して最初のうちは、うまく立ち回れなかったバラードでしたが、何日かすると主力メンバーとなっていました。

負けず嫌いの性格のせいか、底辺まで落ちた男のハングリー精神のなせる技か、とにかくバラードは死に物狂いで頑張りました。

魔物と向き合うと、強い精神力で怯む事なく立ち向かい、魔力を込めた剣で次々と切り倒していきました。

‥ルナールに変な嫉妬をして見苦しい事をしたり、リリーにうつつを抜かさなければ、バラードは本来優秀な魔法剣士だったのです。

バラード自身も自分の隠れた能力に驚いてる様子でした。そして夢中になって魔物と闘っていくうちに、いつしかやりがいを感じていました。

そして魔物討伐隊が出発して一週間後、とうとう魔物のボスを倒す事ができました。

魔物討伐隊は堂々と王都へ凱旋しました。

その討伐隊の中に、一番の活躍をしたバラードの姿はありませんでした。

彼は魔物討伐後に貴族の身分を剥奪され、平民になっていました。

そして、ゲーテ王子のいる領地に農民として暮らし始めたようです。

ゲーテ王子がニーチェ王子にした話では、バラードは農民としての枠を超えて、様々な農業改革を推し進めているようです。

繰り返しますが、バラードは下らない嫉妬や悪女にうつつを抜かさなければ、本来優秀な男だったのです。



その頃ルナールは、侍女達に体を綺麗にしてもらい、ドレスアップして自分の部屋で、ニーチェ王子が訪れるのを待っていました。

コンコン、

ノックの後に護衛の一人が扉を開けて、ニーチェ王子が部屋に入って来られました。

「ルナール、すっかり元気になったね。今日は一緒に食事をしよう。‥そうだな、僕の部屋に運んで貰おうか。ゆっくり二人だけで食事を楽しもう。」

「ええ、嬉しいです。」

私はニーチェ様にエスコートされて、ニーチェ様のお部屋に通されました。

お部屋のテーブルには、すでに二人分の食器がセッティングされていました。

「ルナール、僕と同じワインで良いかい?」

「はい。」

グラスに赤ワインが注がれました。ワインの芳醇な香りを堪能しつつ、前菜を頂きました。

しばらく食事をしていなかったせいなのか、ワインが美味しい為か、私の食欲がとまりません。ニーチェ様の前だというのに、私は無心で食べ続けていました。

「ルナールは可愛いなぁ。料理を美味しそうに食べる女性は好きだよ。」

「あっ、はしたない姿をお見せしました。すみません。あまりにも美味しかったので‥。」

「いや、良いんだよ。料理も病み上がりの君がたくさん食べても、体に負担がかからないような物を用意したんだ。それにデザートは、君の好きなティラミスを用意したよ。」

「ニーチェ様、私がティラミスが好きなのをご存知なんですね。嬉しいです。」

「アハハ、僕は君の事なら何でも知っているんだよ。例えば、君の初恋の人の事とかね。」

「!」

「隣国のランクス王子、だろ。」

「‥‥。」

「そういえば、その隣国のランクス王子が結婚式を行うそうだよ。僕達にも招待状が来ている。勿論この国の代表としてね。

君とランクス王子は、昔から仲が良かったから、僕はてっきり君達がいつか結婚するものだと思っていたんだよ。勿論ゲーテと婚約破棄をした後にね。

だけど、僕に自国へ帰って君と結婚するように勧めてくれたのは、彼だよ。

だから、君がランクス王子の事を気にしていたのなら、無用の心配だ。

君が僕と愛し合って結婚をするように、ランクス王子も婚約者と愛し合って結婚をするのだから。」


「‥ニーチェ様。本当に何もかもご存知なんですね。ええ、私は隣国のランクス王子に恋しておりました。とはいえ、何も後ろめたい事はしておりません。ただ、心の中で想っていただけですの。

私がゲーテ王子やリリー達に虐げられていた事を、ランクス王子は不憫に思っていてくれたのです。そして、いつか私を隣国へ連れて行ってくれるとまで言って下さったのです。

‥なのに、私はニーチェ様を愛してしまいました。もうニーチェ様以外の方を愛する事はできません。

‥‥私はランクス王子を裏切ってしまいまったのです。‥ランクス王子には、とても申し訳ない気持ちでいるのです。」

私はニーチェ様に隠し事をしたくはなかったので、ランクス王子の事を素直に話してしまいました。

ニーチェ様は、やはり少し傷ついた顔をされてました。

「ニーチェ様、でも私は今はあなた以外の方をもう愛せません。これからだって、一緒にいたいのはニーチェ様ただお一人だけです。」

私は必死になってニーチェ様に訴えました。すると、ニーチェ様は、私に優しく微笑んで下さいました。まるで何もかも許してくれたかのような穏やかな微笑みでした。

「ルナール、大丈夫だ。僕は君を信じている。だから、君の過去にいちいち嫉妬はしないよ。それにランクス王子の事を裏切っただなんて、君がそんなふうに彼に対して罪悪感を感じなくても良いんだ。

さっきも言っただろう。ランクス王子が僕と君の結婚を願ったんだ。そして自分は自国の令嬢と結婚した。そういう事だよ、ルナール。」

「‥ええ、分かりました。」

「分かってくれて良かったよ。僕達でランクス王子の結婚をしっかり祝ってやろうじゃないか。」

「はい。」


それから何日か後に、私達は隣国へ向かいました。ランクス王子の結婚式の為に。
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