令和百物語

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第八十三夜 娘の高熱

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「お母さん、何だか寒い‥。体が痛くて目がチカチカする‥。」

「紗英‥熱測ろう。」

夕方、私がパートから帰ってくると、先に帰っていた小学四年生の紗英が、体の不調を訴えてきました。

「紗英、熱が41度もあるよ!すぐに病院に行こう!」

病院の救急外来で、持ってきた毛布に紗英を包んで待つ事数時間、ようやく診察してもらえて出た診断は、インフルエンザでした。

私は、家に帰るとすぐに紗英を布団に寝かせました。

「インフルエンザかぁ、‥しばらくはパートも休まなきゃなぁ。」

私は、職場に電話をし、しばらく休む旨を伝えました。

主人にも電話したところ、仕事上インフルエンザがうつると困ると言う事で、主人だけ何日か近くの実家に泊まる事になりました。

私は紗英の様子が心配な為、うつるのを覚悟しながら隣で眠る事にしました。

とは言え、紗英が気になってなかなか眠れずにいました。

何度も氷枕をかえたり、おでこを触って熱を見たり、背中に手を入れて汗をかいてないか見たりして、結局浅い眠りのまま朝を迎えました。

二日目を迎えました。熱は相変わらず高いままでした。処方された抗生物質を飲ませ、また様子を見ます。紗英は食欲もなく、スポーツドリンクとゼリーを少し食べただけでした。

その夜の事です。紗英が寝てる隣で何となくスマホをいじっていると、横から鋭い視線を感じました。

横の紗英を見ると、これでもか、というほどに目を見開いて私を見ていました。

「あっ、ごめん。スマホが眩しかったね、もうやめるね。」

紗英は目を見開いたまま、大きく頷きました。

「‥‥。」

娘は目を見開いたまま、私を見つめてまだずっと頷き続けています。よく見ると口元が笑っていました。

「‥紗英!もしかして熱が下がって元気になったの?」

私は期待しながら、紗英の額を触りました。

「‥なんだ、まだ熱いね。‥氷枕かえようか?」

「うん、うん、うん、うん、うん、うん、うんうん、うんうん、うーん、うん‥。」

「‥紗英?紗英?」

「フフフ、フフフ、‥‥‥うん、うん、うん。」

紗英は、目を見開いてギラギラさせ、頷きながら、笑っています。

「えっ、やだ、怖い。紗英‥ちょっとやめてよ。」

「フフフ、フフフ、アッハハ、‥うん、うん、うーん、うん、うん‥。」

「‥もういい、もう、早く寝なさい、目を閉じて!」

普段は寡黙で、必要な事以外は話さない紗英が、見た事もない笑顔でずっと私に向けて頷き続けているのです。‥‥私は怖くなり、部屋の常夜灯も消して真っ暗にして、紗英の顔が見えないようにして寝ました。

暗闇の中、紗英の目がまだギラギラと光っていました。

私は怖くて紗英を抱きしめました。

紗英は私に抱きしめられても、頭で頷き続けていました‥。


翌朝、紗英の声で目が覚めました。

「‥お母さん、苦しい。」

紗英は、抱きついてる私を手でぐいぐいと押し除けました。

「‥‥熱は?」

紗英の熱は微熱程度に下がっており、ぐったりした様子もなく、プリンが食べたいと訴えてきました。

布団にプリンを持っていくと、パクパクと食べています。

「紗英、昨日の夜の事覚えてる?夜中に目を覚まして笑ってたの、覚えてる?」

「‥は?覚えてないし。」

紗英はいつもの無愛想な紗英に戻っていました。


この後ネットで「高熱、子供、変」で調べてみると、「熱せん妄」という言葉が出てきました。

「熱せん妄」とは、子供が高熱で異常行動を起こす事を言うそうです。酷い例では、子供が急に走り出して、窓から飛び降りてしまう事もあるそうです。だから、高熱のある子供からは決して目を離さないようにしなければならないそうです。

それにしても‥‥夜中の子供の異常行動は、本当に不気味で、ヘタなホラー映画を見るよりもよっぽど怖かったです。
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