96 / 100
第九十六夜 見知らぬ家族
しおりを挟むある日突然、僕の家に見知らぬ家族が増えました。どうやら僕の兄のようなのですが、僕はどうしても兄の事を受け入れる事が出来ないでいました。
本当に僕に兄なんていたのか?
確かめたくて家族アルバムを開いて見てると、兄はちゃんとどの写真にも家族の一員としてうつっていました。
それに‥写真の兄と、今すぐそばにいる兄の姿があまりにも違うのだが、それも僕だけがおかしいのだろうか?
写真に写った兄は、ごく普通の男の人でしたが、今僕の側にいる兄は‥かなり人間らしくない姿形をしていました。
鼠色の体にブラックホールのような目、鼻のないのっぺりした顔、それに‥やたらと細長いスタイルをしていました。‥頭なんか天井についてしまいそうな状態でした。
それに、僕には機械音にしか聞こえない音も、他の家族にはきちんと人間の会話として認識されているようでした。
僕だけがおかしいんだ、僕の脳や目だけがおかしくなったのだとようやく分かりました。
それからは、僕は一生懸命に兄の事を受け入れようと努力しました。
「兄さん、これからコンビニに行くけど、何かいるものある?」
「キー、イー、」
‥だめだ、兄が何を言っているのか全く分からない‥。
僕は兄とコミュニケーションをうまくとれない事に悩んでいました。
すると、兄が僕の額に指を当てて何かを伝えようとしてきました。
兄の指を通して、僕の頭の中に兄の声というのか何らかの情報が入ってきました。
『私はM-205星からやってきた生命体です。私の本体は私の星にありますが、私は意識体として、この地球にしばらく滞在するつもりでここに来ました。‥私の星は、まもなく宇宙の意思により消滅します。‥‥その時私の本体も意識も全て消滅するのです。
その前に、あなたに会いに来ました。‥私の事を覚えてないですか?‥まあ、記憶を消されているようなので、仕方ありませんね。』
兄が僕の頭に直接話しかけてきた?内容に、僕は何と答えて良いのか分かりませんだしたが、何となく兄とは仲良くしてあげなきゃな‥と思いました。
兄と僕はテレパシーで語り合い、いつしか心も通い合うようになりました。
すると、心なしかのっぺりしていた兄の顔にも表情らしきものが見られるようになりました。
兄と些細な事で喧嘩をした際には、喜怒哀楽のあまりなかったはずの兄が、とても怒った様子を見る事ができましたし、かなしい映画を見ながら泣いている?様子も見られるようになりました。
僕にとっていつしか兄はかけがえのない存在になっていました。
そんなある日、兄が突然消えてしまいました。家族の誰も兄の存在なんて最初からなかったと言うのです。
家族アルバムからも兄の姿は消えていました。
兄は、どうやら自分の星へ帰ったようでした。僕に何も言わずに‥‥。
兄が突然いなくなったその晩、何となく見上げた夜空に、閃光が走って行くのが見えました。その瞬間、僕の目からは涙が溢れました。
何故かは分かりませんが、これまでに感じた事のない悲しみが、急に胸にこみ上げてきたのです。
その時ふと、兄が言っていた言葉が頭に蘇りました。
『私の事を覚えてないですか?』
‥‥この時、遠い昔の地球ではないどこか別の星の景色が一瞬僕の頭に蘇りました。
それは‥僕が遠い昔にいた故郷星、M-205星の景色でした。僕は故郷星で遠い昔に兄と一緒に過ごしていた事をやっと思いだしたのです。
兄は‥この地球に転生した僕の事を心配して、最後に僕に会いに来てくれたのでしょう。
閃光が消えて、静まりかえった地球の夜空を、僕はいつまでも眺めていたのでした。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる