親切なミザリー

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カピエラで見たのは‥

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カピエラへ行ったラファエル侯爵は、ゼウス王子の従者と別れて、代わりに外交官らしき年配の男性と共に早速植物科学研究所へと向かいました。

ですが、着くと同時にすぐ目隠しをされてしまいました。

「すみません。ここから先は目隠しをお願いします。‥ほんの数分だけですので‥。」

ラファエル侯爵は、動く床の上に乗せられるとカピエラの人達に囲まれながら数分程移動しました。

『なんだ‥歩いてもいないのに、勝手に進んでいる。それに‥ずっとカーブを描いて進んでいるせいか、方向感覚がなくなってきたぞ。一体どこへ連れて行かれるんだ。』

ラファエル侯爵は目隠しをされているせいか、この状況をとても恐ろしく感じていました。

「着きました。」

誰かがそう言うと、ラファエル侯爵はここでようやく目隠しを外されました。

「‥‥?」

ラファエル侯爵は、突然視界に入ってきた病室の様な部屋にベッドがポツンと置かれているのを見つけました。‥ですが、そこには誰もいません。

「‥女性の遺体はどこですか?その身元確認の為にここへ来たのですが‥。」

ラファエル侯爵は、そう言って辺りをキョロキョロと見回しました。ですが、女性の遺体はどこにもありませんでした。

「‥この部屋はその女性の部屋なのですが、今はリハビリ中かもしれません。」

カピエラの外交官らしき年配の男性はそう言うと、部屋の窓から下を指さしました。

「彼女は我が国に流れ着いてここに保護された外国の女性です。身につけていた衣服や装飾品の特徴から、あなた方の国の女性かと思ったのです。‥遺体‥と言ったのは嘘ではありません。ここに辿り着いた時、彼女は確かに亡くなっていました。‥それからも複数回亡くなると言いますか、仮死状態となっています。ですので、まだ不安定なのです。」

「‥‥ミザリー‥なの‥か?いや、そんなはずはない。‥生きている訳が‥、いや、でも‥!」

ラファエル侯爵の目は、全身を包帯でぐるぐる巻きにされて車椅子に乗っている人物に釘付けになりました。その人物は看護師らしき人物と共に噴水や花壇の側で寛いでいましたが、全身に巻かれた包帯のせいで、性別も髪色も分かりませんでした。

「‥ああ、では見ただけでは分かりませんか。‥彼女はあなたの娘さんではないかもしれませんが、一度近づいて間近で見てみますか?ちょうど今から体のリハビリが始まるところなのです。」

「‥話しかけても大丈夫ですか?」

「‥いえ、話しかけたりの接触はやめて下さい。あと、近づく時も彼女に分からないようにそっと近づいて下さい。‥まだ精神的にも不安定ですし、急に意識が飛んで倒れたりもしますので‥。」

「‥分かりました。」

ラファエル侯爵は外交官と案内人と共に、庭にいた包帯の人物に近づきました。

案内人の白衣を着た若い女性が、包帯の人物に付き添う看護師に声をかけました。

「‥彼女の今日の状態はどう?」

「‥今は比較的に落ち着いていますが、すでに何度か意識を失って倒れています。」

「‥じゃあまだ車椅子は必要ね。」

「‥はい。あと付き添いも‥。」

「彼女と話せる?」

「‥今はちょっと‥。」

「‥無理なのね、分かった。」

ラファエル侯爵は、彼女達の話の間ずっと包帯の人物を見つめていました。

『‥ミザリーなのか!?‥背格好は似ているようだが‥どうなんだ?ミザリー、ミザリー‥声をかけてみたい!』

ラファエル侯爵は、声をかけたい衝動を抑えきれずに、とうとう声を発してしまいました。

「ミザリー!ミザリーなのか!?‥声を聞かせてくれ!」

すると、ラファエル侯爵は即座に隣の白衣の女性に叱られてしまいました。

「‥やめて下さい!彼女の状態が落ち着いた時に必ず面会の時間を準備しますので。今は無闇に興奮させないで頂きたいのです!」

「‥‥分かりました。取り乱してすみませんでした。」

ラファエル侯爵は声を発してしまった事をすぐに謝罪しましたが、それでもまだ隙あらば声をかけようとしている様に彼女には見えました。

「‥彼女の為ですので。」

彼女はラファエル侯爵に念を押しました。

「‥ああ、本当にすまない。」

ラファエル侯爵はようやく分かってくれたのか、今度は心から反省してくれたようでした。

そんなラファエル侯爵の言葉に反応したのか、包帯の人物が車椅子の肘置きに置いていた手を、急にビクリとさせました。そして小刻みに震え始めたのです。

「‥痙攣です。急に興奮したせいかもしれません。すぐに部屋に寝かせて来ます。」

看護師の女性はそう言うと、車椅子をひいて包帯の人物をすぐに連れて行ってしまいました。

「‥‥!」

ラファエル侯爵は何かを訴えかけるかのように、外交官や案内人の方を見つめました。

「‥ラファエル侯爵、彼女があなたの娘さんかどうかはまだ分からないという前提で‥ですが、彼女の事を詳しくお話します。」

外交官らしき年配の男性はそう言うと、ラファエル侯爵を研究所の応接間へ案内しました。

応接間には研究所の職員も何人かいました。

「‥申し遅れましたが、私は外務省のモサドと申します。あなたがここに滞在中は、滞在先の準備からスケジュール調整、案内まで全て私が担当させて頂きます。それと‥この部屋にいる彼らは、ここの研究所の職員達です。あと‥先程から我々と共にいたのが、彼女の担当職員の‥アン研究員です。」

「‥アンです、宜しくお願いします。」

「‥宜しくお願いします。」

ラファエル侯爵は彼らと挨拶を交わしながらも、徐々に表情をこわめていきました。

『そう言えば、ここは研究所だったな。‥何故ミザリーは‥、いや、あの包帯の女性は病院ではなくてこの研究所にいるのだ?ああ、もう何から何まで訳が分からない!』

ラファエル侯爵は眉間に皺を寄せながら、とうとう俯いて黙ってしまいました。

「ラファエル侯爵、気分を害されたのならすみません。丁寧なおもてなしもせずに、しかも何の説明もなしにいきなり彼女を見せてしまった事をまずはお詫びします。」

「‥‥あっ、いえいえ、もともとこちらへは観光の為に来た訳ではありませんので。それは構いません。‥ですが、彼女がここにいる経緯やこの施設の事だとか、分からない事ばかりで頭が混乱しています。‥できたら詳しい説明をして頂きたいです。」

「勿論そのつもりです。‥すみません。本来なら説明を先にすべきでしたが、彼女の状態が良ければすぐにでも、あなたに見せたくて‥、こちらも気が急いてしまいました。」

「‥あっ、いえそちらを責めている訳ではないのです。‥その‥すみません。こちらも少しあなた方を警戒しすぎていたようです。」

ラファエル侯爵はそう言うと、俯いていた顔を上げました。

ラファエル侯爵から見たモサド氏は、穏やかな笑顔を浮かべており、敵意など見受けられませんでした。それに、ラファエル侯爵の言動の全てを好意的に受け止めてくれているようでした。

モサド氏の方も、ラファエル侯爵とのこのやり取りのなかで、彼がこの研究所へやってきた時よりも大分落ち着いてきた事が分かりました。そこで彼は早速包帯の女性がここへきた経緯からここにいる理由、それにこの施設の事等を、彼に話し始めました。







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