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ゼウス王子の帰国
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カピエラからラクタス王国へ留学に来ていたゼウス王子と双子の妹のアテネー王女は、学園の卒業式を前に急に帰国する事になりました。
ゼウス王子を見送りにきたイカロスは最近ストーンとサリエルが話し合う機会を設けてみたら、案外うまくいって二人が仲直りした事等をゼウス王子に話しました。そして、話の最後についにゼウス王子にずっと気になっていた事をきいてみることにしました。
「ゼウス王子、いつか話していたミザリーさんの話ですが、もうそろそろ教えて下さい。」
「‥‥ん、ミザリー?‥ああ、例の彼女の事か。そう言えば、彼女の事で君達の知りたい事を教えてあげられるかもしれないよ‥って確かに言ったな。そうだった‥。」
「‥ゼウス王子、話というのは‥もしかして彼女が実は生きていて王子の国で元気に過ごしている‥なんて話ではないのですか?」
ゼウス王子はイカロスのその言葉に一瞬ドキッとしたように目を見開きましたが、はっきりとした言葉でそれを肯定する事はありませんでした。
「それは都合の良い話だよ。彼女は亡くなった後に崖から海へ落とされたのだらう?それで生きているのかだなんてよくきけるな。
‥それよりも、俺もずっと君に聞きたかった事があるんだ。‥イカロス、そんなにも彼女の事を気にかけるほなんて‥君はもしかしてミザリーさんの事が好きだったのか?」
ゼウス王子は人の恋路に興味があった訳ではありませんが、ミザリーの親以外でここまで彼女の事を気にする人物はこの国に今まで誰もいなかったので、もしや‥と勘繰ってしまったのです。
イカロスはゼウス王子の質問に即答しました。
「‥‥そうだ、兄の婚約者であるミザリーさんに俺は惹かれていた。だけど、俺は彼女が死ぬまで何も出来なかった情けない男なんだ。
‥だから彼女の遺体がカピエラに保存されているのなら、せめて一目だけでも見たいし、もし叶うなら彼女に言葉をかけてやりたい。」
ゼウス王子はイカロスのこれまでの言葉を聞いて、イカロスのミザリーに会いたいという気持ちの強さを知りました。
「分かった。そこまでの覚悟があるのなら、君を彼女に会わそう。‥ただ、彼女が君の思うミザリーだとは限らないよ?」
「だとしても、このまま行動を起こさずにモヤモヤしているよりはいい。」
「分かった。ではいつでも我が国に来るといい。‥待ってるよ、イカロス。」
「ああ、近いうちに必ず行くよ。」
イカロスがカピエラへ行く約束をゼウス王子と交わすと、ゼウス王子はそのままイカロスの元を去って行きました。
ゼウス王子は海路で帰国するために、自国の船に乗り込みました。
潮の流れはカピエラの方に強く流れており、船は予定よりも早く自国の港に着いてしまいそうでした。
激しく揺れる船のデッキで海の景色を眺めていたゼウス王子の目にミザリーが投げ落とされたと思われる崖がうつりました。
「‥おそらくあの崖から彼女は海に投げ落とされたんだろうな。」
ゼウス王子はそう言って改めて崖の下の海面を眺めました。
崖の下の海面には潮の渦が見えました。ミザリーがもし仮死状態でなければ、きっとその渦にのまれてもがきながら海水を飲みこんで窒息して溺死していたかもしれません。
そう思うと、ファントムの毒からも海での溺死からも免れて生きているミザリーが、とても強運の持ち主のように思えました。
「フフフ、彼女は大したラッキーガールだな。
そう言えば‥彼女はああなる前はどんな姿の女性だったんだろう。包帯から覗き見えた目を見る限りは、きっと美しい令嬢だったんだろうな。」
ゼウス王子はそう言いながら、全身を包帯で巻かれたミザリーの姿を頭に思い浮かべていました。
『帰国して俺の顔を見たら、彼女どんな顔をするかな。‥彼女、あれから少しは変わったかな‥楽しみだな。』
そんな事を思いながら、ゼウス王子はデッキで一人ニヤニヤとしていました。
「お兄様、何をニヤニヤしているんですか。」
「あっ、アテネーか。今彼女の事を考えていたんだ。俺が帰ってすぐに会いに行ったらどんな反応するかな、なんてな。」
「‥いや、特に何の反応も見せないんじゃないですか?彼女ってアンにしか懐いていなかったし、お兄様の事はなんとも思ってなさそうな気がします。」
「ああ、そんな悲しい事を言うなよ。俺は彼女の事が可愛くて仕方ないんだ。」
「‥それは異性として?」
「‥うーん、異性かぁ。恋愛の対象ではないな。どちらかというと‥彼女は俺にとってモルモットや捨て犬に近いかな。なんとなく放って置けないというか‥。」
「‥お兄様、それはちょっと彼女に対して失礼じゃないかしら。同じ女性として、お兄様にそんな風に思われている彼女には同情しますわ。」
「いや、別に彼女が包帯女だからといって他の者のように馬鹿にしてる訳じゃないんだ。むしろ‥あの包帯姿は可愛い!俺の手のひらにお手をさせたい気持ちになる。」
「‥‥それは絶対にやめて下さいね。本当に失礼ですから。」
ゼウス王子の妹アテネーは、兄の相変わらず無神経なところや、変な嗜好のある所を再確認してしまい嫌な気分になりました。
「お兄様、ミザリーさんにはアンの許しが出るまで会わない方が良いですよ。彼女がお兄様の無神経な言動に傷ついてしまいそうで心配です。」
「おいおい、俺は彼女の事を保護して研究している研究所の所長だよ。アンの許しなんかなくても、彼女には会いたい時に会いにいく!‥それに彼女とは色々約束があるからな。その話も彼女としなきゃならないし。」
「約束‥ですか。」
「ああ、俺と彼女だけの秘密の約束だ。だから、俺は帰国後すぐに彼女に会いに行く。」
そう言ってゼウス王子はしてやったりといった顔をアテネーに見せました。
アテネーは、ミザリーがゼウス王子に優しくされることで、彼の事を好きになってしまったらどうするのか?責任を取れるのか?とゼウス王子に言ってやりたい衝動にかられましたが、それをぐっと堪えました。
『彼女にはアンがついてるからきっと大丈夫よね。』
アテネーはそう自分に言い聞かせて、変な心配をするのは兄にも彼女にも失礼だからやめよう、と思いました。
ですが、それでもどうしてもゼウス王子とミザリーの将来の関係性への不安が拭えずにいました。
ゼウス王子を見送りにきたイカロスは最近ストーンとサリエルが話し合う機会を設けてみたら、案外うまくいって二人が仲直りした事等をゼウス王子に話しました。そして、話の最後についにゼウス王子にずっと気になっていた事をきいてみることにしました。
「ゼウス王子、いつか話していたミザリーさんの話ですが、もうそろそろ教えて下さい。」
「‥‥ん、ミザリー?‥ああ、例の彼女の事か。そう言えば、彼女の事で君達の知りたい事を教えてあげられるかもしれないよ‥って確かに言ったな。そうだった‥。」
「‥ゼウス王子、話というのは‥もしかして彼女が実は生きていて王子の国で元気に過ごしている‥なんて話ではないのですか?」
ゼウス王子はイカロスのその言葉に一瞬ドキッとしたように目を見開きましたが、はっきりとした言葉でそれを肯定する事はありませんでした。
「それは都合の良い話だよ。彼女は亡くなった後に崖から海へ落とされたのだらう?それで生きているのかだなんてよくきけるな。
‥それよりも、俺もずっと君に聞きたかった事があるんだ。‥イカロス、そんなにも彼女の事を気にかけるほなんて‥君はもしかしてミザリーさんの事が好きだったのか?」
ゼウス王子は人の恋路に興味があった訳ではありませんが、ミザリーの親以外でここまで彼女の事を気にする人物はこの国に今まで誰もいなかったので、もしや‥と勘繰ってしまったのです。
イカロスはゼウス王子の質問に即答しました。
「‥‥そうだ、兄の婚約者であるミザリーさんに俺は惹かれていた。だけど、俺は彼女が死ぬまで何も出来なかった情けない男なんだ。
‥だから彼女の遺体がカピエラに保存されているのなら、せめて一目だけでも見たいし、もし叶うなら彼女に言葉をかけてやりたい。」
ゼウス王子はイカロスのこれまでの言葉を聞いて、イカロスのミザリーに会いたいという気持ちの強さを知りました。
「分かった。そこまでの覚悟があるのなら、君を彼女に会わそう。‥ただ、彼女が君の思うミザリーだとは限らないよ?」
「だとしても、このまま行動を起こさずにモヤモヤしているよりはいい。」
「分かった。ではいつでも我が国に来るといい。‥待ってるよ、イカロス。」
「ああ、近いうちに必ず行くよ。」
イカロスがカピエラへ行く約束をゼウス王子と交わすと、ゼウス王子はそのままイカロスの元を去って行きました。
ゼウス王子は海路で帰国するために、自国の船に乗り込みました。
潮の流れはカピエラの方に強く流れており、船は予定よりも早く自国の港に着いてしまいそうでした。
激しく揺れる船のデッキで海の景色を眺めていたゼウス王子の目にミザリーが投げ落とされたと思われる崖がうつりました。
「‥おそらくあの崖から彼女は海に投げ落とされたんだろうな。」
ゼウス王子はそう言って改めて崖の下の海面を眺めました。
崖の下の海面には潮の渦が見えました。ミザリーがもし仮死状態でなければ、きっとその渦にのまれてもがきながら海水を飲みこんで窒息して溺死していたかもしれません。
そう思うと、ファントムの毒からも海での溺死からも免れて生きているミザリーが、とても強運の持ち主のように思えました。
「フフフ、彼女は大したラッキーガールだな。
そう言えば‥彼女はああなる前はどんな姿の女性だったんだろう。包帯から覗き見えた目を見る限りは、きっと美しい令嬢だったんだろうな。」
ゼウス王子はそう言いながら、全身を包帯で巻かれたミザリーの姿を頭に思い浮かべていました。
『帰国して俺の顔を見たら、彼女どんな顔をするかな。‥彼女、あれから少しは変わったかな‥楽しみだな。』
そんな事を思いながら、ゼウス王子はデッキで一人ニヤニヤとしていました。
「お兄様、何をニヤニヤしているんですか。」
「あっ、アテネーか。今彼女の事を考えていたんだ。俺が帰ってすぐに会いに行ったらどんな反応するかな、なんてな。」
「‥いや、特に何の反応も見せないんじゃないですか?彼女ってアンにしか懐いていなかったし、お兄様の事はなんとも思ってなさそうな気がします。」
「ああ、そんな悲しい事を言うなよ。俺は彼女の事が可愛くて仕方ないんだ。」
「‥それは異性として?」
「‥うーん、異性かぁ。恋愛の対象ではないな。どちらかというと‥彼女は俺にとってモルモットや捨て犬に近いかな。なんとなく放って置けないというか‥。」
「‥お兄様、それはちょっと彼女に対して失礼じゃないかしら。同じ女性として、お兄様にそんな風に思われている彼女には同情しますわ。」
「いや、別に彼女が包帯女だからといって他の者のように馬鹿にしてる訳じゃないんだ。むしろ‥あの包帯姿は可愛い!俺の手のひらにお手をさせたい気持ちになる。」
「‥‥それは絶対にやめて下さいね。本当に失礼ですから。」
ゼウス王子の妹アテネーは、兄の相変わらず無神経なところや、変な嗜好のある所を再確認してしまい嫌な気分になりました。
「お兄様、ミザリーさんにはアンの許しが出るまで会わない方が良いですよ。彼女がお兄様の無神経な言動に傷ついてしまいそうで心配です。」
「おいおい、俺は彼女の事を保護して研究している研究所の所長だよ。アンの許しなんかなくても、彼女には会いたい時に会いにいく!‥それに彼女とは色々約束があるからな。その話も彼女としなきゃならないし。」
「約束‥ですか。」
「ああ、俺と彼女だけの秘密の約束だ。だから、俺は帰国後すぐに彼女に会いに行く。」
そう言ってゼウス王子はしてやったりといった顔をアテネーに見せました。
アテネーは、ミザリーがゼウス王子に優しくされることで、彼の事を好きになってしまったらどうするのか?責任を取れるのか?とゼウス王子に言ってやりたい衝動にかられましたが、それをぐっと堪えました。
『彼女にはアンがついてるからきっと大丈夫よね。』
アテネーはそう自分に言い聞かせて、変な心配をするのは兄にも彼女にも失礼だからやめよう、と思いました。
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